谷川俊太郎、詩人の命がけ。 谷川俊太郎+糸井重里ひさしぶり対談 祝 谷川俊太郎さん、80歳!
ここ数年、打ち合わせなどで 何度か顔を合わせてきたものの、 ふたりがじっくり話すのはひさしぶりです。 谷川俊太郎さんも糸井重里も 真剣な仕事を軽やかにするような魔法を使うなぁ、と つねづねわたしたちは思っていました。 そこに隠れてよくわからなかったのですが、 詩人としての谷川俊太郎さんが これまで命をかけるように守ってきたこととは いったいなんだったのでしょうか。 「言葉」を中心に置いたふたりのおしゃべり、 全8回でお届けします。 * この連載は、鳥取県にある野の花診療所の 10周年記念のトークイベントで 話された内容をまとめたものです。 野の花診療所は、谷川俊太郎さんが以前より 応援なさっているホスピスケアの診療所です。 くわしくはこちら★http://homepage3.nifty.com/nonohana/★をごらんください。
 
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主人公は誰だ。 2012-04-09
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詩の手ざわり。

今日の更新

 

第6回 主人公は誰だ。

糸井 ぼくね、谷川さんを利用して、
谷川さんの詩を印刷した切手を
つくろうと思ったことがあります。
谷川 うん、うん。
糸井 切手なら、一枚の額面どおりのお金で
売れていきます。
千円って書いてあったら千円なんだ、
というふうに買ってもらったら、
詩がそのまま流通に乗って
商売になんないかなぁ、と思いましてね。
でも、結局やらなかった。
もうちょっと違う何かができるような気がして。
谷川 いまぼくが出版社の人たちといっしょに
考えてるのが、手紙詩です。
何人かの会員組織をつくって、
そこに月に2〜3点、
詩が入った郵便を送るようなこと。
つまり、ぼくはこのところ、
本というものの形に
ちょっと飽きてきてるところなんです。
糸井 それ、とてもよくわかります。
谷川 かと言って、ネットにあげて
読んでもらうというのも、
アイチューンズストアで売るのも違う。
糸井 うーん。
谷川 詩を直接読者に手紙の形で渡すのは
魅力的だから、
実現するんだったらやってもいいかなと
思っています。
糸井 それはできそうですね。
難しいこと、ひとつもないと思います。
でも、もし難しいことがあるとすれば、
それはそこで喜ばれる詩を
確実に書くということです。
谷川 そうそう。
糸井 それが本質的な難しさ。
それから、難しいことはもういっこありまして、
それは「いくら?」ということです。
谷川 そうなんですよ。
それでいま悩んでいます。
糸井 10万円と言ってもおかしくない。
谷川 それは、人が買ってくれない。
糸井 そうなんですけど、おかしくはない。
つまり、値段は意思ですから。
1000円と言ってもおかしくない。
300円でもおかしくない。
どうしましょう。
谷川 そうなんですよね。
糸井 しかし、こういった
金額に思考を費やすことも、
詩と隣接した世界だと思います。
谷川 うん。
ぼくは、詩の値段については
ずっと考えてきたから、たのしいんです。
でも、つかめないですね。
直筆だったら
結構、売れる気が‥‥。
糸井 直筆だったらいくらになっても、
ぜんぜん不思議じゃないです。
谷川 でも、たとえば
百人単位の郵便物を
直筆で書くようなことはできないですよ。
糸井 あ、それは「百人」という単位が
間違ってるんじゃないでしょうか。
もっと極端に、
「百人」という考えがあったときには、
「万人」もあるんだなと思うようにして、
そうすると「ひとり」だってあるんだな、と
思ってみればいいのかもしれませんよ。
谷川 うん、うん、そうね。
糸井 いちばんいい数字は
「百人」じゃないような感じがするけど、
「ひとり」というのもさみしいなぁ。
「ひとり」というと
手紙に近すぎるような気がします。
谷川 そうそう、「ひとり」は
詩じゃなくてもいい。
ラブレターでもいいじゃねぇか、
ということになります。

糸井さんはこういうことを考えるのが
やっぱり好きなんですね。
糸井 はい。谷川さんは
実業をおやりにならないけど、
ぼくは、少しやります。
谷川 はい。
糸井 単純にいえば、
次に出す本をいくらにするか、から、
値段をつけることにはいろいろあります。
値段つけるのって、やっぱり、
すごく、すごく、おもしろいことです。
詩を考えてるときより、
そういう計画を考えているときのほうが、
ぼくは目が覚めて起きています。
谷川 うん(笑)。
そこはすごく
糸井さんのいいとこですね。
糸井 カスタムな言葉を、
おたがいにやりとりする関係で
お金も動かせないものかなぁ。
石ころひとつで拝んでね、というように
言葉や詩ををぽんと、渡したい。
谷川 糸井さんはそっちが好きだからこそ、
ものの存在感みたいなものを
信じてるでしょ?
糸井 うーん‥‥そうかもしれません。
谷川 書くときには、ぼくは一所懸命、
言葉の存在感が出るよう
めざします。
でも、実際の社会の中での
言葉の存在感は、
そんなに信用していません。

だから、ぼくは
ラジオを直したりしたくなるわけ。
(註:谷川さんの趣味のひとつは
 古いラジオの収集、修理です)
手で触れることができて、
抵抗があるもの。
言葉も、木とか石とかと同じように、
抵抗を持ってくれるといいなと思うんですけど。
糸井 「重み」みたいなものですね。
詩の中の、言葉の存在感。
谷川 そうです、そうです。
糸井 詩の中の「見えるもの」かぁ。
谷川さんが思う言葉の手ざわりや
めざすものについて、
谷川さんが認めている分量の加減が
ずいぶんわかった気がします。
谷川 あ、ほんと。
うれしいです。
糸井 もう、そろそろ時間も‥‥
そんな気がするんですけど。
谷川 ねぇ、ずいぶんしゃべったよ。
(会場を見まわす)
あれ?
スタッフのみんな
どっか行っちゃったんじゃないの。
みんな飯食いにいったんじゃない?
ひどいじゃん、それ。
糸井 そういうことありえますよ。
谷川 ありえますよ。
糸井 ありえますよ。
谷川 だれも返事してくれない。
糸井 老人をだますんじゃないよ、ほんとに。
谷川 まだ糸井さんは老人じゃないですよ。
わたしですよ。
糸井 わたしもですよ。
会場 (野の花診療所の院長先生、徳永進さんが
 ステージにあわてて出てきて、場内大きな拍手)
  これで、谷川俊太郎さんと
糸井重里の対談連載はおしまいです。
ご愛読ありがとうございました。

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2012-04-11-WED


 
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