第5回
「頑張ろう」は、簡単すぎる言葉
糸井
勝負ごとには、
逆風がずっと長く吹く時期がありますよね。

そういう時に、
藤田さんが努めてやることというと、
例えば、どんなことなのでしょうか?
藤田
これは自分もそうだけど、1回、
「基本って何だったんだろうな?」
ということを、じっくりと考えるんです。

「基本をやってみようか」
だから走ることとか、守備の練習をしっかりやる。

ミニキャンプってよくやるでしょう?
ああいうものに選手を入れて、
体をまず動かせるようにした方が早いんです。
頭でなんぼ考えても、どうにもなりません。

だからたとえば、昔からよくやる方法で、
ロッカーにスケジュール表を張って、
勝敗をずうっと書いたものを掲示してから
「負けはきょうで終わりで、
 汗もビュッと引いて、次の日から切りかえだ!」
なんてみんなに伝えがちだけど、
そんなことは何の役にも立たない。
糸井
効果ないですよね。
藤田
それに、縁起を担いで、
「月が変わったらツキが変わる」
‥‥そんなもの、当てになりません。
やっぱり体を動かしてやるしかないんですね。
糸井
なるほどなぁ。
間違いなく向上することをやって取り戻す。
守備練習ですね。
藤田
やっぱり、成績が悪いという結果は、
体がうまくキレなかったり、
バッティングが落ちたりすることの
あらわれですから、
体のキレをよくするのには、やっぱり、
キリッとした守備練習をやって……。

打つのなんか、打てる球を
投げてくれるんだったら
誰でも、いくらでも打てるんですよ。

だからそういうときは速い球を投げさせて、
少ない本数をホントに集中して、パッと切り上げる。
そういうことをやった方が
早いんじゃないかと思います。
糸井
いま、それを聞いて
会社で生かそうとしますと、
会社とかの仕事でいうと、
「守備」に当たるものというのは
何だろうということを、思っていました。
藤田
そうですね‥‥きっと、
「自分は何で生活しているんだろう?」
ということを、
モトに戻って考えた方がいいですね。

「何で月給をもらっているんだ」
「自分の仕事は何だ」
……個々にそれを、しっかりと
考え直したほうがいいと思うんです。
糸井
それが見えないと、困るわけですね。
藤田
そうです。

会社経営なんていうのは
大きな波で動いているから、
ぼくには、はっきりつかめないものですけどね。

ただ、我々みたいな商売だと、
その日その日、その瞬間その瞬間に
結果が出てきますから、
割合に、ペースをつかみやすいんです。

その中で、どこが悪くて
どこがこういうふうな状態だ、と早く感じとる。
そしてチームにいる個々にも、感じてもらう。

同じことのくりかえしをやっていたって、
よくなるわけが、ないですからね。
糸井
なぜ自分がその仕事をしていて、
どういうことを、仕事にしているのか。
それが、はっきり見えなくなるんですね。
藤田
そうなんですね。
糸井
「頑張ろう」ばっかり、言っちゃうんですね。
藤田
ええ、簡単なものですよ、
「頑張ろう」なんていう言葉は。

しかし、そう言っている人間が
ほんとうに頑張ってるかというと、
そうでもないんですね。

頑張ろうという言葉で
頑張ることができるのは、短いですよ。
長く続かないです。
糸井
じゃあ、原さんは来年、
そういう経験を
もしかするとするかもしれないですね。
藤田
おそらくね。
原は、長い監督生活を
やらなきゃいけないと思うんです。
ですから、いっぱいいろんなことを、
いいことも悪いことも経験すると思うんです。

本当は今年あたりは、
あんなに調子がよくなくて、
苦しんで苦しんでいった方が、
後が楽じゃないかとは感じていたんですけど。
糸井
ただ、やっぱり今年の原監督が
「運がよかったな」と思ったのは、
頭の阪神戦で見事にキャリアの違いで負けて、
アレをちゃんと、糧にしてゆきましたよねぇ。
藤田
何試合か終わったときに、
原の顔がガラッと変わりましたよ。
はじめの阪神のときなんかね、
甘ちゃんの顔ですよ。

テレンとした顔して、
「やってりゃ勝てる」みたいな顔、してました。
あれでゴーンと負けたときに、
顔つきがギュッと締まってきたから、
うちではテレビ観ながら言ってたんですよ。
「原の顔色が変わったから、もう勝つよ」と。
糸井
原さんは、運がいいといえば、
ほんとにいいですよね。
藤田
いい運を持ってますよ。
糸井
また、露骨にいろんなことを
表現したがる星野監督との試合で
ああいう目に遭ったということで、
マスコミその他から叩かれるでしょうし、
勝ち誇られるでしょうし、原さんって
はじめにガツンとやられて、運がいいなぁと。

あのあたりの時期の試合見ていると、
「あ、これ、やられちゃうな」と見えていたので、
このままだったらまずいなと思っていたら、
立ち直りましたものね。
藤田
ええ、立ち直りましたよ。
糸井
星野監督のマネしましたよ。
藤田
確かにね。
なかなかあれも運だけじゃないところを、
ちゃんと理屈を踏んで選手を動かしているから、
あれは長続きします。

かえた選手はちゃんと活躍するし。
あんな年って珍しいですよ。10年に1回ないですよ。
糸井
藤田さんのときも、
たまにはあったかもしれないですけど‥‥。
藤田
1年だけ、ありました。
やったら、いい方へいい方へ。
88勝近く。何やっても成功するんです。
糸井
チーム防御率が2点台で
1年終わったみたいな年ですよね。
藤田
はい。
ああいうのは10年に1回ぐらい、何かあるんですよ。
あれが当たり前だと思うと大きな間違いですけど。
「俺はそんなところにいるんだ」
なんて思うと、大きな間違いですが。
2015-05-02-SAT
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