NATIONAL GEOGRAPHICにあこがれている。
こんにちは、ほぼ日の奥野です。
『ナショナル ジオグラフィック』という
雑誌にあこがれています。
空中に浮かぶマチュ・ピチュを「発見」し、
海の底に沈むタイタニック号を「発見」し、
アポロ11号に、自分たちの旗を
月へ持って行ってもらった、黄色い雑誌。
特集記事のスケール感。興味対象の幅広さ。
地球を真剣に遊び倒している、あの感じ。
じつに‥‥あこがれ。
というわけで、日本版の編集に携わる
武内さん・大塚さん・芳尾さんのお三方に、
ワシントンにある
「ナショナル ジオグラフィック協会」や
雑誌自体の歴史について
じっくりたっぷり、うかがってきました。
100%ファン目線で恐縮です。
あこがれは、取材後ますます高まりました。
目次
第1回 33人の名士が、地理学のために。 2016-04-07-THU
第2回 写真がすごい理由。 2016-04-08-FRI
第3回 取材対象、地球。 2016-04-11-MON
第4回 探検は、終わらない。 2016-04-12-TUE
第1回 33人の名士が、地理学のために。
──
純粋な読者としても、
取材して記事を書く仕事に就く者としても、
ずっと、
『ナショナル ジオグラフィック』には
憧れを抱き続けてきました。
武内
それは、ありがとうございます。
──
どこか知らない土地のできごとなんだけど、
たしかにこの地球上で起きている、
そういう事象を、
美しい写真とともに紹介してくれるので
「ナショジオは
 次は何に注目するんだろう」と思ってます。
大塚
うれしいですね、そんな。
──
Yahoo!のニューストピックに
ナショジオの記事がピックアップされることも
多いような気がしています。

それだけ、みんなの関心を得そうなニュースだと
思われてるってこと以上に、
Yahoo!ニュースの記事を選ぶ人の中に
ナショジオのファンがいるんじゃないかとか。
武内
あはは。
──
月面には、
ナショジオの旗が立っていたというウワサも
聞いたことありますし‥‥。
武内
アポロ11号の月面着陸を支援していたので、
運んでいってもらったと聞いています。

ただ、月面に立ててはいないと思うんですが、
そういう「都市伝説」でも
納得できてしまうのがナショジオですよね。
芳尾
ちなみに、奥野さん的に
気に入っている特集って何かありましたか?
──
3年くらい前の、デニソワ人の特集です。
武内
おお、デニソワ人。
ナショナル ジオグラフィック日本版 2013年7月号 p94-95 より
──
教科書などでは
われわれホモ・サピエンスのご先祖さまが
最終的に
ネアンデルタール人との争いに勝って、
この地球に繁栄していると教わったわけですが、
その同じ時期に、ひそかに、
「デニソワ人という第3の人類が存在していた」
ということを
あの号のナショジオで、初めて知りまして。
芳尾
ええ。
──
ものすごくワクワクしてしまい、
その後、デニソワ人の取材に行ったほどです。
大塚
え、本当?
──
はい(笑)。
武内
たしか、デニソワ人って、
当初、歯と小指の骨しか見つからなかった、
地味な発見だったんですよね。
──
暗い洞窟の中で、
そんな小片をよく見つけたなっていうのが、
まずは、驚きでした。

そして、その発見が
現代のDNA鑑定の時代になされたからこそ、
デニソワ人の存在が明らかになったという、
その事実に、すごくロマンを感じて。
芳尾
DNA鑑定の時代以前だったら
ただの骨の欠片として処理されていただろう、
ということですね。
──
毎回、いろいろ楽しませていただいてますが
ナショジオから受けた影響で
最たるものといったらそのことだと思います。
武内
うれしいです。
──
調べれば調べるほど
『ナショナル ジオグラフィック』って
まれな雑誌だと思うんですが、
そもそもの「起源」は、どのような‥‥?
武内
はい。1888年1月、ワシントンD.C.で
ナショナル ジオグラフィック協会が設立されました。
だから、今から128年前、かな。
同じ年の10月に、ナショジオ誌が創刊されています。

当時のアメリカ上流社会の
いわゆる「名士」と呼ばれる人たち33人が、
世の中に「地理知識の発展と普及」をしようと
設立した団体が、そもそものはじまりで。
──
つまり「地理学」ですね。
武内
ええ「Geographic(ジオグラフィック)」
というのは「地理学」という意味ですからね。

当時、すでに世界地図は存在していましたが、
たとえば「南極大陸全体」を
くまなく知っている人はいなかったわけです。
──
そういう知見は、どこにもなかった。
武内
アメリカ国内でも、グランドキャニオンなどは
未踏破で探検の対象でした。

そういう未知の場所に、お金を出すから
探検に行ってきてくれないかという団体を、
名士たちが結成したんです。
──
探検家や研究者を、資金的に支える団体。
大塚
ええ、わたしたちは
「エクスプローラー」と呼んでいるんですが、
彼ら研究や探検の専門家を支援するのが
「ナショナル ジオグラフィック協会」です。

NPOというかたちをとっています。
武内
1888年というと「ライト兄弟以前」で、
まだ、飛行機は飛んでいません。

自動車は走っていましたが、
まだまだ、足で探検するしかない時代です。
アメリカ国内をはじめ世界中に、
広大な未知の領域が、広がっていたんです。
大塚
和暦でいうと「明治21年」ですね。
武内
当時は、科学技術も日進月歩で
人類の知見もぐんぐん広がっていました。

これは私の想像ですけれど、
ナショジオを設立した33人の名士たちは、
知恵とお金を出し合って、
あらゆる専門家をサポートすることで
この地球に広がる
未知の世界をつまびらかにしていこうと、
そう、考えたんだと思うんです。
──
ノブレス・オブリージュというか、
いかにもアメリカらしい使命感、というか。
武内
初代会長は、ガーディナー・グリーン・ハバード。

