CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第9回 教科書は世界

綾戸智絵さんのプロフィールはこちら。

糸井 子どもが学校に行かないと、
どこかから怒られたりはしないの?
綾戸 しました。
糸井 あ、やっぱり。
それはどうしたの?
綾戸 怒られたときに、その担当の人に
「あんた、そしたら、
 『学校に行ったらこの子の人生は明るく開けて、
  ハナマルな、すごいいい人生になります』
 って誓約書書いてくれる? 
 それだったら、学校行かせるわ」
と言ったの。
そうしたらその人は、
「いや、書けません」
って答えた。
「学校に通うというのは、約束ごとなんで」
「約束ごとって、いま世間で、
 いろいろつぶれてるじゃない。
 『こうなってたことがだめになった』
 ということがあるじゃない。 
 学校に通う、という約束ごとも、
 時代でつぶれることあるかもしれんでしょ?」
「あるかもしれません」
「そんなことに、あんた、かけられへんわ。
 死ぬときは、わたし
 息子殺して自分も死ぬから大丈夫」。
糸井 ハハハハ。
じゃあさ、子どもの、
普通の「読み書きそろばん」にあたる勉強は、
綾戸さん自身が教えたの?
綾戸 わたしとおばあちゃんと、
それから世間とね。
糸井 教科書みたいなのって使ってる?
綾戸 うん、世界。
糸井 え? 世界!
綾戸 まずは地下鉄だね。
地下鉄の、駅名の漢字を全部読ませた。
糸井 おもしろいなぁ。
よく考えたら、画一的に教えるより、
労力はかかりそう。
綾戸 最初に地下鉄の、
500円のマップを買ってきて。子どもに、
「おい、ひとりで麻布十番まで行ってこい」。

どこで乗りかえるか、どっちに乗るか、
漢字読めなかったらできないでしょう?
子どもは漢字を一生懸命見て、
「ママ、あのシン、シンヤド……」
「新宿だね」
「ああ、ジュクとも読むんだ」。

それから、看板も教科書になる。
「あ、ママ、スズメのおジュク」
「ヤドだ、あれは」
とか言うてね(笑)。
だから、あいつは
「出る」を「イデル」と読んでたの。
ガソリンスタンドの出光(イデミツ)で
覚えたからね、あの漢字を。
糸井 はあ・・・。
じゃ、同じ年代の子が
どういうことを学んでるかなんてことは、
綾戸さんにはあんまり関係ないんだ。
綾戸 うん、知らない。
糸井 それ、気にしはじめたら
どうなるのかな。
綾戸 一時期、すごく気にしたことがある。
「こうしないとだめですよ」と周りに言われて、
すっごく迷ったんだけど。
ワアワア、ワアワア、きりがないからね。
あるとき
「もうやめよう、聞かんとこう」
ということにした。
糸井 そうだよね。
例えば、社会科でいえば
「小学4年生で地元のことを習って」とか、あるでしょ?
その後、日本を習って、世界を習う。
でも、その順番で習ったって、
テストで0点取り続けたら
習ってないのと同じことじゃない?
綾戸 テレビ見ててびっくりしたことがあるんよねぇ。
街頭で「アメリカのシカゴはどこですか」
と質問されて金髪の高校生が答えられなかった。
びっくりした。

あの「赤っ恥」いう番組は
じつにわたしを揺るがすね、ええ番組や(笑)。
あれ見たときに、
「おっ、大丈夫だ。あの子ら、セーラー服着て、
 学校に10年近くは行ってるのに
 シカゴがわからない。
 うちの息子のほうが知ってる」
飛行機乗ってるとき、教えたからね。
ナビの画面見ながら。
糸井 でもそれは逆に、
面倒くさがりの親には大変なことなんだろうね。
学校に行ってさえいれば
安心していられるんだから。
そこのところを綾戸さんは
そうはいかないもん。
「今度はこれを教えよう」とか、
思いつくわけでしょう?
綾戸 そう、思いつく。
麻布十番の漢字を全部読めるようになったら、
「あれをアザと読んだり、アサと読むんだよ。
 ブはヌノだよ」
と教える。
「カケブさんじゃないんだね」
「カケフだよ」
とか言うてね。
糸井 同時にいろんなことを
いろんな角度から経験させることもできる。
綾戸 そうですね。
それと、自分の知らないことは、
誰かに電話をかけて、聞く。
あるとき子どもが
「アフガニスタンとかカザフスタン、
 あのスタン、スタンって何なの?」
って聞いてきた。
「ママもわからない」(笑)。
糸井 スタンだらけの場所だものね。
綾戸 「人種のことかな」
とか、わたしもいろいろ考えて、脳みそ使う。
子どものほうも
「いや、あそこはクルド人とかいろいろいるから、
 人じゃないの? それとも王国ってことかな」
とか、いろいろ言ってるの。
「わかんない。ママはそのぐらいの程度やねん。
 あのおっちゃんやったら
 知ってるかもしれないから、
 電話で聞いてみよう」
糸井 大人がわからなきゃわからないで、
「このくらいわからない」
ということがわかるしね。

子どもが地方公演なんかに
ついていったりすることもあるの?
綾戸 あるよ。でも、自分のシチュエーション考えて、
「メンバーとこの曲を合わせないかんから、
 すごい時間がかかる」
と思ったときなんかはやめるし、
おばあちゃんが体調悪いとか、
子どもと一緒に行くことで
雰囲気が丸くなるときは連れていく。
めったやたらに連れていくんじゃない。
糸井 じゃ、ある意味では、遠いメンバーだね。
綾戸 そうだね。いろんなことを
判断しつつ、そのときに応じたやりかたで。
糸井 胃にあたる綾戸さんの脳が
いちいちそういうことを
判断し続けているわけだね。
綾戸 うん。ファジーにするわけ。
糸井 その都度というのがすべてなんだね。
決まりをつくらないで。
綾戸 はい。
そのときに考えればいいことは、そのときに。
だから、よく寝れる。
3時間、ピターッと寝ます。
糸井 え、3時間なんですか?
綾戸 3〜4時間で充分ですね。
糸井 ・・・ナポレオンみたい。
綾戸 1万人か10万人に1人の割合で、
寝なくていい人いてるっていうでしょう?
あれかもね。
でも、旅に出ると寝ちゃうよ。
6〜7時間寝ちゃう。
でも、やっぱり家族がいたら、
3〜4時間ですね。

朝はパチって目があいたら、すぐに動くの。
「アアーッ」とか伸びたりすることもない。
寝るときは、「おやす・・・」。
「み」がないからね(笑)、言うてる間に寝てる。
起きるときは、「おはよう!」の「よう」のときには、
もう布団から出てる。
「おはよう、さあて」と言うてるそばから
ガーン、チーン、ガスの火をつける。
(つづく)

2002-03-01-FRI

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