ジブリの仕事のやりかた。
宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。
ソフトを生みだす方法(作品を生む秘訣)って何だろう?
ソフトを仕入れる方法(アイデアの源泉)って何だろう?
職人を育てる方法(後継者を育てる技術)って何だろう?
……企画や制作に関わる人なら、誰でも知りたいことを、
日本的な職人集団として成長したスタジオジブリに学ぶ!

宮崎駿さんの相棒・鈴木敏夫さんとの熱い対談を皮切りに、
おもしろい何かを作りたい人へのヒントが溢れてるような、
そんな1か月ほどの特別集中連載を、おとどけいたします。

宮崎駿監督作品『ハウルの動く城』制作が終盤の時点での、
宮崎駿さんや高畑勲さんの仕事の方法は、かなり興味深い!
高畑勲さんへの直接インタビューも充実した内容のうえに、
宮崎・高畑両監督の師匠にあたる、大塚康生さんも登場だ。

思わず体を動かしたくなるような、勇気が出てくるような、
「おもしろさとは何だろう?」を真正面から問う企画です。
インタビュアーは「ほぼ日」の木村俊介でおとどけします。


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 すごい人は、淡々とやっている。

 
ジブリの仕事のやりかたを、さらに、
映像やドキュメンタリーで多角的に知りたい方は、
今回の連載をとおして触れてきた、
『「もののけ姫」はこうして生まれた。』
『世界・わが心の旅』
『大塚康生の動かす喜び』
『宮崎駿プロデュースの
 1枚のCDは、こうして生まれた。』
こちら4つの作品が、ほんとにオススメなんです。
鈴木敏夫さん、高畑勲さん、大塚康生さんの話を
「ほぼ日」で聞いたあとに、
「ソフトを生みだすとは、何だろうか?」
と思って、これらのノンフィクション作品を見ると、
きっと、仕事や企画についての、
あたらしい発見があるのではないか、と想像します。

割とボリュームのある連載を読み続けてくださり、
どうもありがとうございました。
連載の感想などは
postman@1101.com
こちらまで、件名を「ジブリの仕事」として、
メールで送ってくださるとうれしいです。
それでは、今日も、大塚康生さんのお話を、どうぞ。

ほぼ日 さきほど大塚さんがおっしゃっていた
「結局は、想像力というものが
 映画をおもしろくするのであって、
 想像力のない人に、
 想像しろたって無理です」
というところに絡めて、
大塚さんが考える「想像力」や、
「アニメーションの能力があるということ」
についてのお話を、うかがいたく思います。
大塚 たとえば、
「疲れて屋台で
 お酒を飲んでいる日雇い労働者」
を描くなら、コップの下のほうを
持って飲むはずがないんです。

升酒を、こぼれるぐらい
いっぱい注いでいるはずなのだから、
コップのいちばん上のほうを持って、
口が迎えにいくようなかたちで
飲むでしょう。

こういう気分を出すだけで、
日雇い労働者らしさが
生きてくるんですよね。
そういうところが非常に大切なんです。

想像しなければ描けません。
それをたのしめるかどうかも
大きな資質といっていいでしょう。
宮崎駿さんや高畑勲さんは、
そこの想像力ところがすごいんです。


例えば宮さんは、日本人の好みを、
映画にうまく描いているなぁ、
と思うんです。
日本人は、たとえば
山の美しさと怖さが好きなんです。

静かな緑で、奥深く、そして
昼は暗いような森が好きだと言いますか。
それが『もののけ姫』では
よく出ていますね。

もちろん、その要素を
まともに出したらダメだから、
ひとつの背景として
とりだしていくという……
そういうことができるというのは、
感性と想像力の面での
能力があるんですよね。

そして、宮さんも高畑さんも、
あきれるぐらいに、
ほんとうにいっぱい本を読んでいる。
そこも、大きいと思います。
読む速さが違うんでしょうね。
高畑さんはほんとうに理論家で、
ものすごく勉強して、勉強の成果として
映画を作っているぐらいで、
そういうすごさがあるんです。

ぼくは、今の若い人が、
昔の人に比べて、
すぐれているとも
劣っているとも思いません。
同じ日本人だし、
同じような教育を受けています。
根っこのところでは、日本人は、
さほど変わっていませんからね。

