いろどり 稼ぐおばあちゃんたちの町。
11 底にあるのは怒り、悲しみ。

糸井 政府や都会の社長に、
お話しをされる機会も多いと思いますが、
みんな、どういう反応なんですか。
横石 「何言うてるんやろうな」と
いう顔をされるのがほとんどです。
糸井 モラルに聞こえちゃうのかな?
横石 そうかもわからんね。
モラルではないんやけどね。

文化財が何だ、
地域おこしがどうだ、
ブランドをつくろう、
金儲けができるビジネスモデルを、とか
みんなが言うけど、それは前提。
ぼくは、「食えなきゃいかんのだ」という観点が
まずどっちかというと強いですね。
山田 事業を安定的に展開するための
技術とか、
そういうことでもあるんですね。
糸井 うん。それに、スタートラインがちがいますよね。
だって、仕事をしようと思って
「いろどり」は、はじめたわけだから。
横石 とにかく、ここに住む、
この人らに仕事がある、というのが
いちばん大事やと思たなあ。
糸井 横石さんは、おばあちゃんたちが一日中
だれかの悪口を言っているような暮らしというのが
ほんとは、腹が立って
しょうがなかったんじゃないでしょうか。
横石 そうです。
農業指導で町をまわっているときに、
縁側で嫁の悪口を言ってる人たちがいて、
お昼をすぎて、
もういっぺん同じ場所を通ったときも
まだしゃべってる。
何をあんなにしゃべってるんや!
すっごい、すっごい、
嫌だった。

糸井 それが原点なんだ。
横石 なんでそんなこと言うんかな、と。
糸井 人間をこんなに
ダメにしたのは何なんだ、ということですよね。
怒りが原点にあるね。
横石 みんなが忙しいて
みんなが自分のやるべきことを思てたら、
そんなふうにはならないわね。
糸井 横石さんは、ほんとは短気なんでしょうね。
横石 負けず嫌いやね。
「このやろう!」と思たら、
なんとしてでもやってやろう、と
思いますね。

ぼくがおばあちゃんたちに書くファックスを
見てもろたらわかるけど、
気が入ってしもとんよな。
「行くぞ」「やるぞ」いうてね。
それが、この人ら、わかるんやね。
糸井 エモーションだよ、エモーション。

山田 怒りのエモーションが
いちばん持続すると言いますからね。
糸井 うん。
怒りもそうかもしれないけど、
この場合は悲しみかもね。
山田 そうか。
悲しみは、変えたくなりますね。
糸井 そんなんアリかよ、っていう
思いですね。
横石 このファックスは、
こっちにおるときは毎日書きます。
山田 毎日。
糸井 「がっかりしたよ」とか
「これじゃだめだよ」とか
そういう言い方をされることはあるんですか?
横石 ぜったいないです。
「ああ〜」といっしょに
言うことはあるけど。

糸井 つまり、共感があるんですね。
横石 このへんは糸井さんと
似ているところがあると思うけど。
糸井 うん、似てるよ。
根っこの「怒り」な部分も、たぶん似てるよ。
このファックスは、横石さんが
ほんとうに思ってないと書けないものですね。
横石 みんな大笑いして見てくれます。
朝、起きたときに
あれせなあかん、これせなあかん、
というのが、最も大事なんです。
することがある、出番がある。
だから、80歳過ぎてても、
一日ずっと仕事ができるんです。
驚きですよ、一日中、仕事をしているんです。

年寄りは、やっぱり体のあちこちが痛いと思うよ。
ほなけど、あの人たちは痛くないんです。
休みの日が、いちばん痛いと言う(笑)。
人の気を育てるのが、いちばん大切なんです。

(つづきます!)
前へ 次へ

2006-10-23-MON

もどる
(C)Hobo Nikkan Itoi Shinbun