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勉強サイド

勉強の夏、ゲームの夏。2017

masahiro.tanaka

江洋先生、質問に答える(1)

2017/08/25 15:36
なんだかこのままでは中国の受験の話について
永遠に聞いてしまいそうなので、
江洋先生、質問コーナーにいきましょうか。

「いきましょう」

まず、高校3年生のかたからの質問です。

『わたしはことし受験生で、
小論文の練習をしているのですが、
いつも自分の文章に自信が持てず、
書いては消してを繰り返すばかりで、
時間内に書き終えることができません。
いい文章を書くにはどうすればよいのでしょうか?』

「この質問は答えられそうです。
というのが、わたしの院での研究テーマが、
まさに小論文なので」

お、それはバッチリですね。聞きたいです。
いい文章はどうやったら書けるのでしょうか。

「中国に、すごく有名な言葉があるんです。
いい文章とは
『頭は虎、胴体は豚、尻尾はヒョウ』
というものなんです」

頭が虎、胴体が豚、尻尾がヒョウ‥‥。
どういうことでしょうか。

「まず、文章の頭──つまり、
冒頭は虎のようにまっすぐに、
じぶんの主張を書きます」

ほう、ほう。まずは主張をまっすぐ書く。

「そして、胴体は豚。
最初に書いた主張についての
理由や証拠を書きます。
そういった理由や証拠はいくつあっても
かまいませんが、
なるべく充実させてください。
そこがないと感想文になりますから」

それ、どうして豚なんですか?

「豚肉って、おいしいじゃないですか。
いい文章では、この部分が
いちばんいい味わいなんです」

へええ、おもしろーい!

「で、最後は、文章のまとめを、
ヒョウの尻尾みたいにエレガントに
書いてしめるんです」

わぁ、すばらしい。そしてかっこいい。
頭が虎、胴体が豚、尻尾がヒョウ。
参考になりましたでしょうか。
ぼくも覚えておこうと思います。
masahiro.tanaka

江洋先生、質問に答える(2)

2017/08/25 15:46
では江洋先生、
こちらの質問はいかがでしょうか。
『留学するため語学を勉強しています。
いまは単語帳で勉強しているのですが、
先生は動画を見たり文章を読んだりして
勉強するほうが効果的だと言います。
いま、この両方をやる時間はないのですが、
どちらをやるべきでしょうか』

単語帳で勉強するか、動画を見たりして勉強するか‥‥。
先生、どうでしょう?

「わたしのおすすめは、
動画を見たり文章を読んだりですね。
なぜなら単語帳だと、覚えたあとに
その単語をどういう文脈で使えばいいか、
さらに勉強しなければならないからです。
動画や文章だと、生きてる語学だし、
単語もあわせて覚えられますから」

明快な答えをありがとうございます。
せっかくなので、同時にこちらの質問も。

『おすすめの語学勉強法はありますか?』

ありますか?

「わたしがいいなと思っているのは、
旅行するときに、現地の
タクシードライバーの人と話すことなんです。
ウーバーのドライバーの人とか。
いろいろな雑談もできますし、
地元の情報も手に入るし。
わたしは積極的に話しています」

なるほど。それもまた
生きてる語学の勉強ですね。

「似たような方法ですが、買い物で店員さんと
たくさん話すのもおすすめです。
ただ服を買うだけじゃなく、
そのとき店員さんに意見を聞いてみるとか。
店員さんも接客しなきゃ!と思っているから、
けっこう付き合ってくれます(笑)」

さすが2ヶ国語を習得してきた江洋先生、
アドバイスが現実的です。
語学勉強中のかた、参考にしてみてくださいね。
masahiro.tanaka

江洋先生の、ドラマ勉強法。

2017/08/25 15:54
「そういえば、もうひとつ
おすすめの語学勉強法がありました」

お、ぜひ聞きたいです。どういうものでしょう?

