- 田中
- 「青年失業家」と勝手に「青年」と名乗ってますけど。
- 糸井
- 27ですからね。
- 田中
-
27歳、心は(笑)。
会社を辞めた理由の1つが、
人生がすごく速く感じるようになったからなんです。
みんな感じると思うんですけど、20代と40代だったら、
日が暮れるのも倍以上早くなるし。
これ、うちのばあさんが80いくつで死ぬ前に言った
忘れられない一言なんですけど、
「あぁ、この間18やと思ったのに、もう80や」って(笑)。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 素晴らしい。
- 田中
- 60何年の時間をピョーンって、そりゃあ速いわなぁっていう。
- 糸井
-
泰延さんは今、ものを書くプロになるかアマチュアか、も含めて
問われていることが山ほどありますよね。
みんな「何やって食っていくんですか?」って聞いてくる。
面倒くさい時期ですよね。
- 田中
-
そうですね。今まで担保されてたものがなくなったので、
みんなが質問するし、僕もどうやって生きていこう?
ってことを考えるし。
僕からの質問なんですけれども、
糸井さんが40代で広告の仕事を一段落つけようと思った時も、
やっぱりこういうことに直面されたんですか?
- 糸井
-
まぁまさしくそうです。
言えないようなことも含めて、もっと冒険ですよ。
プライベートと一緒ですから。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
いや、大冒険です(笑)、大冒険です。
でも平気だったんですよ。
1つは、カミさんがいたことはでかいんじゃないかな。
- 田中
- うーん‥‥。
- 糸井
-
「こういうことになるけど、いい?」って
俺は聞いた覚えもないし、
後で「あれは聞くべきだったかな」みたいなことを聞いたら
「いや、別に」って。
たぶん自分が働くつもりでいたんじゃないですかね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
それは相当でかいんじゃないかな。
でも、カミさんが「働きたくない」って言っても、
案外、平気だったような気がする。
- 田中
-
今日実はね、サイン貰おうと思って
電通入る時に買った『糸井重里全仕事』を持ってきたんです。
- 糸井
- あぁ、はいはい。
- 田中
-
今の糸井さんを考えると、全仕事でもなんでもなくて
数パーセントなんですよね。
でも広告の仕事はそこで一区切りついている。
一区切りつけて違うことに踏み出そうと思った時の
気持ちをお伺いしようと思ってきたんです。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
糸井さんと初めて京都でお会いした時、
タクシーの中で最初に聞いたんです。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
「ほぼ日という組織をつくられて、その中
で好きなものを毎日書くという状態にすごく興味があります」
って言ったら、
糸井さんが「そこですか」っておっしゃったんですよ。
それが忘れられなくて。
- 糸井
-
辞めると思ってないから。電通の人だと思っているから。
「あれ? この人、電通の人なのにそんなこと興味あるのか」
って「えぇーっ」と思いましたね。
- 田中
-
その時、僕も辞めるとはまったく思ってなくて。
辞めようと決めたのは去年の11月の末ですからね。
- 糸井
- 素晴らしいね。あぁ。
- 田中
- で、辞めたのが12月31なんで、1ヶ月しかなかったです。
- 糸井
- 素晴らしい。
- 田中
-
辞める理由はこの間たまたま書いたんです。
理由になってないような理由なんですけど。
- 糸井
- ブルーハーツ?
- 田中
-
はい、ブルーハーツです。
50手前のオッサンになっても中身は20ウン歳のつもりだから
「リンダリンダ」を聞いた頃を思い出して
「あ、このように生きなくちゃいけないな」って思ったんです。
かと言って「熱い俺のメッセージを聞け」ではないんですよ。
相変わらず何かを見て聞いて「これはね」って
しゃべるだけの人なんですけど、でもなんだか
「ここは出なくちゃいけないな」って思ったんですよね。
- 糸井
-
僕はやりたくないことから本当に逃げてきた人なんです。
逃げたというよりは捨ててきた。
それは、「他の何かやりたい」というよりは、
「やりたくないことをやりたくない」という気持ちが強くて。
人は案外、やりたくないことに人生を費やしちゃうんですけどね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
広告も、次第にどうしてもやりたくないことに
似てきたんですよ。
「プレゼンの勝率が落ちたら、もうだめだな」
とは思っていたんです。
「なんでこのまま、『あいつ、もうだめですよね』って
言われながら仕事やっていかなきゃならないんだろう?」
って思うだろうなと。
みんな、僕のことを「あいつもうだめですよね」
って言いたくてしょうがないわけですよ。
「はぁー、こういう時代にそこにいるのは絶対に嫌だ」
と思って辞めたんです。
- 田中
-
でも、糸井さんの広告のお仕事見ていると
「この商品の良さを延々と語りなさい」
っていうリクエストに応えたことはないですよね。
やりたくないことはしていないように見えました。
- 糸井
-
「僕にはこの商品がこう見えた、これはいいぞ」
って思いつくまでは書けないんです。
だから僕は結構金のかかるコピーライターで、
車の広告を作るたびに1台買ってましたからね。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
-
「いいぞ」って思えるまでがちょっと大変なんです。
お酒の広告を作る時も、お酒は飲めないけど
その分どうやって取り返そうか試行錯誤しましたし。
やっぱり受け手であるということに
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
-
で、僕にとってのブルーハーツに当たるのが
釣りだったんですよね。
そして釣りにも試合のようなものがあるんです。
その中で勝ったり負けたりして血が沸くんですよ、やっぱりね。
- 田中
-
「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」
ってこの前おっしゃっていましたね(笑)。
- 糸井
-
そう。僕はプロ野球も好きなんですけど、
そのキャンプ地に向かうまでの道のりに何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに水を見ているんです。
野球のキャンプの見物に行くのに
折りたためる竿を持っているんです。
- 田中
- 持っているんですね(笑)
- 糸井
-
正月は正月で、家族で温泉旅行に行った時、
海水浴場の砂浜で一生懸命投げてる。
それを妻と子どもが見てるんです。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- まったく釣れないんですよ。根拠のない釣りですから。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- でも、根拠がなくても水があるんです。
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
いいでしょう?
これ、僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- もう今初めて説明できたわ。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- 根拠はなくても水があるんです。
- 田中
- 根拠はなくても水がある。
- 糸井
-
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火を点けたところがある。
僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。
- 田中
-
水と魚、はぁ。
その話がまさかインターネットにつながるとは。
でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
- 糸井
-
広告を辞める「ここから逃げ出したいな」
っていう気持ちと同時に
「水さえあれば、魚がいる」
って期待する気持ちに釣りでつながったんでしょうね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- うわぁ、素敵なお話ですね。
- 田中
- いや、本当に(笑)。はぁ。
- 糸井
- こんなおもしろい話をただでみんなに聞かせる。
- 田中
- いやぁ、今日はいい話聞きましたよ、本当に。
- 糸井
-
泰延さん、「これからどうなる?」なんてこと
ここじゃ聞かないですけど。
公な所じゃなくて、もっといびれるような所で
聞きましょう。
- 田中
-
いじめてください、もう。
で、今ずっと思っていたんですけど、
そのバッジは何なんですか(笑)?
- 糸井
-
これですか?
服着たら付いてた。
- 田中
-
(笑)。
僕も途中から、「あれ?」と思ったんだけど(笑)。
これね、上田豪さんっていう人が勝手に作って。
- 糸井
-
素晴らしいよね。「青年失業家」のために。
そして1時間のはずが、2時間。
収まらないよ、やっぱり。
今日はお疲れ様でした。どうもありがとうございます。
- 田中
-
ありがとうございました。
(拍手)
<終わりです。ありがとうございました!>