ジブリの仕事のやりかた。
宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。
ソフトを生みだす方法(作品を生む秘訣)って何だろう?
ソフトを仕入れる方法(アイデアの源泉)って何だろう?
職人を育てる方法(後継者を育てる技術)って何だろう?
……企画や制作に関わる人なら、誰でも知りたいことを、
日本的な職人集団として成長したスタジオジブリに学ぶ!

おもしろい何かを作りたい人へのヒントが溢れてるような、
特別集中連載が大好評のまま終わり、新作の公開直前には、
外伝で日本シリーズを見ながら話しあった談話をおとどけ。
『ハウルの動く城』プロデューサーの鈴木敏夫さんが登場。
(TBSラジオで放送の「チャノミバ」で、お会いしました)
中日ファンとしての鈴木さんの「物語論」は、おもしろい!

過去の連載は、宮崎駿さん、高畑勲さん、大塚康生さんの、
ここでしかきけないような仕事論が、あふれているんです。
思わず体を動かしたくなるような、勇気が出てくるような、
おもしろさを正面から問う企画を、まとめてたのしんでね。
連載の構成は「ほぼ日」の木村俊介が、担当いたしました。


 ひとりという出発点。


糸井 鈴木さん、こんにちは!
鈴木 こんにちは!

今回の糸井さんとの対談の
「スタジオジブリの仕事のやりかた」
というテーマを見て、ぼくはびっくりしまして。

ジブリでは、そんなに立派なことを、
やっていないですから……(笑)。
糸井 当事者はそう言うでしょうけど、
おそらく「やっていないんです」と
言っていたとしても、みんな、
ジブリならではの職人仕事のやりかたに、
興味を持っているとは思うんです。
鈴木 いやぁ、特に、
「人が育つこと」って、
いちばん困っているところ、なんですよね。
糸井 (笑)実は、どこの組織も、
それは、かなり痛いところだと思うんです……。
鈴木 「自分がやれる」ということと
「教えることができる」ということとは、
別の才能だったりしますからね。
糸井 たしかに、百点満点の才能ばかりが
集まるということは、
世の中ではありえないのに、その
「できないことがある」
ということは、才能のある人であるほど、
わかりにくいでしょうから。
鈴木 まぁ、宮崎駿には、
絶対にわからないことですよね。
糸井 宮崎さんは、やっぱり
「なんで、こんなことをできないんだ」
と思うのですか?
鈴木 宮さん(宮崎駿さん)は、
そもそも、自分のことを
「努力家」だと思っていますからね……。

ただ、ぼくがいつも宮さんに言うのは
「宮さんは天才なんだけど、
 みんなは、宮さんの言うようにはできないんだ」
という点です。そう言うと
「天才なんです」というところで、
彼はちょっと
ニコッとはするんですけどね(笑)。
糸井 (笑)悪い気はしない、と。
鈴木 ええ。

だけど、
「みんなはできない」というところを、
どうも理解できないみたいです。
「自分は努力をしている」
と思っているから。

たしかに、努力家でもあって、
観察者としてはほんとに徹底しています。
だけど、それだけではないでしょう。

ぼくはアニメーションの現場を、
もう、20年ぐらい見てきているわけです。
アメリカの制作者たちともつきあっていますが、
アメリカや日本ということを問わず、
宮崎駿とそれ以外の作り手の違いを、
最近つくづく感じるんです。

何が違うかというと、宮崎駿という人は、
本来は、長編映画を、
ひとりでぜんぶ作りたいんですね。

宮さんの場合には、
全体の構成だけではなくて、
どんなに細かい部分に至るまで、
ほんとはすべて、ひとりで作りたいんです。

ところがアメリカの制作者ならば
「長編というのはひとりでは作れない」
と非常に合理的に考えますよね。
ですから、アメリカでは、
まずはテーマを、主要な人たちで話しあうんです。
糸井 「チームで、考えを共有する」と。
鈴木 ええ。
「ひとりでは作れないから、
 分担をしなければならない」
というのは、前提であるはずなんですよ。
ところが、宮崎駿の場合には、観念としては
「みんなで作りたい」という気持ちは
あるでしょうけれども、
端で見ていると、どうしても、
ひとりでぜんぶを支配して作りたいようで……。

映画をどう作るかというときの、
宮崎駿の最大の特徴は、
「細部からはじめるところ」なんです。
その細部というのは何かと言うと、彼は
「主人公の洋服、どうしよう?」
と考えだすんです。