「わたしはアメリカのドラマが好きなんですが、
すごく英語の勉強になるんです。
『ゲームオブスローンズ』という
テレビドラマを毎シーズン見ているのですが、
おもしろいし、聞き取りの訓練にもなるし。

まあ、そのドラマはファンタジーなので、
ドラマで話されていることばのぜんぶが
使えるフレーズではないのですが、
もっと実用的なものだと、アメリカのコメディドラマは
生活で使えることばが多くておすすめですよ」

なるほど、ドラマを見る。
それはたのしくて続きそうな勉強法という気がします。

それと、聞いてみたかったんですが、
江洋先生はもともとどういう理由で
大学で日本語を専攻しようと思ったのでしょう?

「じつは、それもドラマなんです(笑)。
わたしは単純に日本のドラマが好きで、
字幕なしでドラマを見たかったんですね」

なるほど、ドラマから入ったんだ。

「そうなんです。
あと、わたしが2、3歳くらいのころに、
中国で『東京ラブストーリー』が
大ヒットしたんですけど、
母が実際に『東京ラブストーリー』で
日本語を勉強していたんです。
わたしもそれを見ていたので、
その影響もあるかもしれません(笑)」

江洋先生はいまも日本のドラマを
見たりしますか?

「はい、見てますよ。
最近だと松本清張の小説をドラマにした
『黒革の手帖』がおもしろかったですよ。
武井咲が銀座の女王になる話です」
masahiro.tanaka

江洋先生にとっての「勉強」。

2017/08/25 15:58
だいぶ長くなってきたので、
もうそろそろ終わりにしようかと思いますが、
最後にもうひとつ質問を。

ちょっと漠然としているのですが、
受験勉強のたいへんな中国出身の
江洋先生にとって、
「勉強」ってどんなものですか?

「そうですね‥‥わたしの思う
勉強というのは、ええと(笑)、
『自分が頭がいいと思っている人でも、
努力しなければうまくいかないこと』
です」

なんだかリアルで面白いです(笑)。
頭がいいだけではダメなもの。

「そうですね、いくら頭がよかったとしても、
受験戦争のきびしい中国では、
それだけでは他の人に勝てないんです。
やっぱり努力しないとうまくいきません」

そうですね、やっぱりそういうものですね。

「まあ、とはいえ、何も考えずに
努力し続けることは難しいので、
自分なりにたのしい勉強方法を見つけて、
やっていくのがいいと思います」

たのしみながら。

「ええ。たとえば、わたしはいま
大学院でたくさんの英語の難しい論文を
読まなければならないことがあります。
それは、しんどいと思うこともあるのですが、
実際には
『読めば読むほどたのしくなる』んですね。
理解がすすむので。
そこに気づくと、たのしくやれるんです。
勉強もそれと同じで、
なかにあるたのしい部分を発見するようにすると、
良いんじゃないかと思います」

ちなみに江洋先生は、
『卒業後にこんな仕事をしたい』とか、
そういう思いはありますか?

「これは具体的な目標ではないのですが、
さいわい、3カ国のことばができるので、
どこへ行ってもじぶんの力を
発揮できる人になりたいと思っています」

いやはや、なんだかどの話題になっても
地に足がついている感じで、
江洋先生、かっこよかったです。
今日はありがとうございました。

「こちらこそありがとうございました」
okuno

4人目の先生は、山邊恵介さん。

2017/08/25 16:00
ときどき、TOBICHIで、
靴磨きのお店を開いてくれている、
山邊恵介さんです。

というか、いつもおなじみ、
等々靴磨店の山邊くんです。

現在、山邊くんは
筑波大学人文科学学群人文学類の
考古学・民俗学専攻文化人類学コース、
というところで学んでいます。
ことしで、2年生。

つまり「身分」だけでいえば、
先生と言うより、まだ学生なんですけど、
ここにいたるまで、
つまり佐世保の高校時代から受験を経て、
今へ至るの道のりが、
聞くだにおもしろいなと思っていたので、
今回、ご登場いただきました。

