ほぼ日WEB新書シリーズ
1970年、ハイジャックされた飛行機、
「よど号」に乗り合わせ、
無事に日本に帰ってきてから、
日野原さんの「第二の人生」がはじまった。
聖路加病院の名誉院長として、
いまなお多忙な日々を送る日野原さんの
「教育論」について、
「人との接し方」について、
「生き方」について、うかがいます。
きっと、たくさんの人が、
日野原さんに元気をもらえるはず。
第6回
19時間、もう労働ではない
日野原 ぼくは、朝も忙しいから
食べれない方が多いの。
糸井 先生自身が?
日野原 ええ。
だから、テレビをやっていて、
「健康の話をしてください」
というときに、
「朝、起きて、そしてゆっくり
 これとこれと何種類食べて、
 十分に食べてくださいね」
というふうに言うでしょう?

もしもぼくがテレビで
そんなこと言ってたら、家内が見て
「あんた何いってるの」と言われるでしょう。
だから、言えないの(笑)

ぼくは夜の1時、2時に寝て、
それで5時に起きるとか、朝の4時まで起きて、
朝の6時に起きるなんてことがしょっちゅうです。
起きた直後なんて忙しいですし、
アー行かなきゃ、と思ってパーッとやると、
コーヒー牛乳とジュースを立ち飲みするぐらいだから、
だいたい朝食は2分ぐらいあればいいぐらいで。
よく噛んで何かをそろえてというと……。
糸井 (笑)とんでもないですね。
日野原 きょうも、
牛乳1杯とクッキー2つ飲んで来たわけです。
きょうは、7時半まで研究会をやるものですから、
帰ったら夜の8時半です。
8時半になって初めて食事をするわけです。
だからその間、お茶を飲むこともなくてね、
お昼牛乳1杯だけで、ほとんどモノを入れない。
糸井 (笑)人が聞いたらむちゃくちゃですね。
日野原 そしたらね、ある患者さんは、私が
「脳卒中だから、血液が濃くなると
 サラサラしないから水を飲め」と言うので、
 「先生、水飲まないでよく元気ですね」
と言われる。僕はあんまり飲まないんです。
あまり飲まないし、あまり食べない。

何も仕事がなければ充分に食べたり飲んだりできる。
でも、戦争中はそんなことはできないし、
私の仕事というのは、まるで戦争中のように忙しいの。
ただ、戦争中と違って、
自分がやりたいようなことをやっているんだけど。

法律でこれ以上働いてはいけない、
というのに従っていたら、ぼくなんか
3日ぐらいで過労死してしまうぐらいよ。
だいたい19時間ぐらい働いてるものね。
しかも、それを1年じゅうやってるんだものね。
それはもう、「働いている時間」ではないんです。
糸井 なるほど。
「労働」じゃないんですか。
日野原 心の持ち方によって、
ホルモンも免疫力も変わってくるわけです。
そういうことが、だんだんわかってきた。
糸井 先生、いまお話をしていても、
なんか楽しそうに見えますよね。
それがコツでしょうね。
日野原 「寝ないと大変だなぁ」なんて思うでしょう?
でもぼくは忙しくて、そして
外国に手紙を書いたり講演の準備をしたり、
それから本を書いたりするのは、
夜じゃないとできないから、
11時ぐらいからそういうことをはじめる。

朝6時ぐらいになると
原稿用紙が25枚ぐらい書けて、
それをまとまって書けたことを、
「あぁ、よかったねぇ」と思うのね。
糸井 うれしいんですね?
日野原 ものすごくうれしいの。
それで病院に来るでしょう?
朝の7時半とか8時半に会議ですよ。

すると研修医がおくれて眠そうにして、
「ゆうべ忙しかった……」と言う。
「君、もっと早く」とぼくが告げるとね、
「いやあ、きのう遅かったし……今、食事してきた」

こっちは、食事しないで来ているでしょう?
寝ないで来ているんでしょう? 
糸井 しかも90歳過ぎてる(笑)。
日野原 それだからね、私は自分がそういうふうに
気持ちよく仕事をできるときというのは
「寝なかったけどよかったなあ」と思うと、
ホルモンが頭にできて、1日がハイになるの。

眠くて、ボヤッとしてるんでなしに、興奮するの。
過度に興奮する。それは、私は自分でできる。

僕はほんとに運動ができないからよくないと思うし、
人には運動しろというけれども、駅に行ったり、
毎週飛行機は乗るし、新幹線も何回も行くし……
そこで歩くというのが、ぼくの運動です。

空港のベルトを歩いている人を
追い抜いてやろうということをいってるの。
乗ってゆっくりしている人なら
すぐに追い抜けるけど、そうでなくてね。

そうすると物すごい速歩が必要になってくる。
そのうえ、わたしはいつも
10キロぐらいの重さの荷物を持っているんです。
飛行機や新幹線で原稿書いたり、
本を読んだりするからね。
だから相当重いんだけど、それでガーッと歩くと
猛烈なトレーニングになる。

北海道や九州から帰るときね、
9時半ぐらいに東京に着くと、
前の晩も寝てないから、身体的には疲れているから、
自動のベルトに乗ろうかなと思うと・・・
「いや、だめだよ」という声が心から聞こえる。
じゃ、頑張る。
こないだの帰りもやったなあ、追い抜いたなあ。
糸井 ある種の達成感があるわけですね。
日野原 達成感、達成感。
達成感は物すごいエネルギーをくれるの。
糸井 つまり、人が仕事だと思っていることを、
先生は、ある種のプレーとして
楽しんでいらっしゃるんですね。
日野原 プレー。そうですよ!
(つづきます)
2014-08-14-THU
(対談収録日/2002年9月)


第1回
自分の葬式を見た
第2回
一粒の麦
第3回
死を考えるエクササイズ
第4回
禁止はおもしろくない
第5回
レッツの教育
第6回
19時間、もう労働ではない
第7回
失われた1年間
第8回
終わりに向けてのクレッシェンド