おいしい店とのつきあい方。

090 お店の情報とのつきあい方。 その16
フレンチの厨房、中華の厨房。

分業を必要としない中国料理。
一方、分業が前提となる西洋料理。
その違いは一体どこにあるのか‥‥。
ちょっと考えました。

調理という仕事はいくつもの工程に分かれます。
フランス料理の世界でどうなっているか説明しましょう。

まず、素材を切ったり形を整えたりする
「下ごしらえ」という作業があります。
たいてい、厨房の中の新人がする仕事。
忙しいお店になると実際に営業がはじまっても
ずっと下ごしらえをし続けるコトが多いので、
メインの厨房から離れたところに
下ごしらえをする場所が作られます。
その周辺には食材倉庫や冷蔵庫。
大きな店だと、下ごしらえをする場所に閉じこもって、
料理が実際に作られているところを見ることもなく
毎日の仕事が終わってしまうようなこともある。

次に、ソースを作ったりソースのベースになる出汁や
スープをとる仕事。
単調だけれど、気を抜くことができない仕事です。
沸騰させてしまうと壊れてしまう出汁もあり、
濃度の強いソースなどでは、
焦げ付かせぬようずっと木べらで鍋の中を
かき混ぜていなくてはならないようなコトが当たり前。
素材の下ごしらえの修行が終わると、
ソース作りを任されるようになったりする。
あるいは、その両方が同時進行するコトもあり、
だから仕込み場の近くに
たいていソースや出汁をとったりする場所が用意されます。

その次の段階が「下調理」。
長時間の調理が必要な、例えばローストビーフや
前菜用のテリーヌのようなモノを
あらかじめ調理しておく調理作業があって、
そしてはじめて本調理。
下調理をする厨房は
機械のかたまりであることがほとんどで、
大きなオーブンや蒸し器が並んで、
そこだけ見ると食品工場のようで
まるで色気のないエリア。
その下調理場所につながるようにメイン厨房があって、
シェフはそこに立っている‥‥、という具合。

大きく4つの作業があって、
それぞれの作業が行われる場所がある。

一方、中国料理の厨房は大きく分けて
「下ごしらえをする厨房」と、
シェフがたって調理の最終仕上げをする
「本厨房」の2つにわかれる。
規模の大きくない厨房だと、
下ごしらえも本厨房でしたりするから、
つまり作業場は一か所ですべてなされるということになる。
そんなところで「分業」なんてコトを
しようとするのが無理‥‥、でもあるのだけれど、
そんなことができる理由があるとすれば、
それは「調味料の存在」ではないかと思うのです。

フランス料理における調味料は、塩や胡椒、
あるいはスパイスといったモノで、
そのまま使われるモノもあるけど
そのほとんどが煮詰めたり、
合わせたりすることでソースや出汁にして使う。
それには当然、時間や手間がかかるもので
そんなことまでシェフがしていたら、
いつまでたっても料理ができないことになる。

その点、中国料理の世界には
魅惑的な調味料が数多くある。
醤油。
味噌。
芥子や辛子。
その組み合わせで料理ができる。
茹でたレタスにオイスターソースをかけるだけで
魅惑的な一品ができる。
高級なお店の中には、
オイスターソースやXO醤のような調味料を、
自分たちで作るお店もあるけれど
それでもそれらは保存がきく。
瓶の中に閉じ込めれば長持ちするので、
日々、ソースに火入れをしたり温度管理を厳密にしないと
劣化してしまうフランス料理の調味料とは違って思える。

そう言えば日本料理もソースのようなものを
作らずすむ調味料‥‥、
味噌や醤油を基本にできた料理でもある。
だから独立するのが容易いか‥‥、
というと案外これがむつかしかったりする。
その理由はまた後日。

ちなみに西洋料理において、お菓子作りという仕事だけが、
他の料理人の仕事と区別されパティシエという
特別な地位が用意されているように、
中国料理でも特別の地位がある。
どちらも女性が活躍する場所でもあって、
そんな話をまた次回。

ところでまもなく年末です。
そんな特別な時期にあわせて、ちょっと寄り道。
また来週。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
Amazon

「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-12-15-THU