その義理の息子が
アレキサンダー・グラハム・ベルで、
彼が2代目の会長。
──
ベルさんというと、電話の発明で有名な。
芳尾
当時の表紙も残っていますけど、
最初は論文誌みたいなものだったんです。
武内
協会の会員向けに配布される会員誌で。

注:現在、英語版のナショナル ジオグラフィック誌を
  発行するのは、ナショナル ジオグラフィック・パートナーズ。
  日本版は、日経ナショナル ジオグラフィック社が発行。
NATIONAL GEOGRAPHIC The Covers 表紙デザイン全記録 p24-25 より
──
あ、一般向けに売ってたわけじゃなくて。
大塚
ええ、先ほども言ったように
使命感のようなものが出発点だったので
商売とか金儲けという視点がなく、
設立当初は、ずっと赤字だったそうです。

表紙もただの茶色で、
いかにも、おもしろくなさそうだし‥‥。
──
たしかに(笑)、
格調高く、敷居も高い感じがします。
大塚
「探検や研究の結果、
 地理学的にこういうことが判明した」
という内容の、
きわめて学術的な雑誌だったんです。
──
第1号は、何の特集だったんですか?
大塚
たしか、
火山の噴火に関する記事が何本かあったと
記憶しています。

フィールドワークをした結果のレポート、
というスタイルは、
第1号目から確立されていたようですね。
──
既存の学会とは別のところで
時の名士たちが知恵とお金を出し合って
地球に対する知見を拡げよう‥‥
という試みには
これまでにない新しさがあったと思いますが、
運営費は、会員の会費から?
武内
ええ、そうですね。

会費といっても微々たるものでしたから、
協会に雇い入れたのは
基本的には別の仕事をしている人でした。
大塚
専業の編集者さえ、いなかったんです。
──
ナショジオといえば「写真」だと思うんですが、
誌面に、はじめて写真が載ったのは‥‥。
武内
最初に掲載した地理的な写真は、1890年。
北極海(アラスカ沖)の島を撮ったものでした。
NATIONAL GEOGRAPHIC プレミアムフォトコレクション p36 より
大塚
フィールド、つまり屋外に出て撮影した写真を
雑誌の誌面に掲載すること自体、
当時、かなり画期的な出来事だったと思います。
──
なにせ100年以上、昔のことですものね。
芳尾
当時の写真って、被写体を動かないようにして
時間をかけて撮るものだったわけで、
そこらじゅうで何かが動いている屋外の風景を
撮影しただけで、すごいことだったんです。
──
この地球上には
まだまだ知らないところがあると考えるだけで
ワクワクしますけど、
その光景が誌面に再現されるだなんて、
当時の読者は、本当に、驚きだったでしょうね。
武内
1905年には、
ロシアの地理学協会から融通してもらった
ラサの写真を掲載したところ、
たいへんな評判を巻き起こしたそうです。
──
ラサというと、チベットの?
芳尾
そう、アジアの秘境の首都、ということで。
武内
なんでも、原稿が足りなくて、
編集長が苦しまぎれに載せたそうなんです。

当時は、まだ「写真」というものは
目新しくはあるけれど
「信頼」に足るメディアではなかったらしく、
誌面が埋まらないからって
ちょっとキャプションつけただけの写真を
何枚も載せてしまった編集長は
「ああ、俺はもうクビだ」と思ったそうです。
──
でも、フタを開けたら、大好評。
武内
そのころを境に
会員の数も、倍以上に増えていきました。
──
やはり、ナショジオが普及していく背景には、
「写真のちから」も、あったんですね。
大塚
そう、写真というのは
それほど人々を魅了するメディアなんだと
そのとき、確信したそうです。
NATIONAL GEOGRAPHIC プレミアムフォトコレクション p64-65
<つづきます>

2016-04-07-THU
ナショナル ジオグラフィックから届いた、
動物たちの「しあわせ顔!」の最新刊。
『ナショナル ジオグラフィック』本誌の
「写真のすごさ」については
上のインタビューでも語られていますが、
ひとつの大きな「ジャンル」として
「動物写真」があります。
猫の写真で大人気の岩合光昭さんも、
じつは、ナショジオの表紙に写真を掲載された
数少ない日本人のひとり、なのです。
(しかも2度、表紙に掲載された日本人は
岩合さんただひとり、だとか!)
そんなわけで、ナショジオからは
素晴らしい写真集がいろいろ出てるんですけど、
このたび、またまた
興味深い一冊が届きましたので、ご紹介です。
世界の有名な動物写真の賞を
たくさん受賞している写真家・福田幸広さんの
『動物たちのしあわせの瞬間』です。
福田さんは
「マイナス20度以下の雪山」とか、
「標高4000メートル以上の断崖絶壁」とか、
「無数のダニに苦しめられるジャングル」
などに足を踏み入れては、
そこで暮らす動物たちを撮り続けてきました。
今回の写真集は、そのなかでも
動物たちの「しあわせの瞬間」を集めた作品集。
クロザルさんの、
この、なんとも言えない表情をごらんください。
歌っている? というか、笑っている‥‥!?
こういう写真が満載です。
ご興味あったら、ぜひごらんになってください。
「動物が笑っているかどうかの判断は
 私たち見る側の心の問題だ。
 動物が笑っているように見えたなら、
 見る側もしあわせを味わうことができる。
 だから私は、フィールドで動物たちを見る時は
 極力楽しく解釈するようにしている。
 『ニコニコと笑っている』と思えるほうが、
 はるかにしあわせな時間を過ごせるからだ」
(福田幸広さんの言葉/本文より抜粋)

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