というのも、
彼は、高校1年で進学校を中退し、
その後18歳までの3年間、
生まれ故郷の佐世保で、
靴磨き職人としてはたらいていたのです。

そのときのことは、
以前に、ほぼ日でインタビューしていて、
そこでまとめて語ってくれているので、
もしよければ、
どこかのタイミングで読んでみて下さい。

こちらです。

21世紀の「仕事!」論。靴磨き職人 篇

今日、高校から現在にかけての話を、
あらためて聞いてみると、
山邊くんのまだまだ短い「半生」には、
佐世保の大人たち、
とくに「4人の先生」の存在が、
くっきりと、浮かび上がってきました。
okuno

出会ったときの印象。

2017/08/25 16:05
21世紀の「仕事!」論。靴磨き職人 篇
の取材のときに、ぼくらは、
「なんて、大人っぽい少年なんだ‥‥」
と感じました。

早熟というか、老成しているというか。

決してラクな仕事ではない
靴磨き職人として、
大人に混じってはたらいているからか、
お金を稼ぐということの大変さを
身をもって話してくれたし、
地元の歴史や人間関係にも詳しく、
「立て板に水」のような話しぶりでした。

それが、あまりに「立て板に水」なので、
目の前の少年が
「歳‥‥サバ読んでるんじゃないか!?」
と、しばらく怪しんだほどです(笑)。

なにしろ、インタビューの前に、
お昼ごはんを食べましょうってことで、
地元のお店に連れてってくれて、
おいしいフライ定食(だったかな?)を
おいしくいただいて、
さあ、お代を払おうと思ったら、
トイレに立った帰り道に
山邊くんが、既に払ってくれてたんです。

当然そんなつもりはなかったんで、
「いやいやいやいや、
ここは、ぼくらで払いますから!」
とレジ前のサラリーマン的なやり取りを
するまでもなく
当時18歳の山邊くんは
「いえ、遠くから来ていただいてるので
これくらいはさせてください」
と、キッパリと、静かに、ゆずりません。

取材に同行したも、
「娘より年下の人に
昼メシおごってもらうとは、なあ‥‥」
と。

ご厚意は、ありがたく、頂戴しました。
(お返しに後日東京でおごりました)
okuno

学習塾をクビになる。

2017/08/25 16:10
そんな山邊くんなので、話していると、
いかにも頭の回転が早く、
ハタチに思えないほどもの知りで、
あえて、ちょっとヤな言い方をすれば
世知にたけている、という感じ。

こういう人は、昔からそうだったのか?

そんなところから、
インタビューをはじめたいと思います。

山邊くんって、
ちっちゃいころは、どんな子だったの?

「母が言うには、人に言われたからって
勉強する子どもじゃなかったそうです。 
というか、人に言われたら、やらない。
だから宿題もぜんぜんやっていかない」

へえ。

「学校の先生には
宿題しろ、勉強しろって言われるので、
その反動でまったくやらずに
授業を聞いてるだけだったので、
中学くらいまでは、
成績は中の上あたりをウロウロしてて」

そうなんだ。

「学習塾にも通っていたんですが、
中学2年生のとき、クビになりました」

は? クビ? 塾ってクビになるもの?
 
「はい、宿題もやって来ず、
話も聞いておらず、字も汚いために、
このままでは、うちの塾では、
高校受験をみることはできないって」

そ、そうなんだ。

「そこで
中学3年生から別の塾に移りました。
で、そのころになると、
さすがに、勉強をしはじめたんです。
受験が近かったし、
なにより姉がものすごく努力家で、
コツコツ勉強する姿を見ていて、
かっこいいなって思うようになって」

こうして、
生徒会長だったにも関わらず、
「宿題をやらず、遅刻も多かったから」
という理由で、
高校の推薦にも落ちた山邊少年は、
筆記試験を経て、
地元・佐世保の進学校に入学します。
okuno

