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LIFEのBOOK ほぼ日手帳 2017

LOFT手帳部門12年連続NO.1

ほぼ日手帳 2017

見かたがわかれば、おもしろい!絵巻-emaki-の世界

第3回絵巻愛を、取り戻せ!

早送りも巻き戻しも、自由自在

――
展覧会などで見る絵巻は
広げて展示されていますが、
実際は手に持って見られていたんですよね?
上野
はい。本来は肩幅60cmぐらいずつ開きながら、
手の中で巻き進めて読みます。
ここに、現物と同サイズの
『鳥獣人物戯画』のレプリカがあるので
実際にお見せしますね。
両手で持って、左へくるくる回しながら開き、
ほどよいところで左手を止めて、鑑賞します。
次のシーンへ進みたいときは、
一度右手で巻き取って閉じてから、
また左手を動かし、開いていきます。
――
本当に、いち部分ずつ見ていくんですね。
そうか。60cm幅ずつだから、
さっきの「異時同図法」で
同じ人たちが近くに描かれていても
画面内で混乱するようなことはないんですね。
上野
そうなんです。それから、
「あ、今の場面、もう1回見たい」と思えば
自分で巻き戻せますし、
ゆっくり巻きながら見ればスローモーション、
速く巻けば、早送りにも見えるんです。
――
自分でコントロールできる。
上野
自分のさじ加減ひとつで、
物語の序破急が、なんとでもなる。
まさに、手の中で物語が展開しているんですよ。
――
すごい。
上野
そして、もうひとつ。
両手で持っている絵巻の
右手側が「過去」なんです。
で、左手側が「未来」なんですよね。
読んでいくときも、右手には見終わったものがあって、
左手には、まだ知らない世界がつまっている。
そういう時間の経過も楽しめるメディアなんですよね。
――
おもしろいです。
上野
でも、現代人は絵巻に愛着を持つ機会が
ほとんどないですよね。
展覧会場では広げて展示するしかないですし、
やっぱり左から右に見ちゃう人がいるんですよ。
ああ、「絵巻愛」がなくなっているんだなって。
――
絵巻愛。
上野
絵巻って日本人の個性がつまったものだし、昔の人たちの
こんなにも想像力豊かな世界が広がっている。
それを日本人としてぜひ
知ってほしいなって思うんですね。
だから、今回の企画展では、せめて
昔の人がどうやって絵巻を愛していたのか、
どれだけ熱狂していたのかを
生々しい日記類と突き合わせながら、
お見せできるような展示を考えてみたんです。

絵巻マニアたちの日記

――
絵巻を愛していた昔の人って
どんな方々だったんですか。
上野
絵巻を作るには、依頼する人がいて、
言葉を書く人がいて、絵師がいて‥‥
総合的にお金がかかるんですね。
だから本当に身分の高い一定の人しか
絵巻を作れなかったし、鑑賞できなかったんです。
――
ああ、そうか。
上野
だから、絵巻は完全なオーダーメイドでした。
他の誰かから借りた絵巻で
どうしても気に入ったものがあれば、
手元に置いておくために、
模写をすることもよくありました。
――
それは、大変ですね。
貸し借りも、多かったんですか。
上野
絵巻ってコンパクトになるし、
本当に持ち運びやすいものなので
「誰かがおもしろい絵巻を持っている」
という情報を人づてに聞きつければ、
絵巻マニアたちは、取り寄せるわけです。
2~3日で読んで返したり、
26巻セットを4泊5日で借りて、
そのうち1巻を延滞する、みたいな。
――
DVDのレンタルみたい(笑)。
たしかに、大きい屏風は借りにくいけれど、
絵巻なら、携帯もしやすいですよね。
上野
昔の人の日記に、そういうことが
たくさん書かれているんですよ。
――
貸し借りには、貸し出し料とかが
発生したりするんですか?
上野
日記には、お金のことは書いてありませんでした。
「借りた」、「返した」だけで。
でも、たぶん、ギブ&テイクで、
「借りたからには、今度は貸すよ」っていう
やりとりはあったと思います。
――
マニアの人って、そうやって
日記を書いていたんですね。
上野
ああ、それは、
今回の展覧会で取り上げるのが
天皇や皇族の方、貴族、将軍といった
日記が残っている人を
選んでいるから、ということもありますが。
――
なるほど。その日記には、
絵巻の感想も書いてあるんですか?
上野
書いてありますよ。
「珍重すべきものなり」とか、
「殊勝殊勝」って、2回繰り返してみたりとか。
あとは、「感動で涙した」とか。
よほど、よかったんでしょうね(笑)。
――
涙まで‥‥。
上野
たとえば、今回複製を展示している『看聞日記』は
皇族の後崇光院(ごすこういん)という方が書いたものですが、
この方の日記の中に「電覧(でんらん)」っていう文字が
たまに出てきているんです。
たぶん、絵巻を高速鑑賞していたんでしょうね(笑)。
――
高速鑑賞!
上野
稲妻のごとく鑑賞する(笑)。
――
そうとうおもしろい絵巻だったんですね。
ちなみに日記の形式はどういう感じですか。
ほぼ日手帳みたいな「1日1ページ」ということは
さすがに、ないですよね?
上野
1日1ページという感じではないですね。
縦書きで冒頭に「何日」って書いて、
内容をその左につなげて書きます。
ノートの端からつめて書くみたいに。
――
ああ、なるほど。
上野
しかも、日記自体も巻物なので、
どんどん紙を継ぎ足していくことができたんです。
――
日記も巻物なんだ!
継ぎ足しながら、日々のことを
どんどん書いていったんですね。
上野
こんなふうに、マニアたちの熱狂ぶりは
すごかったんですよね。
いま「大人がマンガを読む時代になった」とか
言われますけど、
70代ぐらいで『放屁合戦絵巻』を楽しんでいた
皇族の方もいたわけで(笑)。
――
大人がマンガ読むどころじゃないですね。
上野
それに、日本のマンガがいま
世界で認められつつありますが、
その何百年も前から
こういうものがあったって思えるのも、
日本人としてうれしいですよね。
――
はい、そう思います。
今日は絵巻についていろいろお聞きできて
おもしろかったです。
ありがとうございました!
(おわります)