044 超えてはならない一線のこと。その15
「おいしすぎる」を考える。

おいしすぎる。

最近、テレビをみているとかなりの頻度で
耳に入ってくる料理、食品を表現する言葉のひとつ。
おそらく「とてもおいしい」という意味で
使われているのでしょう。
とてもおいしいという表現では、
伝わらないくらいおいしいんだということを表現したくて、
おいしすぎると言ってすませる。
言葉を節約せずに言うなら
「このおいしさを伝える言葉がみつからないほどおいしい」
となるんでしょうね。
世の中、いろいろ省略するのが流行りで、
それをカッコいいと思う風潮があるから
しょうがないかと思いもします。



ただ、マイナスの意味での「すぎる」。
つまり、very deliciousではなく、
too deliciousな料理がたしかにあったりします。
なんでこんなにおいしんだろう‥‥、
と不思議に思ってしまうおいしさ。
「すぎると感じる状況」がいくつかあります。

まず、絶対的においし“すぎる”という状況。
簡単に言えば、お漬物を食べようとして
ちょっとだけ、化学調味料をかけて旨みを足そうと思う。
パパッとやったつもりが内蓋がパカンと外れて、
大量に透明な粉をふりかけちゃった。
勿体無い。
それにどれほどおいしんだろう‥‥、と一口食べたら、
旨みまみれで舌がびっくり。
お茶とか水とかを飲み込んで、
舌を洗わないと気持ち悪くなってしまう。
それが「絶対的においし“すぎる”」という状況。
さすがにそういう料理を出すお店は少ない。
少ないけれど、絶対ないかというと
決してそんなことはない。
どういうお店が、
どういう状況で、
おいしすぎる料理を提供してしまうのか。
例は尽きない結構たのしい物語。

次に、「おいしい理由がわからないけど、おいしい」状況。
21世紀に入って突然、料理がおいしくなったと言われる。
作りたての状態が、
なぜだか急に長持ちするようになったり、
スベスベなものはよりスベスベに。
やわらかなモノはよりやわらかに。
なんでこんなにおいしんだろうと考えるんだけど、
理由がわからぬモノ。
一番顔を揃えているのは、コンビニエンスストアの店先。
まる1日、おいしさが持続するおむすびなんて、
どうやってできるんだろう‥‥、
って話はかなりヘビーで複雑。
いつかお話することがあるかもしれず、
でもしばらくは封印しましょう(笑)。



そして最後は、
「こんな値段でおいし“すぎる”」という状況。
つまり、この安さで、
なんでこんなにおいしい料理ができるんだろう‥‥、
っていう疑問。
それをしばらく考えていこうと思います。

世界中を旅して歩いて、
たしかに日本の料理はとてもおいしい。
日本で食べる料理がおいしいだけじゃなく、
海外に行って「あれ、このお店の料理はおいしい」
と思ってキッチンの中を覗くと、
そこに日本のシェフがいる。
おいしいものに対する感度。
おいしいものを再現するために必要な技術やセンス。
日本人はとてもすぐれているのでしょう。
海外から日本に帰って感じるのは、
何を食べてもやっぱりおいしいというコトだった。

「だった」と過去形にしてしまったのが、ここ数年。
日本に帰って思うのが、
「おいしい」以上に「安い」というコト。
何を食べてもびっくりするほど安くて、
しかも安いからといってまずくなったかというと
決してそんなことはない。
日本の料理は「安いくせしておいし“すぎる”」のか。
「おいしいクセして安“すぎる”のか」。
細かいことは後の議論に先送り。
値段のわりにおいし“すぎる”料理が
生まれてしまう理由をしばらく説明してみましょう。


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著者:サカキシンイチロウ
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
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なぜか全国的には無名であり、
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なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-01-28-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN