ふたつ年上の母のいとこと再会しました。
母はホスピスに入っていました。
父が急に思い立っていとこの彼に連絡。
青春時代をともに過ごした大切な仲間だったそう。
そして次の日、会いに来てくれることになりました。
母は少しずつできることが少なくなっていて、
しばらくは身体も拭いてもらうだけだったけれど、
その日ははじめて、
ストレッチャーごと入れるお風呂に挑戦、
「気持ち良かった~」とニコニコ。
爪を切り、クリームも塗って、
お客さまを待ちました。そわそわと。
「彼はね、ジェームス・ディーンみたいだったのよ」
ふたりは高校卒業後、
高知から東京の大学にそれぞれ進学。
たまたま新宿でバッタリ会って、
伊勢丹の隅っこの店でケーキを食べて‥‥、
それ以来会っていなかったのだそう。
彼は医者になって高知で開業し、
母は結婚してずっと東京に住むことになったので
機会がなかったんですね。
母が待ちくたびれて
「もう来なくていいって電話して」なんて
言いはじめた頃、おみやげの文旦を抱えて
彼が着いたのは晩7時過ぎでした。
「思ったより元気そうじゃないか!」と言って
母の頭をなで、初対面の私に向かって
「お母さんはね、
オードリー・ヘプバーンみたいだったんだよ」
と言うから笑ってしまいました。
どのくらい話していたでしょう、
若い頃の話、死生学について‥‥、
彼は話している間ずっと母の手を握っていました。
母がウトウトしてきたのに気づくと
静かにこう言います。
「もう、がんばれって言えないんだね」
でもちょっと間を置いてニコッとすると
「じゃあ、ぼくが少しもらっていこうかな」って。
「ぼくは100まで生きるつもりだよ」
母はそれを聞いてうれしそうに
「すてきね。がんばって」と
目をキラキラさせて何度も何度も
うなずいていました。
こんな「さよなら」もあるんだ。
彼は医者としてあちこちから応援を頼まれるそうで、
翌日は始発の飛行機に乗って帰りました。
来てくれてありがとう。
母にも私にも素敵な思い出になりました。
(S)