おいしい店とのつきあい方。

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飲食店の新たな姿。その1
オーストラリアからやってきた。

日本人は海外からやってくるブランドが好き。
アパレル。
雑貨。
アーティストもライフスタイルも、
そして食べるものもレストランも
海外で人気と言われると
とりあえず試してみないと気がすまない。
世界有数の好奇心旺盛な国民性が、
世界からのおいしいモノやおいしいお店をひきつける。

結果、世界中のおいしいものが日本にいればたのしめる。
ありがたいこと。

一番多いのはアメリカからの進出組で、
ファストフードからはじまって、
カフェ、スイーツの店がそれに続いた。
最近では熟成肉のステーキハウスの進出が
ブームのようになっている。
アジアからの進出も盛んで、台湾からは点心やスイーツ。
ここ数年は中国の内陸部から
火鍋や麺のお店が次々やってきている。
日本にはないエキゾチックな味が
ゆっくり、けれど確実にファンをふやしつつあって、
日本の食が多様性を取り戻しつつあるように思える。
つくづく日本は外からの力がないと
変われない国なのかなぁ‥‥、って思うも、
それもまたよしでしょう。

ただ、彼らのように派手ではないけれど、
日本にやってきて
独特なプレゼンスを発揮しはじめているのが
「オーストラリアからやってきた店」。
今、ボクが一番、注目しているのが彼らの動向。
ちょっと独特な営業スタイルをもっていて、
それが日本の今の外食産業を
救う鍵になるんじゃないかと思ってみている。

有名なのは「bills」でしょう。
世界一おいしい朝食を作る‥‥、
と評されるビル・グレンジャーがプロデュースする
「一日じゅう、朝食を食べることができる」店。
いいこと尽くめのように思える営業内容で、
行くたびいつも感心します。

まず朝食メニューは原価が安い。
卵料理やパンケーキがメインです。
だから一般的な朝食営業をしている
日本の飲食店のほとんどは、
朝食が1000円しないことが普通。
ところが「bills」はそれを高く売る。
その値段に辻褄のあう品質とお店の雰囲気、
サービスでお客様を満足させようとする。
原料費よりも人件費にお金を
より多く配分できるからでしょう‥‥、
お店の人はいつも笑顔たっぷりで、いきいきしている。

しかもメニューが単純ですむ。
昼からはハンバーガーやパスタのような料理もある。
けれどやはり名物は朝食メニューで、
朝も夜も同じメニューを作ればいい。
中でもビルズスタイルのスクランブルエッグが人気で、
たしかに独特。
けれどちょっとしたコツをつかめば
誰にでもできる料理でもあって、
他の料理もこれといって特殊な調理技術を
必要とするものはほとんどない。

それでもお店が人気でいつもにぎわっている。
しかも朝から昼、寄るといつもにぎわっていて、
理由はランチやディナーの料理をおいしくしようと
努力する人や店は数多いけれど、
朝食をおいしく提供しようと一生懸命になる店は少なく、
つまり競争相手が少ないところで勝負をしているから。
無競合の市場で勝負することが、勝つ一番の近道だ‥‥、
というのが飲食店の定石で、
その通りに自分で新たな市場を作って
勝負しているところがいいなといつも思うのです。

「bills」に続いて、着々と日本に
オーストラリアからレストランが上陸している。
例えば銀座。数寄屋橋の交差点に数年前にできた
東急プラザ銀座という商業ビルの中にある
「THE APPOLO」という
ギリシャ料理のお店であったり、
表参道のイタリア料理「Fratelli Paradiso」
(フラテリ パラデソ)、
恵比寿ガーデンプレイスの中の
「LONGRAIN」(ロングレイン)というタイ料理店。
どこも違った会社が運営する、違ったブランドなのだけど、
オーストラリア出身というだけじゃなく、
共通点があまりに多く、
まるでチェーンストアの別ブランドのように思える。

その特徴がこれからの日本の飲食店を
救ってくれるんじゃないかと思って、さぁ、来週。

2019-05-23-THU