嘘つく商売は、人より自由。 [対談]よしながふみ × 糸井重里

03理解者は世界中にいる。
よしなが マンガはほんとにとっても気楽な商売で、素敵です。
失敗したときに周りにかかるご迷惑が、とっても少ない。
もちろん担当さんにはかかっちゃうんで
申し訳ないですけど、それでも
関わってくださった方がおおぜいいて
それぞれの家族の生活がかかってるみたいな、
そういうふうに背負ってるものが
ひじょうに少ないメディアだと思うので。
せいぜいフリーでやってる人間だと
次の仕事もらえないとかですよね。
でも自分に戻ってくるのは当然だと思うので。
糸井 そうか。何人ぐらいでお描きになるんですか?
よしなが わたしは最後、絵にするときに
来てくれる人が4、5人です。
でも、みんな、社員じゃないし、
フリーでやってる人たちで、
わたしはそういう時期が月に1週間しかありません。
糸井 農繁期に手助けがくるみたいな感じですか?
田植えみたいですね。
よしなが そう、ほんとにそうです!
皆さん、腕のいいアシスタントさんたちなので、
別の先生のところでも仕事をしていて。
だから気楽です。
冒険もできる。
何を描いてもいい。
糸井 「失敗作を作るぞーっ」
て意識だって持てますね、やろうと思えばね。
よしなが あ、持てます!
糸井 ちょっといいですね。
よしなが 最初からあまりにそのことがわかってる場合は
同人誌で出すっていう裏技もあります。
自費出版で。
糸井 よしながさんは同人誌を‥‥。
よしなが やってました、ずっと。むしろそっちが先です。
糸井 こういうのを描きたいなと思って、
みんなには受けないかもねって思ったら、
そっち側にスイッチを入れるんですね。
よしなが そうですね、今だったらきっとそうなんじゃないかな。
もともとは、商業作家じゃなくて、
単に発表の場がなかったからなんですけど、
そういう移動ができちゃうことも、
マンガのすごさのひとつかもしれません。
『大奥』は、最初はお酒の席で、
こういうアイデアがあるんですと話したことが
はじまりなんですよ。
そのときは、もっと絵の華やかな別の先生の名前を
わたしが実際に出して、
○○先生がこれを描いたら
すっごいおもしろいと思うんですよって言って。
そして担当さんに、
わたしは何も要らないから、
いかにも担当さんが自分で思いついちゃったって態で
その先生に提案してもらえないかって言ったんですね。
そしたら、
「よしながさん、自分で描いた方が
 いいんじゃないですかねぇ」
みたいな話になって。
糸井 ああ、ああ。
よしなが わたしは、自分の絵が向いていない、
ちょっと地味になっちゃうなって思ったんですけど。
糸井 あ、向きの絵じゃないって
ご自分が思ったんですか?
よしなが 思いました。
‥‥その、美青年とかどうでもいいじゃないって、
つい思っちゃうので。
糸井 わりにこのシリーズはキラキラしていると思いますよ。
思い切って、こう、のっけてますよね。
よしなが そうですね、わりにがんばって、のっけてます。
糸井 『きのう何食べた?』と、違いますよね。
よしなが 『きのう何食べた?』が
いつもの感じですね。
糸井 その、のっけてます、
みたいなのも楽しそうです。
よしなが そうですね、時代劇特有のけれん味っていうか。
現代ものだと、わたし、もっと自分で
照れちゃう部分があると思うんですけど、
時代劇だとその、女と見まごうばかりの
絶世の美男といったら、
いるかもしれないってちょっと思える。

▲『大奥』より、有功 /(c)よしながふみ/白泉社(MELODY)
糸井 今だと、みんな、ホストみたいな感じの
描かれ方をしちゃうけれど。
いい男みたいなのってね。
ジャニーズ系がホストの格好してるような。
よしなが 今だとほんとにみんな、
細くてかわいいですもんね。
糸井 その「のっけてる」感じを、
ぼくは楽しんでるかもしれない。
よしなが そうかもしれません。わたしも『大奥』、
ほんとに楽しいです。
たぶんわたしの最初で最後の
“ボーイ・ミーツ・ガール”だって
思っているので、
糸井 この後、なくなるんですか?
よしなが この後、たぶんもう
なくなる予定でいます、はい(笑)。
糸井 そうですか、すごいですねぇ、
その曲げなさ(笑)。
よしなが 信念とかじゃなくて、
ほんと無器用なんだと思います。
糸井 思えば、文楽は人形だし、
歌舞伎は男が女を演じてるわけだし、
どっかで捻ったところを入れとかないと、
ストレートなことが言いにくいっていうのは、
昔からそうだったかもしれないね。
歌舞伎で、女役に女の人が出てたと想像したら、
ちょっと嫌だった、今。
よしなが 確かに日本ではそうかもしれないですね。
外国はとてもストレートなので、
外国の人に聞きたい気もします、
つくるモチベーションていうか。
アメリカのドラマとかも、
とっても楽しく見てるんですが、
その日にはご飯食べに行こうって言って、
次の日には恋人同士になってるみたいなのが、
何で? って思っちゃうんです。
糸井 すごいですよね。
怒ってるときには怒ってる顔してますしね。
よしなが してます、してます。
糸井 こっちから向こうはわかりやすいですけど、
向こうからはこっちがわかんないだろうなって
気持ちになりますね。
この間、ぼく、アメリカ人の、
30前ぐらいの女の人と話をしたんですけど、
それは、ぼくが昔作ったゲームの
アメリカ語版をやって育った子が日本びいきになって、
日本で仕事を見つけて、
仕事がなくなったんで帰んなきゃなんないって、
帰国前に会ったんです。
ぼくみたいなのが作ったゲームに
アメリカ人の子が夢中になるってこと自体が、
ちょっと不思議だったんですよ。
そしたら、彼女が説明してくれたんですけど、
「わたしはそうなんです」と。
アメリカ人だからといって、
みんな「わたしはこう思ってる」って
言う人ばっかりじゃないんですと。
すごく居心地が悪いなぁと思って、
小さいときから生きてたら、
あのゲームに出会って、
「わたしがやれるゲームがあった!」
と思ったんですって。
で、今、そのゲームを好きな人たちが
年に1回集まって合宿したりしてるんですけど、
アメリカ人にもそういう子はいっぱいいますって。
で、もうひとつ嬉しかったのは、
「増えてます」って。
で、日本に来たら、
どこにいても楽なんだって(笑)。
みんなが「わたし」だったと(笑)。
それを直接聞いたとき、ものすごく嬉しかった。
彼女はもうアメリカに帰るんだけど、
向こうで仕事見つけたら、お金を貯めては
日本に来ようと思いますって。
だから、あんなにあけすけに
言いたいことを全部言ったり、
感情表現したりしてぶつかり合って
妥協点を見つけるっていうやり方以外の方法が
あるよねって話をしたんです。
「何がいちばん違ったの?」
ってぼくが聞いたら、
「ユーモアです」って。
ユーモアっていうものは
向こうは向こうであるらしいんだけど、
わたしの考えてるユーモアというのは
他のゲームにはなかったと。
だから笑うツボというのと、恥ずかしがるツボって、
やっぱりちょっと隣り合わせっぽいんじゃ
ないですかねぇ。
よしなが やっぱり、ちゃんといるっていうことですね、世界に。
糸井 いるってことです。
よしなが いいですね。
糸井 いるってことです。

(つづきます)
2013-01-22-TUE
 
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