おいしい店とのつきあい方。

080ちょっと寄り道。その4
平成外食史、後半。

バブル崩壊で
金融業や不動産業が苦労に苦労を重ねていたなかで、
飲食店はしぶとかった。
夢より実利を得ようとするという、
お客様の気持ちに変化はあったけれど、
その変化に対応できたお店は生き残った。

不思議なことに景気が悪くなったにもかかわらず、
店は相変わらず増えていきました。

不景気は借り手のつかない物件を大量に生む。
その片方で平成の初期にチェーン店が大量に作った、
同じ大きさ、同じ雰囲気の人間味にかけるお店に
嫌気がさした消費者は、
もっと小さく、人間臭く、
働く人と直接つながることができる
飲食店は無いものか‥‥、と
新しい何かを探しはじめるようになる。
それをチャンスと捉えた若い、
ベンチャー魂あふれる人たちが
そういう消費者の気持ちを嗅ぎつける。
ラーメン店やコーヒー専門店、
バルが次々開業されていきました。

当然、潰れる店もたくさんあった。
けれど新陳代謝が一気に進んだと前向きにとらえれば、
バブル崩壊も決して悪いことではなかったのかも‥‥、
と思えたほど。

ただ新陳代謝は生き残りをかけた戦いという側面をもつ。
「いかにライバルを蹴落とすか」
という熾烈な争いが繰り広げられたのが
平成10年から20年にかけての10年間。
20世紀と21世紀をまたぐ10年でもあって、
お店は「いかに安く売るか」に命をかけた。
創意工夫のほとんどは
「人手をかけずに安く売る」ということに発揮され、
新しい業態、新しい業種、
新しい料理がほとんど生まれなかった。

しかもお客様は出費に対して敏感になります。
せっかくの外食にあって失敗したくないという気持ちが、
「新しくて珍しいもの」から
「いつも食べている食べ慣れたもの」を
食べたいと思うムードを作る。
外食ビッグバン直後に生まれた「食の多様性」は
すっかりなりを潜めてしまう。

店が増えるとお客様の取り合いが激化する。
なのにお客様は食べ慣れたものを食べたいという。
冒険したくないというのです。
他のお店とちょっとでも変わったことをしないと
差別化にならないというのに、
お客様は変わったことを好まぬという。
そうなるとお店の人ができることって限られてくる。

値段がどんどん手頃になる。
お客様に怒られないように、嫌われないようにと一生懸命。
あたかも業界まるごと
サービス合戦の様相を呈するようになってしまう。
しかもSNSの普及で
インターネット上には、お店に対する評価があふれる。
気にしなくていいことも気になるし、
しなくてもいい工夫をする。
売りたいものを自信をもって売ることよりも、
いいねと言われることに敏感な店が
得するようになっていくようになっちゃった。

平成最後の10年間は外食産業が主体性を失って、
お客様の意見や評価の言いなりになってしまった10年間。
いまだに店はとまることなく増え続けていく。
増えて、増えて、もうどうしようもなくなって壊れてく。
ビッグバンではじまった宇宙が
自らの重みに耐えかねて
ブラックホールになって自らを吸い込んでいく。
そんな状態が平成の終わりの
外食産業の姿に見えてしまうのです。

お店で何かをお願いしようと思って手をあげ、
合図をしたといたしましょう。
平成の半ばまで。
お店の人はニコニコしながらボクの方にやってきて
「なにかご用でございましょうか」という。
それが当たり前の光景でした。
ところが最近。
お店の人はビクビクしながら近づいてくる。
「なにか問題はございましたでしょうか?」
という表情に、
あぁ、申し訳ないことをしちゃったなぁ‥‥、
とそれからお店で手をあげることを
ビクビクするようになってしまう。

この連載をはじめた当初に書いたさまざまが、
今では通用しないこともままあって、
しみじみ時代の変化を感じる令和のスタート。

ゴールデンウィークが終わって、
ボクの知り合いの店では新人さんの退職届の山が届いて、
どうしようかとハラハラしてる。
なやましい。

さて来週から、また本来のテーマに戻ると同時に
これからの飲食店の新たな姿、
楽しみ方を考えていこうと思います。

2019-05-16-THU