ただ、今の人のほうが
情報量があるものだから、時には、
「いろいろなことを
 たくさん知っていることが
 わざわいしている」
と感じることもあるというだけです。

それでも
「すごい人というのは、
 昔も今も、常に少ない」
という点では共通していますよね。

しかし専門学校で教えてみても、
一教室にひとりぐらいは、
非常にアグレッシブな人がいるので、
ぼくはその人を見ながら
話すようにしていますけど。
上手い人に限って
この世界に飛び込んでくれないのは
残念です……。

まじめで、一生懸命に
きれいな絵を描く人は、たとえば
「アシスタントとしてはすばらしい」
と思います。

この人はもうアシスタントしかできないし、
そこから超えていくことは
できないだろうけど、
それはそれで、貴重な戦力として
働くということができるわけです。
そういう人に、新しいことを
創りだせと期待しても無理でしょう。

一般的に、アニメーターの教育について
思うこととしては
「新人に期待をしない」ということですよね。
こんなに毎年たくさんの人がいろんな会社に
アニメーターとして入ってくるわけだけど、
だからと言ってすごい人がいっぱいいるとは、
ぼくは期待していません。

「唖然となるほど才能がある」
と思ったのは、具体的に言うと、
宮崎駿さんや、近藤喜文さん、
貞本義行さんとか……
他にもたくさんいますけれども、
たとえば宮崎さんや近藤さんは、
もう、奥さんや子どものことなんか
知ったこっちゃないという勢いで、
アニメーションに
のめりこんでいくタイプですが、
貞本さんは、そうではありませんよね。

基本的には奥さんや子どもを大事にして、
家庭を大事にするという
スタンスを守っています、
絵はものすごくうまいのですが、
アニメーションとしては限界があります。
結局、彼はキャラクターデザインや
マンガの世界に行きました。

そういう個々の人間の
諸事情があるものだから、
才能があるとは言っても、
誰でもアニメーションで
後世に残る仕事ができるとは限りません。

月岡貞夫さんなども
天才的なアニメーターですが、
俳句のような短いものが得意で、
長篇には適応できませんでした。

才能のある人も
いろんな事情のもとで
去って行った人が大勢います。
ものすごくこわい奥さんがいて、
夜は残業をさせないとか、
そういう圧力のもとに
退いて行った人も
いっぱいいますから(笑)。

残業をいっぱいするようでなければ、
こなしきれないのに……
それに「早々に失礼します」では、
まわりのみんなが、なかなか、
上に立たせてくれないでしょう?
アニメーションの世界というのは、
賃金は安いし、労働は多いし、という、
ちょっと未開拓な世界の話なのですから。

たとえばアニメーション志望の人には、
いま話したようなことを
伝えてもしかたがないので
言っていないんです。
志望者は、まずは
入口に立ちたいだけですから。

でも、そういう、個人的な諸事情は、
「いいもの」を作れるかどうかを
大きく左右します。

さっきも言いましたが、
若い人がみんなダメとは思っていません。
ちゃんとモノを描けない人もいますが、
やっぱりもう一方には、かならず、
サッサとすばらしい動きの表現を
できちゃう人がいるんです。

ボールをじょうずに打てる人間が
野球選手になるように、
「やれる人にやってもらう」
というのが、この職業なんですね。
教育機関があろうとなかろうと、
やる人は勝手にどこかでやっているから、
その人に実力を発揮してもらうという……。

バレリーナなんて
五歳ぐらいからやらないと手遅れですよね。
野球選手も十五歳からやりはじめたのでは、
とてもプロにはなれません。
絵を描くことも、ちょっと、
そういうことに近い世界なんですよね。
非常に早いうちから一生懸命に絵を描いて、
夢中になって絵の勉強をして
描きつづけたという人には、
やっぱり、なかなか敵いません。

スポーツ選手のようなところがありますね。

二十歳からはじめたのでは遅いぐらいですし、
人を育てると言っても
誰でもいいというわけではなくて
「見つけて育てる」というのが前提だという、
そういうアニメーションの厳しい現実を
前提にしたうえで言うことなのですが、
それにしても、
この世界に入ってくる人というのは、
社会常識がかなり抜けているなぁと、
日々感じています。
絵がうまいことと社会常識は
両立しないのかなぁ……と。
ほぼ日 「大塚さんは、
 アニメーションの世界では
 めずらしいほど社交的です。
 人を好きだし、
 人に好かれるタイプだと思う」
と、スタジオジブリの鈴木敏夫さんが
おっしゃっていました。

