CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

綾戸智絵さん編

「教育についてシリーズの対談をしませんか」という
依頼をいただいた。
なんにも考えていない、というわけじゃないけど、
ぼくなんかが教育についてなんて口幅ったいなぁと思って、
やめとこうとしたんだけど、ふと思いついたことがあった。
相手の方の人選しだいでは、なにかできそうだぞ。

ぼくの頭に浮かんだのは小野田寛郎さんの自然塾のことや、
神奈川大学の駅伝の監督・大後栄治さんのことだった。
綾戸智絵さんのことも横尾忠則さんのことも思い浮かぶ。
そういう人と教育のことを話したら、
きっと違う何かが見えてきそうだ。
「引き受けさせていただきます」と、答えることになった。

 

第1回 ラミネートチューブを絞りきる

糸井 こんにちは、綾戸さん。
綾戸 はよ対談やろう、はよしゃべろう。
糸井 すごい(笑)。
よし、しゃべろう。
綾戸さんはデビューして4年経つけど、
実はもうそろそろ、成長しないで
安定していくのかもしれないと思っていました。

でも、こないだのコンサートはびっくりしたよ!
(※対談の5日前にコンサートに行っています)
すごい声が出るようになっていたし。
何なの、あの声は?
綾戸 わからん。
「あなたの声は出なくなるよ」
と昔に言うた医者が、気分悪うしてるもん。
当時は「治るかもね」じゃなくて、
きっぱりと断言されたからねぇ。
わたしも、そういう人生計画を立てたんだけど。
糸井 「声が出なくなるなら歌っとこう」
と思ったわけでしょう?
綾戸 そう。
声の出るうちに歌っといて、あとは
手話の通訳をつけてもらおうと計画してた。
糸井 それが、ねぇ?
特に、低い音がめっちゃくちゃ出てたじゃない!
綾戸 フフフ、
あのね、私わかってきたんよ。
たぶん、お味噌を上手に
使い切れるようになったようなもんや。

味噌袋に味噌が入ってて、それを最後の最後まで、
一発で上手にキューッと出せるようになったんやわ。
糸井 ・・・ということは、その声は
声帯からだけ出てるんじゃないんだね?
綾戸 指の先の空気も全部使ってるわ。
ラミネートチューブを絞りきるみたいにね。
残り少なくなったマルコメ味噌の袋にお湯を入れて、
きれいにビニール袋からみそを取り去るような。
糸井 でも、綾戸さんはそれまでの人生だって
ラミネートチューブみたいなものだったよね?
綾戸 でもほんとうは努力が足らんかった。
やっぱり口先だけやったわ。

いまの状態も、
病気がよくなったのかというと、
別にそうじゃないんです。
やっぱりレントゲン撮ったら、そんなによくない。
いまも昔も、そんなに変わらない。
だけど昔はどこかで心が止まってて、
努力をしてなかった。
糸井 いまでも、力を入れないでしゃべると、
聞こえない声になるの?
綾戸 (小さな声で)なる・・・。
糸井 その声?
ぜんぜん違う声ですよ。
綾戸 (小さなかすれ声で)
・・・生活の中で使うのはこういう声。
みんなに会う時は・・・おなかの底から・・・
(はっきりした大きな声で)
「おはよう!」って、言うてる。
気合い入れたら、こうなるねん。
そやから、よその人から見たら、
「おかん、何怒ってるねん」
っていう感じになってしまう。
別に怒ってないのよ(笑)。
糸井 でかい声なだけ。
綾戸 気合い入れないと、しゃべれないからね。
わたしがいつも
「おはようっ!」
って事務所に入ってくるじゃない?
みんなは縮みあがるのよ。
「・・・何か悪いことしたかなあ」って。
「おはよう、お茶ちょうだあい!」
言うてるだけやのに。

