NATIONAL GEOGRAPHICにあこがれている。
第3回 取材対象、地球。
──
お聞きしていると、
『ナショナル ジオグラフィック』って、
ますます、
ふつうの出版社がつくる雑誌とは、
根っこから、まったく違うように感じます。

見た目の形は、同じ「雑誌」ですけど‥‥。
武内
そうですね、その部分は
わかりやすくも、わかりにくくもあるなと
思っています。
──
と、おっしゃいますと?
武内
もともとが「会員向け」で
商売っ気もほとんどない雑誌だったと
先ほど言いましたが、
エクスプローラーたちを支援するには
会員数、
つまり読者数を増やすことが重要だと
気づくに至るんです、そのうちに。
──
なるほど、そこが増えていかないと
支援するための資金を生み出せない。
武内
その意味では、雑誌というのは
あくまで
目的を果たすための「手段」でしかなくて。
──
で、「目的」というのが、
「エクスプローラーたちを支援して
 地理学を普及させること」
なんですね。

ふつうの出版社とは、まったく目的が違う。
武内
そう。
──
次は、どの人に支援をしようか決めるのは、
編集部とは別の人たちなんですか?
武内
ええ、別です。
──
選考委員会のようなものが?
武内
はい、あるんです。
大塚
世界中へ向けて、
科学者や探検家の募集をかけているんです。

たくさんの応募がありますが、
委員会のメンバーが、それぞれを精査して、
ナショジオとして
支援する価値があるかどうか判断してます。
──
なるほど。
大塚
その意味で「雑誌」には、
探検や研究の成果を発表する「場」としての
存在意義もあります。
──
ナショジオという雑誌は、
エクスプローラーたちを支援するための
手段であり、
エクスプローラーたちの探検や研究成果の
発表の場でもある。
武内
ナショジオの真似をしようってところも、
あったかもしれないですが、
一朝一夕には、ちょっと無理でしょうね。
──
単なる「媒体=メディア」じゃなくて
意思を持って、理想を掲げて
行動し続けている運動体といいますか。
武内
だからこそ、
「もう、極端な場所に行くしかない!」
みたいなところが多分にあって。
──
運動法則としては。なるほど。
武内
ナショジオが、
米エール大学の考古学者ハイラム・ビンガムの
発掘調査を支援して、
1913年4月号の全ページを使ってレポートし、
「世紀の大発見」と言われたのが
あの有名な「マチュ・ピチュ」なんですが‥‥。
──
サラッとおっしゃいましたが、
空中都市マチュ・ピチュを「発見」したのって、
ナショジオ、なんですよね‥‥。
NATIONAL GEOGRAPHIC プレミアムフォトコレクション p62-63 より
武内
もちろん、周辺に住む人たちは
以前から存在を知っていたわけですし、
ナショジオの支援も
ビンガムの2回目の調査にたいするもの。
それでも、ビンガムが撮った写真を、
世界へ発信したのはナショジオが初です。

で、その発見と並ぶ大きな成果としては
「タイタニック号の発見」があって。
──
わ、タイタニック号も
ナショジオが見つけたんでしたか‥‥えええ。
武内
はい。
──
海の底に沈んでいた豪華客船を?
武内
そうなんです。

当然、沈没したおおよその位置というのは
わかっていたんですけど、
きちんと、真っ暗な海の底まで潜って、
映像にも撮ってきたのは、ナショジオです。
NATIONAL GEOGRAPHIC The Covers 表紙デザイン全記録 p170-171 より
──
それも‥‥どなたかを支援して?
武内
ロバート・バラードという海洋学者です。

もともと彼は、深い海の底にある
「熱水噴出孔」を研究していたんですが。
──
熱水噴出孔。と、おっしゃいますと‥‥。
芳尾
地熱で温められた熱い水が噴出してくる、
海底の割れ目のことです。

深海の生き物が
そこに、ワラワラ集まってくるんですよ。
──
そういう場所が、海の底にある。
武内
おかしな生物が、いっぱい集まるんです。

最近、注目が高まってきている
ガラパゴス沖の熱水噴出孔についても
真っ先に研究を支援したのがナショジオで、
世界に、写真で、
ユニークな生態系を伝えたのです。
──
そうなんですか。
武内
ナショジオにしてみれば、
海底も当然「地理学」の範疇なんですね。
──
目に見えない海の底とは
どういう構造になっているのか‥‥と。
武内
ともあれ、ロバート・バラードが
海底に沈んだタイタニック号を発見したのは、
1985年9月のこと、でした。

場所は、
カナダ・ニューファンドランド沖550キロ、
水深約3800メートルの海の底。
──
発見って、案外、最近だったんですね。
知らなかったです。
武内
当時、タイタニック号は、
夢を追う大金持ちたちも探していたので、
大発見のニュースは
一夜にして世界をかけめぐったんですよ。

そして、ナショジオの1985年12月号に
ロバート・バラードによる
「われわれは、
 いかにしてタイタニック号を見つけたのか」
というレポートが掲載されたんです。
──
海軍などの国の機関でもなく、
テレビ局でもなく、大金持ちでもなく、
ふだん雑誌をつくってる人たちが
スペシャリストを支援して、発見した。
武内
正確には、雑誌というより、
ナショジオ協会にたずさわる人たちが、
という表現になりますけど。
──
完全に余談ですが、
細野晴臣さんのお祖父さまが
タイタニック号に乗っていた唯一の日本人で
生還されていたということも
ナショジオの記事で読んだ記憶があります。
武内
あ、そうですね。

本誌でも2012年4月号で記事にして、
Web版のナショジオでも
細野さんにインタビューしています。
──
そして地理学って広いなあとも思いました。

だって、自然科学の話題はもちろん、
東日本大震災のことを、取材したりもして。
武内
たぶん、ナショジオが視野に入れている
「地理学」の概念には、
自然科学はもちろん、
社会科学的な見地も含まれているんです。

よく「何を取材対象にしてるんですか?」
と聞かれるんですが
森羅万象としか言いようがないんですよ。
NATIONAL GEOGRAPHIC プレミアムフォトコレクション p274-275 より
──
ぼくらの身のまわりにあるもの、すべて。
武内
そう。
──
取材対象、地球。
武内
そうです。
大塚
「地球って、いったい何なんだろう?」
とか
「地球では、何が起きてるんだろう?」
とか、
「ジオグラフィック」って、
そういう興味関心を持っているんです。
武内
うん、うん。
大塚
学校で教わる地理の授業と比較すると、
圧倒的に範疇が広いです。
──
圧倒的に、おもしろそうですし‥‥。
武内
圧倒的に、危険。
芳尾
なにしろ、
誰も見たことも行ったこともないところへ
行きたがる人たちのやることです。

1900年代の初頭には
懸命に、北極や南極を探検していましたし、
1950年代には、
エレベスト登頂を支援していました。
──
そういう探検とか研究って
なんとなく、
国とかが税金とかでやってるのかな‥‥と
思ってしまいがちですが
民間がやってきたというのが、すごいです。
武内
まあ、民間「だけ」ではないですし、
共同研究もたくさんありますから
ナショジオだけの成果といえないケースも
もちろん、ありますけれど。
──
でも、33人の名士が集まって結成した
プライベートな団体に
地球に関する知見がどんどん貯まっていくって、
思えば、すごいことだと思います。
武内
狼煙を上げてここまで続けているのは、
ナショジオくらいですからね。
とにかく、やることが徹底しています。

そのことは、
創設以来、ずっと変わってないですね。
<つづきます>

2016-04-11-MON