アニメーターの仕事をやってる中には、
ひとりで机に向かう時間が長いという職業柄、
「他人と接触を持つのが苦手だ」
という人も、多いのでしょうか?
大塚 そうですね。

長時間、黙って机に座って
絵と向き合っている仕事ですから
「他人と話すのが面倒だ」
という人が比較的多いのは
やむを得ないかもしれません。

しかし、それで他人との
コミュニケーションのための
能力が低下するというのは困りますが、
無口な人でも絵が雄弁に語る人は、
何を考えているかわかるので、
それはそれでいいんだと思います。

一般論として、
現代は膨大な情報が
間断なく消費者に与えられていますから
「テレビを見て、
 ラジオを聴いて、映画を見たら、
 もうそれで時間がつぶれちゃって、
 人と話さなくてもおもしろく過ごせる」
という人が
増えてきてるんじゃないでしょうか。

「子どもの時からそう育ってきたから、
 無口な子が増えた」
とかいわれますが、それはある程度、
現代のマスコミ事情の反映かもしれません。

アニメーションでもそうだけど、
受け手であるファンは
自分の好みと会うものに出会って、
素直に思い入れをしても、
けなしてもいいわけですが、
作り手側のぼくたちは、
もうすこし距離を置いてます。

仕事としてやっているんだ、
という線引きがある。

要するに、
ほんとうに作っている人というのは、
世の中がどうであろうと、
黙って作っていると思うんです。
棟方志功さんのように
「世間がどう言おうと、俺は……」
というスタイルで、自らの良心に従って
勝手にやっていると思うんですね。


ただ、やっぱり、
「一緒に仕事をする人に
 キチンとあいさつをする」とか、
「自分の考えをちゃんと言葉で伝える」
とか、そういうことは、
割に大事だろうと思うんです。

アメリカに行くと、子どもの頃から
そういう教育を受けているから、
おとなしい人であっても、
自分の言葉で
アピールができないということは
ありませんからね。

まぁ、アメリカの場合は、
多民族国家のなかでは、
言語がコミュニケーションの
唯一の手がかりということで、
必然的にそうなっているのでしょうけれども。

アニメーションの専門学校のなかでは、
声優科というところに
いちばんたくさんの生徒が集まるんです。
学校経営としてはそこがいちばん
収益をあげてくれるというのは余談ですが、
そこでどんな教育をやっているのかを
実際に見にいったら、
かなりおもしろかったんです。

入りたての生徒さんは、精気のない声で
「……はーい……」
とか言っているような人ばかりなのに、
卒業するときには、ちゃんと背中をのばして
「はい!」「そうです!」
とちゃんと相手の目を見て
会話できるようになる……
これは、一番最初に
「社会常識」から身につけさせるからなんです。

「声優になりたかったら、
 朝起きたときに、
 自分のお父さんとお母さんに
 『おはようございます』
 と目を見て言いなさい!」


そこからはじまるんですね。
それが一年の教育で、ずいぶん
はっきりした効果をあげているのは、
とてもおもしろかったんです。
現役のアニメーターたちにも、
声優の訓練をさせたいと思ったぐらいですから。

ただ、口下手で無口で、
「お世話になりました」
のひとことも言えなかったような
アニメーターが、すこしずつ
人にお礼を言えるようになって、
四〇歳過ぎには若い人にも気を配って
慕われたという例もありますから、
「人は変わらないものだ」
なんて思っちゃいけないなぁ、
とは感じています。
ほぼ日 コミュニケーションが
苦手な人を育てるというのは、
たいへんそうですね。
大塚 たいへんだけど……
人生、まぁ、たいへんなことが多いから(笑)。
  (※短期集中連載の
  「ジブリの仕事のやりかた」は、
  いったん、ここまでで終わります。
  ご愛読、ありがとうございました!

  濃い話を、たのしんでくださる方が、
  毎日、予想以上にたくさんいらしたので、
  可能だったら、今後、こういった題材で、
  また、特集を組みたいと思っております。
  今後の、新しい角度からの企画を、
  どうぞ、期待していてくださいませ)


「ジブリDVDほぼ日セット」
※販売は終了しました。
 ありがとうございました!  (7/29)

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2004-08-11-WED


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