まだ、何を作るのかさえわからないときに、
まずそこを考えているものだから、
他の人は
そんなときにはクチを出せないですよね。
細部なんてもんじゃないでしょう?
糸井 (笑)まだ、その時点では
誰も知らない世界なんですから。
鈴木 いきなりぼくなんかにも、
「鈴木さん、今度のヒロインどうしよう?」
っていうんです。
何を聞きたいのかと言うと
ヘアスタイルなんですね。
宮さんの場合はカンタンなんですよ。
おさげにするか、おかっぱにするか、
長く描くか……だけど、
こっちはそんなことを言われたって、
わからないでしょう?

宮崎駿の中では、それは、
映画を作る上で、自分のなかの
とても大切なものなんです。
彼はそれをじーっと考えていて、
なにかの拍子に決めるんです。
そうすると、そこは結局、
誰にも手が出せないんですよ。
細部からはじめているから。
糸井 映画の品質保証が、
もうそこではじまっているわけですね。
99.999%の純度のものを生むとしても、
宮崎さんは「.999」のところを、
先に作ってしまうんだ。おもしろいなぁ。
鈴木 話はまだできていないにも関わらず、
その女の子のヘアスタイルは、
実は後々になって、
話にも関わってくるんです。
だからこそ、ほんとうに誰も手が出せないんです。
糸井 共同で作ろうとしたら、
そのやりかたは、困りますよね……。
鈴木 ぼくは、このことについては、悩みに悩みました。

まずは、
「宮さんはなんでそんな作り方するのかなぁ」と。
単純に
「みんなでテーマを話しあえばいいのになぁ」
とか思ってみたこともあります。
糸井 でも、宮崎さんからしたら
「なんでそんなことを、
 みんなでやらなければいけないんだ?」
ということですよね。
鈴木 そうなんです。
それに、実際、
みんなで一緒に作りはじめても、
その時点では、ふつうの人にとっては、
わけのわからないことばかり言う。

例えば彼の得意な言葉には
「作品を作るということは、
 脳味噌のフタを開けることなんだ」

というものがあるんですけれど……
それは、ぼくなんかは、
長く接している中で、
なるほどなぁとは思うんです。

ところが、若い連中がやってきて
「作品はどうやったら作れるんですか」
と聞いているときにも、
宮崎駿の答えはそれなんです。
言われたほうは、
真剣にそのまま聞いちゃうわけでしょう?
糸井 その宮崎さんの言葉は、
ほんとに見事だけど、
たとえば18歳の子には困りますよね。
鈴木 困りますよ……。
  (つづきます)




これまでの「ジブリの仕事のやりかた。」
  —宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。
—鈴木敏夫さん
2004-07-15 第1回 ひとりという出発点。
2004-07-16 第2回 神は細部に宿る?
2004-07-19 第3回 宮崎駿と高畑勲の共通点。
2004-07-20 第4回 ソフトを開拓する方法。
2004-07-21 第5回 アイデアは近くから拾う。
2004-07-22 第6回 宮崎駿と高畑勲の教師。
2004-07-23 第7回 才能を育てる方法。
2004-07-26 第8回 先人からのバトンタッチ。
2004-07-27 第9回 スタジオジブリの新人教育。
2004-07-28 第10回 ものを作るのは身体である。
—高畑勲さん
2004-07-29 第11回 さまざまな才能と組む方法。
2004-07-30 第12回 才能を引き出すための判断力。
2004-08-02 第13回 雑用係の仕事論。
2004-08-03 第14回 これさえあれば、やっていける。
2004-08-04 第15回 完璧なものは、つまらない。
2004-08-05 第16回 チームワークには準備が要る。
2004-08-06 第17回 日本人だからできること。
—大塚康生さん
2004-08-09 第18回 チームリーダーの条件。
2004-08-10 第19回 量の多さが、器の大きさ。
2004-08-11 第20回 すごい人は、淡々とやっている。

—ハウルの動く城・公開直前の最新談話!
2004-10-27 第21回 豊かさは、物語の中にある。
2004-10-28 第22回 『ハウルの動く城』公開前の気持ち。
2004-10-29 第23回 声優・木村拓哉くんの底力。
2004-11-01 第24回 中日ファンとしての物語論。
2004-11-02 第25回 いちばんだいじな物語。
2004-11-03 第26回 いちばんつらかった仕事。

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2004-11-03-WED

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