おいしい店とのつきあい方。

097 お店の情報とのつきあい方。その23
レストランで大遭難。

スッカリ互いが歳をとってしまったことを
大学時代の友人とピンスポットの下で
実感してしまったレストラン。
実はそのとき、友人のひとりがばつが悪そうに、
自分の頭を指差しながら言うのです。
「こういう店は最近、ちょっと苦手だなぁ‥‥」と。
一体、何が苦手なのか?
彼の指差す頭を見つめる。
すると‥‥、なるほど。

髪の毛の光り方がちょっと不自然なのですネ。
キラキラ、人工的な光を放っていて、
色もどことなくのっぺりとした黒と茶色の中間色。
もしや? と思うと、
生え際だとか襟足だとかが
もう気になってしょうがなくなり、
目のやりどころに困ってしまう。

そう言えば彼。
学生時代から髪の毛が細くてちょっと薄かった。
前回会ったのが5年ほど前。
その時はあまり気にならなかったのだけど、
あのときに比べて確かに今日の髪はボリュームがある。
頭をジロジロ見るのはなんだか申し訳なく困っていたら、
彼が笑いながら言うには──。

「女房にすすめられてね。
若く見えるからいいんじゃないの‥‥、と、
それで去年からちょっとかぶってみたんだ。
ちょうど今まで勤めていた会社の子会社に、
取締役として天下ってネ。
心機一転。
せっかくだったらいいのを買おうと、
奮発したからわからないに違いないと
思っているんだけど、
さすがにこういうコントラストの強い照明、
ピンスポットの下ではバレちゃうんじゃないかって、
ドキドキするんだ。
だから今日は、言われる前に言っちゃいました!」

こりゃ、接待レストランを選ぶときの
チェックリストに入れておかなきゃ‥‥、
って思ったりした。
ピンスポットは罪作りです。

さて、ちょっと寄り道。
最近、レストランで帽子をかぶったまま
食事をする人があまりに多くて、
これって果たしてマナーとしてどうなのかなぁ‥‥、
と心配したりするのです。

かつて、紳士は女性の前では帽子をとるのが
マナーのひとつと言われていました。
トップハットが紳士の正装であった時代の映画などで、
紳士が談笑する部屋にご婦人が入って来たとき。
その場の紳士全員が立ち上がって、帽子をとる。
あるいは軽く持ち上げて、
ご婦人が席に座るまで決して着席しないという、
あのエレガンス。
もうすっかり今ではなくなっちゃった。
もっともかつて女性が社交の場に登場することが
稀であった当時と違って、
今ではむしろ女性が社交の場の主役です。
女性がお店に入ってくるたび、
立ち上がっていてはユックリ食事もできない。
けれど女性を前にして帽子をかぶったままで
食事をする男性の多いこと。
そういう女性も、帽子をかぶったままで食事をしたりする。

帽子にはさまざまな役目があります。
まず、何かが上から落ちて来たときに
大切な頭を守るための役割。
それをレストランでかぶっているということは、
それほどまでにココは危険な場所だからと
警戒しているに違いありません。

日除けとしての帽子。
日射病にならないようにとかぶる帽子を
暗いバーでかぶっている人もいます。
つまりレストランで帽子をかぶっている人たちは、
そういう機能を期待して
かぶっているわけではないのでしょう。

だとすると‥‥。
それらすべてが「おしゃれのため」だろうと思うのだけど、
場所にあわせてオシャレの基準は変わります。
例えば、山に登ろうというときに、
ハイヒールにひらひら風に舞うジョーゼットの
ワンピースを着はしないでしょう。
そんな格好で山に登ったら、下手すれば遭難です。
レストランにも、そこにふさわしい装いがあって、
それを守らないと下手すると遭難です。
レストランで遭難するということは、
環境に溶け込むことができず浮き上がってしまう上に、
サービススタッフという頼りになる旅のガイドの手助けを
得ることができない可能性があるというコト。

もったいないです。
かつてホテルのコーヒーショップやレストランで、
帽子をかぶったままでいると
サービススタッフが近づいてきて、
帽子をお脱ぎいただけませんか?
とやんわりたしなめられることが普通だった。
なぜ、レストランでは帽子を脱ぐべきなのか?
つづきは来週といたしましょう。

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2017-02-02-THU