おいしい店とのつきあい方。

108 ごきげんな食いしん坊。その2
「おいしかった」より「たのしかった」。

ボクのブログをグルメサイトだと思って読むと、
手痛い目にあうことがあります。

ボクのブログで、おそらく一番多い言葉は「オキニイリ」。
あるいは「たのしい」。
おいしいという言葉もたくさん使うけれど、
「おいしかった」と言うときよりも
「たのしかった」と書くときの方が、
その内容に気合と気持ちが入ってる。

ブログのムードは「ゴキゲン」です。

たまにおしかりのメールやコメントを
頂戴することがあります。
あなたはどんなお店に行っても、
おいしかったとかたのしかったとおっしゃる。
食の産業にアドバイスを与えるべき立場の人が、
そんな能天気でいいのでしょうか。
そもそも、どの店が一番おいしく、
どの店がどの店にくらべてすぐれているのか、
劣っているのか、わからないようなコトでは
情報として未完成ではないでしょうか。

‥‥、と、そんなコトをたまに言われる。

なるほど、この人はボクに対して、
批評家たれ‥‥、と言っているのでありましょう。
おそらくボクがたのしんだお店に対して、
100点満点で何点というような点数をつければ
納得していただけるのでしょうけれど、
日々、状態が異なるお店。
ボクの食欲やその時々の気持ち自体も一定でなく、
だから点数をつけるなんてコトはできない。

一軒一軒に点数をつけることは無理でも、
どの店が一番好きか。
どの料理が一番おいしかったか‥‥、
というコトくらいは教えていただけませんか?

‥‥、と、そんなコトを言われたこともある。
そのときは確かにそういう考え方もあるかと、考えてみた。
イタリア料理の部だとどこだろう‥‥。
パスタだったら、あの店だなぁ‥‥。
ピザならあの店。
ワインをたのしむならあの店がいいし、
友人と一緒ならあの店だろうしと、
ナンバー1のお店が次々頭に浮かんで消える。
◯◯の部という分類が、ざっと考えただけで20部門。
しかもそれもイタリア料理だけで20部門。
他の料理も網羅したとしたら
100は優に超えるだろうから、
一番好きなお店はどこって聞かれた答えは100以上。

そういえば、明日もし死ぬとして、
最後の晩餐に何を食べますか? って聞かれて、
考えはじめると100や200ほど食べたいものが
思い浮かんで、こりゃ、死のうと思っても死ねないね‥‥、
って笑うしかなかったボクです。
究極の一軒や一食を選ぶことなんて絶対できない。

サカキさんが紹介する店に行ったのだけど、
思ったほどおいしくなくてがっかりしました。

そういうお叱りを頂戴することもときにある。
経験と直感のおかげで、
明らかにおいしくなさそうなお店を
避けることはできはする。
けれど行く店すべてがおいしい保証はどこにもない。
たまに、どうしてこんなお店に来ちゃったんだろう‥‥、
と思うこともある。
気に入って何度も通ったお店が、
その日に限ってお店の状態が良くなくて、
「今日は外れだな」ってガッカリしちゃうコトもある。
でもそんなときに、「失敗したなぁ」とか
「おいしくないなぁ」と思ったままにしてしまうと
負けた気になる。
このままだと、「楽しみ損なってしまう」。
あるいは「おいしく食べ損なっちゃう」って
哀しい気持ちになるのです。

グルメを自称する友人はよく買う言います。
「あの店に勝ったんだよネ」‥‥、って。
どう勝ったの? って聞くと、
あの店より旨い店のコトを思い出したら、
全部食べることができなかったんだよ。
だから残してお店を出た。
勝ったんだよネ、あの店に‥‥、って。

あぁ、やっぱりボクは
そういう意味でのグルメじゃないなぁって思いました。
全部食べずに帰ってしまう、
たのしめないで帰ってしまうということは、
勝ったのじゃなくて負けたコト。
負けないようにいろんな工夫を総動員して、
たのんだ料理はしっかりお腹におさめて帰る。
その工夫がたのしくて、
だからボクのブログはいつも
ゴキゲンムードに包まれている。

おなじみになったお店の人によくこう言われます。
「サカキさんって食いしん坊ですネ」って。
だってどんな料理もおいしそうに食べてくれるからと、
そう言われると本当にうれしい。
グルメと呼ばれたくないボクは、
誰にも負けない食いしん坊で、
食いしん坊であったがゆえに沢山得をした。
さて、この食いしん坊がどう生まれ、育ったのか。
来週からユックリお話、いたします。

サカキシンイチロウさん
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『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
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福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2017-04-20-THU