中学の美術部のF先生、
画塾のO先生。

2017/08/25 16:15
そうやって、せっかく入った進学校を、
ほとんど通わずに中退することになる
山邊くんなのですが、
その前に、時計の針をすこし戻します。

はじめて知ったのですが、
山邊くんは、
中学のときに美術部に所属していて、
かつ画塾にも通っていたそうです。

そこでお世話になった先生が、
美術部のF先生と、画塾のO先生。

ふたりの先生は「先輩後輩」の間柄。

話を聞くと、
教育者であるF先生には、
写実的な絵の方法論を教え込まれ、
芸術家であるO先生には、
かたにはまらない芸術の自由さや、
その尊さを教わったようです。

印象的なエピソードを、ひとつ。

「あるときに、
F先生の先輩であるO先生が
いまFはどうしてる?って、
聞いてきたんですよね。
風景画を教わっていたので
風景画を教わっていますと答えたら、
じゃあ、みんな画板持って、
外へ出て写生してるのか、大変だな」
って。

ええ。

「でも、F先生のやりかたは、
まずは、風景をうまく写真に撮って、
それを画用紙の大きさにまで
拡大コピーして、
それをトレースして色を塗るんです。
そうやって写実的な絵の基礎を
教えてくれていたので、
そのことを言ったんです、何気なく」

うん。

「そしたら、
O先生が、ワナワナと震え出して‥‥
奥さんに向かって、
おい、いますぐFの野郎に電話して
そんなつまらんことを
子どもにさせるなって言え!と‥‥」
okuno

F先生から教わったこと。

2017/08/25 16:20
そのように、なにかと正反対な感じの
O先生とF先生でしたが、
いまから思えば、
それぞれに大切なことを教わったと、
山邊くんは言います。

「F先生に教わったことで
勉強になったのは
何事も、物事にはやりかたがある、
ということでした。
F先生は、
教え子に絵の賞を取らせることが、
ものすごく得意だったんです。
いわゆる『傾向と対策』ですよね。
レースに勝つには、
戦い方があるんだってことです」

のちに、このF先生の教えの重要性を、
筑波大学の受験時に、
山邊くんは「痛感」するのですが、
そのことは、また、あとでお話します。
okuno

O先生から教わったこと。

2017/08/25 16:25
のちに、筑波大学への「推薦状」を
書いてくれることになるのが、
もう一方の絵の先生、O先生でした。

先生は、山邊くんに、
どんなことを教えてくれたんですか。

「自分を増やせ、とういことです。
先生は自己増殖、
という言葉をよく使っていましたが、
これは、直接的には、
絵という芸術を、
自己表現のために使うなという、
芸術家としての思いが底にあります。
そんなことは、おこがましいと。
そんなことより、自分を増やしていけ。
靴磨きをしている山邊。
進学校を辞めて通信高校に通う山邊。
そして、いつか、大学に行く山邊。
何かひとつの自分や表現にこだわらず、
自分というものを、
増やしていくことが重要なんだって」

なるほど。

「大学に提出するの推薦状のなかでも、
次のようなことを、書いてくれました」

はい。

「要約ですけど‥‥
山邊は、ものごとは知っている、と。
でも、それらの知識は、
つらなりのないままの、ただの知識だ、
それらの知識の間に
有機的な連関を持たせるためには
大学という場所で学ばせる必要がある」

なるほど。

「このことは、
自分を増やしていけという考え方と、
とてもつながっている気がしました。
いま、自分は
文化人類学を学んでいますが、
物事を多面的に捉えるという姿勢も、
そういえば、
O先生に教わってたことだなあ、と」

うん。

「なにより、推薦状が、うれしかった。
学校を中退して、靴磨きも、
赤字続きで汲々としていた自分には、
とってもうれしかったんです。
何でもない自分のことを、 
O先生が言葉にしてくれたことが、
とっても、うれしかった」

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