いろどり 稼ぐおばあちゃんたちの町。
1儲ける気まんまんの痕跡。

糸井 「機会があれば、糸井さんに
 ぜひ見てほしい場所があるんです」
と立木さんから聞いて、
笑福亭鶴瓶さんといっしょに
テレビ番組のロケで行ったのが
上勝を訪れた最初です。今回は、2度め。
「いろどり(彩)」は、かんたんに言うと
葉を収穫して、料理の飾りつけに使われる
「つまもの」として出荷する事業です。

立木 葉っぱを採って
年収1千万円を超えるおばあちゃんも
いるんですよ。
山田 話には聞いているんですが、
すごいことですね。
糸井 といっても、自然の山にわけ入って
葉っぱを採るんじゃなくて、
いわゆる「養殖」なんですよ。
家のそばに木が栽培してあるの。
ちょっぴり夢がなくなったかな?
でも、稼ぎだすわりに
投下資本があまりにも小さくて
それはそれで、絵にならないくらいだよ(笑)。
横石 ほんまにそうですよ。
糸井 「おはよ」と言ってすぐガッと取って来れる近さに、
おばあちゃんたちは苗木を植える。
そのたくましさが、たまらなくいいんです。
絵になる部分はブランドになるんだけど、
ほんとうの「仕事」になっている部分は
絵にならないね。
どんな仕事もそうだと思うんだけど
その「ブランドにならない部分」を
ばらしても平気な、ずぶとさのようなものが
この「いろどり」にはある。
山田 このハウスは?
横石 みんな「いろどり」用です。
山田 ふしぎな光景だなあ。
みなさん、儲ける気まんまんですね。
立木 50センチ四方の空き地があったら、
おばあちゃんたちはみんな
何かを植えますからね!
山田 うーーーん。そうか。
のんびり葉っぱを採るんじゃなくて、
みんながつがつ取り組んでいるんですね。
横石 これからちょっと移動して、
「いろどり」の葉っぱを採っている
菖蒲さんというおばあちゃんのところへ行きます。
山田 ところで、こんな山奥に
アーリーアメリカンふうの
家が建っていますけど‥‥。

横石 Uターンしてきた
いろどり農家さんの家なんです。
新築ですよ。
立木 廃村になってもおかしくないような
高齢化比率の町で
こんなふうに、どんどん新築の家が
建っているんです。
「いろどり」の農家さんに行って、
お手洗いを借りると
だいたいの家がウォシュレットなんですよ。
糸井 はははは。
山田 この建物は?
横石 これは町営住宅。23世帯入っています。
最近では、IターンやUターンの人たちが
入ってきています。
山田 すごいなあ。
なんなんでしょう、いったい。
横石 このあたりまでくると、
まわりはぜんぶ「いろどり」用の木ですよ。
なんとなく植わってるかんじで、
わからないでしょうけど、畑なんです。
あの正面の斜面も、上から下まですべて
植えられた木です。

山田 木がみんな低いですね。
糸井 おばあちゃんたちの
手の届くところじゃないと
意味がないからでしょうね。
「去年あそこの葉っぱを取り損ねたから
 ウウウー、今度はもっと低く!」
なんてやってるんじゃないでしょうか(笑)。
高いところの木、
きっと怒るくらい嫌なんだよ、みんな。
山田 自動車工場などでも、
「人間の手の届く範囲」をベースに
工具の位置からスイッチ類やら、すべてが
改善がされていくと言われますからね。
それは、ほんとうに、
売り上げに直結することだから、
たいせつなことです。
糸井 そうだよね。
しかしこれ、案内してくれる人がいなかったら
葉っぱを栽培しているなんて
ぜったいわかんないね。
山田 このあたりはおっきな木がないですねえ、
くらいで(笑)。
横石 ほら、あそこも。
なんとなく植わってる、というのが
わかるかな。

糸井 わからない、わからない。
山田 わからない、わからない。
横石 ほら、この紅葉も。
山田 わかんないなあ。
糸井 だけど、たしかに紅葉が
急にあるね。
横石 ほらほら、あじさいの葉っぱとか、
びわ、つばき‥‥。

山田 木の大きさが不自然だから
言われればかろうじてわかるかんじです。
これらはみんな、つまり、畑ですか。
横石 ええ、畑です。
木が荒れてないでしょ。
地面に生えてるのも、雑草に見えるけど、
作物なんですよ。
視察に来られた方は、みなさん
畑にどかどかと入ってきちゃうんですが
「すみません、それ商品なんです」
って言わなきゃいけない(笑)。
これ(狭いスペースに木が1本生えている)も、
最近おばあちゃんが植えたんですよ。
山田 どれ? これ!?
横石 そう。植えたんですねえ。
糸井 投下資本ゼロに近い。
山田さん好みでしょう?
山田 はい、ぼく好みです(笑)。
でも、まったくゼロじゃないところが
重要なところなんです。
ゼロからは何も生まれないですから。
横石 そうそう、おっしゃるとおり。
「ぜんぜんない」んじゃないんです。
例えば、高い木を植えて、
その下に低い木を植える。
そうすることによって
すっごくきれいな、尖った葉ができる。
こういうことは、
ぼくらが教えられる技術ではないんです。
ここに昔から住む
おばあちゃんたちが持っている知恵なんです。
気象状況を読むこともそうだし、
台風が来ても傷まないよう
工夫して植えたものもありますよ。
何となく植わっているようやけど、
植え方、組み合わせ、すべて考えられたものです。
場所によってもうまくできる葉っぱが違うから、
たとえば、この場所に植えると
早く葉が赤くなるとか、
いろんな技術があるんです。
糸井 それに、あたらしいものをいろいろ植えて
みんながチャレンジしていますね。
どんな注文が来ても対応できるように
どんどんたくましく進化している。
すごいもんです。



(明日につづきます!)
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2006-10-13-FRI

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