いろどり 稼ぐおばあちゃんたちの町。  徳島空港から車で1時間半、 人口2000人の上勝(かみかつ)町。 葉っぱのビジネスで大成功をおさめ、 まるで特別な場所のように言われる町です。 そこに住むおばあちゃんたちは、 そりゃもう、輝くような笑顔。 いったいなぜこんなことになったのか?! 知りたい、知りたい、という山田真哉を連れて 糸井重里が訪れました。 images



15 息子が手を合わせる。

横石 最近すごい思うんは、
みんなの家族の仲がよくなってきたな、
ってことです。
自分の仕事を持って、
自立していくことが原因かなあ。
糸井 きっと、家族の中に
邪魔な人がいなくなるからでしょうね。
横石 うん。そうかもね。
家の中でおじいちゃんおばあちゃんの
存在感が強くなるほど仲よくなる。
大きくなった子どもたちが、
昔やったら土日にも帰ってこなかったけど、
いまは、たのしいから
しょっちゅう帰ってきて、
いろんな手伝いをしています。
日曜日なんか、農協におったらもう
孫車(まごしゃ)ばっかりやわ。
山田 へーーーー! 孫車!

15 息子が手を合わせる。
横石 きれいなお姉さんのような
格好したような子がおって、
どこのかいらし子やろなあ、と思てたら、
車の後ろに、ばあちゃんの手伝いして
「いろどり」摘んできたん載せて、
こっち見てニコーッて笑て
「これ! お願いしまーす!」て言いよる。
そんなんが増えてきた。
それでお小遣いもらってスーッと帰る。
糸井 最高のかたちですね。
山田 お小遣いをあげるほうも、
うれしいですし。
横石 おばあちゃんも張り合いになる。
でも逆に、孫かて、おみやげを
買ってくるんよ。
菖蒲さんとこにある人形、見ました?
ああいうものを
「ばあちゃん!」て孫が
買ってきよる。
似とるやろ、って。そっくりや。
似とんなあ。
もう、そらね、両方がうれしいてね。

15 息子が手を合わせる。
糸井 おじいちゃんおばあちゃんが協力し合って、
ふたりでいっしょけんめやってる。
それを、子も孫も、うれしいんだね。
横石 そうです。
だから、土日にぼくらがこのあたりを回っていると、
帰ってこられた息子さんたちにお会いして、
「ほんまにありがとうございます」
と手を合わされるときがあります。
「親がこうやって、
 老人ホームや病院に行かずに
 ぼくらに小遣いまでくれて、
 ほんまに感謝してます」
って、言うてくれます。
ほんま、これは、うれしいです。
ありがたいなと思います。
みなさん、親(おばあちゃんたち)の前では、
ぜったいに、そういうことは言わないですけどね。
こっそり言ってくれる。

じゃ、日も暮れてきたし、
針木のばっちゃんとこ、
あいさつだけ、行きましょうか。
菖蒲 ありがとう。また来てな。

15 息子が手を合わせる。
山田 ありがとうございました!
さようなら。
糸井 またね!

15 息子が手を合わせる。
横石 ばっちゃんおるかなあ。
糸井 針木さんは、
この町の松坂投手みたいなもんだよね。
お店屋さんをやってるんだけど‥‥
あ、ここ、ここ。
「ただいま! おばあちゃん」

15 息子が手を合わせる。
針木 寄ってくれるやろと思てな。
用意しとったんよ。
ゆず食べるかな?

15 息子が手を合わせる。
糸井 食べる食べる!
独り占めするよ。
‥‥こちらは、娘さん?
お嫁さん?
孫嫁 孫嫁です。
横石 ここは、4世代おるからね。
ひ孫 糸井さん、サインください。

15 息子が手を合わせる。
山田 サイン帳ですね。
ベッキーさんのサインもしてありますよ。
ひ孫 石塚君のサインもあるよ。
糸井 ほんまや。
こんなの持ってる人いないよ。
おばあちゃんのおかげや!

15 息子が手を合わせる。

15 息子が手を合わせる。
横石 80超えてキラキラしとるよね、針木のばあさん。
ものすご稼ぐんよ。
山田 いやぁ、みんな仲いいですね。
横石 孫娘さんなんか、
市内のバリバリの現代っ子やけど、
そらごっつい「ばあちゃん、ばあちゃん」言うてね、
ありがたがって。
あんなにおばあちゃんを立ててる家なんて
なかなか少ないですよ。
糸井 なんやかんや言ってね、
人はやっぱり強い人についていきたがるんですよ。
悲しいけれどそうなんですよ。
「この人はいつか作家になるから
 信じてついていく」
とか、そういうことは、
実際はあんまりないんですよね。
横石 ははははははは。
山田 強くなったおばあちゃんがいることが、
家族も町も仲よくしていくんですね。
ここに来ることができてよかったです。
ありがとうございました。


帰りがけ、
上勝町のゼロ・ウェイストアカデミーに寄って
古くなった浴衣の生地でつくられた
ふんどしを買って、
ごきげんに東京行きの飛行機に乗った糸井重里。

15 息子が手を合わせる。

山田真哉の鞄には
菖蒲さんにいただいたハランが、
同行した撮影スタッフの鞄には
山桃の実がおみやげにどっさり入っていました。

15 息子が手を合わせる。

美しい水と空気と山と葉っぱに満ちた山郷に住む
笑顔で、強い、稼ぐおばあちゃんたち。
どこを触れても気持ちのいいこの町のなりたちは、
横石さんというひとりの人が
そこに住む人たちといっしょになって、
何年にも渡ってつくりあげたもの。
そのことを、それぞれに
う〜んと深く考えながら
一行は青山に戻ったのでした。

今日で「いろどり」の連載はおしまいです。
みなさんの身近なところでも、
あたらしい「いろどり」が
はじまっていくのかもしませんね。
ご感想をどうぞpostman@1101.comまで
お寄せください。

15 息子が手を合わせる。
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2006-10-27-FRI




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