気仙沼のほぼ日便り

2012年1月某日。
雪がちらつく寒いある日、
糸井重里とほぼ日乗組員数名は
気仙沼で、牡蠣船(かきぶね)に乗りました。

乗せてくださったのは、
気仙沼で養殖業を営んでいらっしゃる盛屋水産さん。
きっかけは、昨年10月の末、
「唐桑御殿」での、話からはじまります。

唐桑御殿とは、
気仙沼の唐桑(からくわ)という地域に点在する
豪華な入母屋造りの日本家屋のこと。
船に乗り、海の上で過ごす時間の長い
漁師さんたちが、
「陸にいる時ぐらい、広いところで寝たいんだ。」
と願って、たくさん船に乗って、建てられた
大きな木造の自宅のことです。

「気仙沼の一番いいところは、
 唐桑にあると思うんです。」

と、おっしゃる、
斉吉商店・和枝さんのお誘いで
はじめて唐桑を訪れた、糸井重里と数名の乗組員。

まばゆい夕焼けの光を
曲がりくねった道のところどころで浴びながら、
盛屋水産の3代目、
菅野さんのご自宅に到着したのは、
もうすっかり日の沈むころでした。

もともと、その日は、
斉吉商店さんとの打ち合わせのため、
菅野さんのお家を少しの間、お借りして、
試食などをするという予定でした。
しかしながら、
打ち合わせの合間合間にお聞きする
まるで、姉妹漫才のような、
気仙沼の女将さんふたり、
斉吉商店の斉藤和枝さんと
盛屋水産の菅野一代さんの
底抜けに明るいけれど、心に沁み入るお話に
わたしたちは、すっかり魅せられてしまったのです。

20mともいわれる津波が押し寄せた、
菅野さんのご自宅は、
木造三階建ての「三階」まで浸水したそうです。
丈夫な柱や屋根は残ったものの
天井や壁、床も畳も、障子もドアも、瓦も、
かなりの修繕が必要で、膨大な費用がかかります。
いっそ、取り壊しをしたほうがいいのではないか、
と、思っていた矢先、和枝さんから、
一代さんの悩みを一蹴するような一言が。

「壊すなんて もったいないっ!」

あれだけの津波が来ても、
建物の土台や骨組みは、
しっかり残っていました。
その津波に負けなかった自宅を
盛屋水産さんの養殖の仕事を体験し、
唐桑の自然とおいしい食べ物を堪能する
そんな場所にしてはどうか、と
和枝さんは、一代さんに
アドバイスなさったんだそうです。
加工場も全壊流出、養殖の道具も、船も、
すべて失った中、
浸水しながらも、奇跡的に残ったご自宅。
そのご自宅の中で、そんなお話を聞きながら、
わたしたち、乗組員は、
「ぜひ、その船に乗るツアーに参加させてください。」
と、お願いしてお別れしたのでした。
それから、3ヶ月後の1月下旬、
約束通り、一代さんは
わたしたちを誘ってくださいました。

1月下旬、一年の中で、
いちばんと言っていいほど寒い季節。
このころ、盛屋水産では、
牡蠣たね作りに、忙しい時期でした。
帆立の殻に小さい牡蠣の赤ちゃんを付着させた
牡蠣たねを、2本のロープの依りの間にはさみ、
静かな潮の流れのあるところにある筏から
吊るして、育てます。

たね作りだけとっても、たいへん手間ひまのかかる仕事。
しかも、牡蠣を育てる仕事は、とても朝が早い!
とくに、寒い冬の季節に、夜中の2時に起きて、
牡蠣を剥くという収穫の時期は、

「長靴が入らなくなるぐらい
 しもやけで、足が
 パンっパンっっになるんだよぉ。」


と、一代さんは、
底抜けに明るく教えてくださいました。

その盛屋水産さんご夫妻に
大切に育てられた牡蠣のある「筏」を目指します。
「乗組員」と言っても、じつは丘専門、
船には不慣れな「ほぼ日乗組員」、
万が一のライフジャケットを装着して、いざ、海へ。

一瞬、頬に当たる風は冷たく感じましたが、
慣れてくると思ったより、温かい。
盛屋水産のみなさんの熱烈大歓迎に、
わたしたちの気持ちも
ほかほかになったのかもしれません。

さあ、筏につきました。
牡蠣筏から、牡蠣を取り出し、

「こんなに大きくなったよー!」

と、よろこぶ一代さんの姿を
イトイがTwitterでお知らせしたりもしましたね。

牡蠣を殻から外して、野菜たっぷりのお鍋にドボン、
さらに、海水だけで味付けして
身が固くならないうちにいただきます。
体も気持ちも、ほっとする、
ほんとうにあったまるお鍋でした。
そのあとは、気仙沼湾を一周。
ほんの数カ月前に、大きな津波があった海、
その場所をはじめてクルージングする
わたしたちは、
それぞれにいろんな思いで、海を見つめていました。

それから、さらに3ヶ月後の現在。
盛屋水産の牡蠣は、とっても元気に育っています。
昨年の夏から仕込んだ、約8ヶ月めの牡蠣は、
もうすでに、通常の2年ものぐらいの大きさに
育っているとのこと。

写真を見ての通り、
ぷっくり! つやつや! ぴっちぴち!の
気仙沼の牡蠣。
どうです?? 
どこかのお嬢さんのように(?)
うつくしくて、おいしそうではないですか!

そろそろみなさん、牡蠣の味のほうも
気になってきましたよね?

盛屋さんのところの、採れたての牡蠣を
斉吉さんが、丁寧に蒸して、
炭火で焼いて、オイルにつけた
「牡蠣のオリーブオイル漬け」
なんと! 明日5月2日から、
新宿・伊勢丹の斉吉商店さんのコーナーで
販売がありますよ!
お近くのかたは、ぜひどうぞ。

盛屋水産の牡蠣船ツアーのほうも、
たくさんのかたに参加できるようになったら
また、こちらのページでお知らせしますね。
それでは、また。


※文中でリンクしているブログ
「盛屋水産 気仙沼つなぎ牡蠣の仕事。」

も、ぜひあわせてお読みください。