まあ、もともと口は悪いんやけど。
糸井 それは、声の気合いとは別だよね?
綾戸 うん。
そやけど、ほんまにラミネートチューブを
全部使い切るような努力が、
「声が出ないおかげ」で、できるようになった。
糸井 なるほどね。
綾戸 料理の番組で、鍋の底にちょっちょっとついてるのも
「もうちょっと食べるとこあんのに」
と思うとき、あるもん。もったいない。
糸井 ほかの人が普通にしゃべってる声ももったいない?
綾戸 思うねぇ。コーラスを聴いてても思う。
糸井 ぼくは声が小さいやつのことは気になります。
「なんで伝えようとしないんだ」と思うんですよ。
綾戸 わかるわ。
たしかに、誠意は薄まるかなぁ。
糸井 そう、「誠意」。
誠意はないよねえ。
伝えようとする気持ちがないね。
綾戸 矢印が薄ーぅなるね。
声が小さくていいことがあるとしたら、
人が「ん?」と思ってくれることや。
それで人を一段階寄せることはできる。

だから、わたしみたいに努力して声を出す人は、
バラードを歌うときにつらいわ。
しぼめて歌うことぐらい、つらいことないわ。
糸井 でも、今回のコンサートでは
ずいぶん小さい声出してるじゃない?
綾戸 努力しましたあ。
糸井 苦しいんだ?
綾戸 「気合いを入れたら出る」という感じで
出してるこの声を
「優しく出す」のは、つらいねぇ。
鬼の指で針穴を通すようなもんや。
か細い指なら針穴に糸を通せるけど、
ぶっとい手して、針穴通すのは、
そりゃ、つろうおまっせ。
糸井 ところで、いま何歳だっけ?
綾戸 44歳。
糸井 デビューが40歳だったよね。
4年間くらいでは、ふつう、
進歩ってあんまりしないじゃない?
綾戸 進歩とビューティーのくり返しですよ。
糸井 (笑)ビューティー。
綾戸 自分でも、
「おお、きれいになったなぁ」って思うもん。
デビュー当時の写真見てごらんよ、信じられない。
「このおばはん、だれや」ってなもんで。
糸井 そういうのに対して、うなずくのもなんだけど、
たしかに綾戸さん、きれいになったよね。
綾戸 おおう!
前はどんなに汚かったことか。
糸井 そこまではおれは言わないけど(笑)、
少なくとも以前は、街にまぎれこんでた。
綾戸 そう。ふつうのおばちゃんとしてね。
性格はいまと同じやけど。

服装も変わったわぁ。
「なによ、グッチだのヴィトンだの」
なんて、もう言えないね。
やっぱりああいうのを着ると違うのよ。
コカ・コーラの上下のスエットスーツ着てると、
「もうどうでもええわ」って
ボリボリ頭掻いてしまうもん。

それと、褒められるとうれいしいねぇ。 
同窓生なんかが「テレビ見た」とか言って
会いにきてくれたときに
朽ち果ててるのを見るとさ、
「ウワッハハハ」と思うもんね。

「綾ちゃんは、変われへんね」
「うん。努力じゃ!
 努力しとるからじゃい!」
(つづく)

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2002-02-10-SUN

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綾戸智絵さん
(プロフィール)

2002-02-10  第1回 ラミネートチューブを絞りきる
2002-02-12  第2回 「ひとりじゃない」ということ
2002-02-13  第3回 時間に振り回されたら死ぬぞ
2002-02-17  第4回 なぜ結果ばかりを気にするの?
2002-02-19  第5回 野良犬からも学ぶ
2002-02-21  第6回 レディ・セット・ゴー
2002-02-25  第7回 マイナス40のおかげで、プラス40飛べる
2002-02-28  第8回 親は言えないけど、大切なこと
2002-03-01  第9回 教科書は世界
2002-03-04  第10回 綾戸さんの目標
2002-03-07  第11回 語りと歌は同じになる
2002-05-19  第10回 構想60%で、修正しながら目標完遂