谷川俊太郎、詩人の命がけ。 谷川俊太郎+糸井重里ひさしぶり対談 祝 谷川俊太郎さん、80歳!
 

第5回 詩はうまくならない。

谷川 それで、糸井さんは
詩人になろうと思ってるわけで。
糸井 はい、ぼくは詩人になろって思ってね(笑)。
5年に1編できるだけでもいいでしょうし。
谷川 もちろんそうですよ、悪くはない。
糸井 商品としての詩じゃなくてもいいわけです。
メモしとくだけの詩人も、
ぼくはいると思うんですよ。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」だって
メモですからねぇ。
谷川 死んだあと「燃せ」なんて
言ってたわけですからねぇ。
糸井 あの詩、なくなってたかもしれない。
天に捧げるとか、
そういうもののような気がする。
谷川 詩というものは本来、
そういうもんなんです。
神に捧げるところからきているはずなんですよ。
糸井 きっとそうですよねぇ。
空間の中に消えてしまっても
かまわない。
谷川 ほんと。
糸井 言葉がふわーっと、
噴霧器みたいになってくといい。
谷川 噴霧器(笑)。
糸井 谷川さんは、ずーっと
それをおやりになってきました。
こんなに長いこと、
みずみずしさや
心と心が通い合う部分を失わない。
これまでこうしてちゃんと
詩人として生きてこられたのは、
なかなかに難しい綱渡りが
あったと思うのですが。
谷川 自分ではよくわかんないけど、
ぼくは、詩人としては
ちょっとリアリストの面が
あるかもしれません。
糸井 はい、ありますね。
ときどき、それで詩を書いたりしてますよね。
谷川 まぁ、そうかもね。
ぼくは最初から
原稿料をもらったということで、
自分というものの位置を
社会の中で決めた人間です。

自分が若い頃に書いたものが
お金に変わったことは
そうとうショックでした。
それからは、自分が人のために
何かをしなきゃいけないんだ、
というように思えました。
それが出発点だから、どうしても
詩作品とふつうの人間の関わりを
考えないと書けないのです。
糸井 そのスタートは運かもしれないですね。
谷川 運かもしれませんね。
糸井 リアリズムを取り入れながら
こうして長いこと歩いてきて、
詩についてはいま、
どう思っていらっしゃるんですか。
谷川 詩のエネルギーって、
ぼくはすごく
微細なエネルギーだと思っています。
ほとんど素粒子レベルで
力を及ぼしていくもんだと思う。
糸井 力の及ぼし方も
じわじわすぎてよくわからないんだけど、
なんていうんだろう‥‥つまり、
「何かをわかっても、
 詩を上手く書ける方法はない」
とぼくは思うんです。
谷川 ああ、ないですね。
糸井 詩以外の力には、けっこうみんなある。
「ここにてこを使って、
 ここは摩擦をなくして」
というようにして、
力を増やせるのが前提です。

でも、詩人がやることは、
「ここまで俺はわかったから、
 いくらでも俺の詩はパワーを持つぞ」
ということにはなんないですよ。
谷川 歳取ってきて
詩がよく書けるようになったのは
そのあたりが理由かもしれません。
いま、書くのがすごく楽なんです。
糸井 谷川さんの「するっと書いてらっしゃる感」は、
いまのほうが、ございますね。
谷川 そうですか。
とてもうれしいです、それは。
でも「するっ」と書いてないんですよ。
糸井 じゃあ「するっ」に見せられるようにしてます?
谷川 ぼくは(小声で)できるだけ苦労を
見せないように、見せないように
書いてるわけですよ。
糸井 そうかぁ。
いま書いてらっしゃる長編詩も、
歩いていくように
書いていらっしゃるように思えます。
谷川 うん。
そういうふうに読んでもらいたいです。
やっぱり、自然に書けたんだね、というように
読んでもらえるのが、うれしいです。
糸井 えっと‥‥訊いてよさそうな気がするんで、
今日は訊いちゃいますけど。
谷川 なんでも聞いてください。
糸井 書く速度と、読む速度は、
どのくらいの開きがありますか。
谷川 何十倍とあります。
ぼくは、最初はわりと言葉が
すーっと出てきたりするんですけど、
そこから先、平均して1か月以上
毎日パソコンを開けて
手直し、推敲してます。
糸井 きゃあ。
谷川 ええ、どうして?
糸井さん、しないの?
コピーはわりと書きっぱなし?
ぜんぜん直さない?
糸井 はい(笑)。えーと、
なぜかっていうと、直せないんです。
谷川 自分に厳しすぎて?
糸井 じゃなくて、ここなあぁぁぁ(笑)、
言うんですか?
もうほんとに、
今日はふたりともずいぶん秘密を語ってますね。
谷川 はい(笑)。
  (つづきます)

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2012-04-06-FRI