045 超えてはならない一線のこと。その16
「安く」提供できるお店のしくみ。

これだけおいしいのなら、この値段でも安いよね。

お客様からそう言ってもらえるように、
飲食店の人は努力しているといっても過言じゃない。

「安く感じる」

コストパフォーマンスがいいということは、
すべての飲食店にとっての目標のひとつ。
それが一層、サービス精神旺盛になると、
こんな風に言われるお店になっていく。

「こんなに安いのに、なんでこんなにおいしいんだろう」

おいしい料理を安く提供するために、
いろんな努力を彼らはします。
ちょっとだけ余分に体を動かす。
厨房設備や椅子、テーブルが古くなっても買い換えず、
自分たちで修理しながら使い続ける。
余分な出費を我慢して、食材の仕入れに向ける。
そうすれば「こんなに安いのに」と
お客様から感謝していただけるから。

とても繁盛している。
もっと便利で目立つところで商売すれば、
もっと繁盛するんじゃないの‥‥、と、
お客様から言われても、
頑固に不便な場所の粗末な店で営業をする。
そうしないと、安くし続けることができないから。

経営的に言えば「人件費」と「経費」、
「家賃」を節約すればその分を原料費に回すことができる。
そうして「おいしい料理を安く売る」ことが
可能になる‥‥、というわけです。



家族で営業しているお店。
古い店。
多分、2階に住居があって、
だからお店の家賃も住まいの家賃もかからない。
だから「こんなに安いのに、
なんでこんなにおいしんだろう」
という不思議の理由はよくわかる。
でも、家族で働いているようにも思えない。
家賃も払っていそうだし、
そういえば最近、改装をして
派手な看板をつけたよなぁ‥‥。
なのになぜだかびっくりするほど安くて旨い。
不思議です。

それらのお店は大抵チェーン。
驚くほどに安くする手法は2つ。
まず、人件費の安い人を使って
料理を作り提供するコト。
昔は若い学生アルバイト。
最近になっては外国人の労働者。
技術のある職人を使うとコストがあがるから、
彼らで十分こなせるように仕組みとシステムで料理を作る。
コストは下がる。
けれどやっぱり限界がある。



最も効果的で、しかも永続的にコストを下げる方法は、
大量仕入れでコストを下げるというやり方。
例えば、マクドナルドが100円で
ハンバーガーを販売したとき。
ビックリしました。
バンズ1組、
ハンバーガーのパテを1枚、
ケチャップやピクルスを買い揃えるとして、
一体いくらかかってしまうのか?
一般の人がスーパーマーケットで
同じようなものを買い揃えたとして、
原料費だけで100円は越えてしまう。
つまり、立派な原価割れ。
さすが日本で一番大量にバンズやパテを
仕入れることができるチェーンならではの
価格戦略だなぁ‥‥、って
業界のみんなはとてもうらやましがった。

ただ、どう工夫をしても
「料理のおいしさに比べて安い」ということは
それだけ「利益が減る」というコト。
減った利益を取り返そうとすれば
当然、沢山売らなきゃいけなくなっちゃう。
薄利多売という、あれです。
おいしいモノを安くすればたくさん売れる。
たくさん売れるけど、
利益を沢山だすためにはもっと売らなきゃいけなくなる。
もっと売るためにはもっと安くしなくちゃダメで、
安くするともっと沢山売らなくちゃいけなくなる‥‥、
っていう無限地獄に突入しちゃう。
しかもそこでちょっとした心の迷いがでてしまう。

お客様を喜ばせようとするサービス精神が、
ライバルを出しぬいてやろうという
野心にかわってしまうのですね。
はぁ、切ない。

また来週といたしましょう。


サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-02-04-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN