ブルックリン在住のサヤカさんと
東京在住の伊藤さんは、
何度かお互いの居場所を行き来して、
服づくりのミーティングを重ねてきました。
来日中のタイミングで実現したこの対談、
ニューヨークにいるからこそのクリエイションのことや、
サヤカさん、伊藤さんの考える
「ほんとうに好きなものをつくる」姿勢、
そして、岐路に立ったときの直観についてなど、
ぴんと背筋の伸びるような話になりました。
ニューヨークの服飾ブランド・SAYAKA DAVISと
「weeksdays」のものづくりには、
共通していることが、たくさんあるようですよ。

サヤカ・デイヴィスさんのプロフィール

Sayaka Tokimoto-Davis

サヤカ・トキモト – デイヴィス(時本紗弥加)。
デザイナー。ニューヨーク在住。
幼少の頃からファッションデザインに興味を持ち、
文化服装学院でファッションを学ぶ。
2004年、同学院を卒業後、
ニットデザイナーとして
日本のアパレルブランドに5年間勤務。
2009年、ニューヨークに拠点を移し、
ファッションブランドUnited Bambooで
デザインに携わる。
2013年、自身のブランドSAYAKA DAVISを立ち上げ、
洋服と宝飾のコレクションを発表。
現在NY、東京の人気セレクトショップを中心に展開。
清潔で、モダン、シンプル、ほかにはないシルエット、
日本の美学である「余白の美」を取り入れたデザイン、
皮膚感覚を大切にしたテキスタイル使いによる
レディスウェアが人気を博す。
ニューヨークを本拠地としつつ、
2017年春夏シーズンからは、
日本でも展開を続けている。

その3
心の余白がうみだすもの。

伊藤
服づくりはもちろん、
コレクションブックをつくるとか、
そういうアートディレクションも、全部サヤカさんが?
サヤカ
そうです。
実は、昨シーズンまで、判断が遅かったっていうか、
迷いもあったりとかして、忙しい思いをしていたんです。
でも今シーズンは暇になって、びっくりして(笑)。
伊藤
えっ、どういうこと?
サヤカ
こんなことは今までなかったので、
なんでだろう? と思ったら、
信頼できる、頼る人ができたんですね。
セールス、PR、パタンナー、縫製してくれる人、
そこがうまく回ったって初めて思えたのが今シーズン。
それから、自分の中で、ジャッジの基準とか速さとか、
それが整理できたように思います。
そうしたら、少し暇ができた。
‥‥っていうとあれなんですけど、
時間に余裕ができたんですよ。
伊藤
それはとっても大事なことですよ。
サヤカ
そうですね。それまで必死で来たんですけど、
「あぁ、よかった」と思って。
伊藤
自転車の立ちこぎをしていたのが、
やっと、自分のペースで。
サヤカ
情景を見ながら
走れるようになったみたいな感じです。
伊藤
でも、そうしたらそうしたで、
つくるものに、
だんだんと変化が出てくるんじゃないですか。
サヤカ
そうなんです。今まで立ちこぎだったので、
糸が張り詰めた感じでつくっていたんですよね。
それはそれで、生まれるものもあるんですけど、
今、ちょっとゆるめたものがつくりたいなぁって
思うようになって。
年齢的なこともあるのかな。今、35なんですけど。
伊藤
えぇっ? まだそんなに若いの?!
サヤカ
若いのかは、わからないですよ(笑)。
伊藤
私のほうがうんと年上なのに、
すごく成熟していて、
言葉も、たたずまいも、
堂々としてるから、驚いちゃった。
サヤカ
ありがとうございます。
20代で、なんとなく光が見えたくらいの時に
ブランドを立ち上げたので、
きっと、まだ、まとまっていなかったんでしょうね。
でも、今回のコラボレーションの中で
すごく考えることがあって、
本当にありがたかったんです。
今までは「人と違うものをつくろう」
「人と違う個性を出したい」っていう
アプローチだったんですけれど、
それが、ちょっとシフトしていった。
ちょうど、張り詰めていた糸がゆるんで、
余裕ができてきた時でしたから、
より自分の好きなものの
輪郭が見えてきたっていうか、
自分が本質的に好きなものをつくりたいと
思っていた時だったんです。
伊藤
そんなタイミングで、
私たちがお声掛けをしたんですね。
サヤカ
そのことを、直感的に感じていたけれど、
まだ言葉にはできていなかった時だったので、
まさこさんと話していく中で、
自分が感じていたことが、
具体的なテーマとして出てきたというか。
コラボレーションなので、
一方的にどちらかがいうものではなくて。
自分だけで決めることもしたくなかった。
お互いに好きなもので共通点を見つけて、
自分1人ではできないことがやりたいなぁと思ったし、
全然違うアプローチでやりたいと思ったし。
それで、素材を見ていただきながら、
「これ、私は好きだけど、
まさこさんは好きなのかな」
とか、そういうところを
探らせてもらったという感じなんです。
話をしていく中で、
「シンプルなものをつくりたいんですよね」って、
私、言ったと思うんですね。
すると、すぐにまさこさんも、
「私もシンプルなものが好き!」って。
「ほぼ日」の皆さんも「いいですね!」って
言ってくれて。
伊藤
まず、シャツについて、そう話しましたね。
シンプルなもの。
サヤカ
自分のコレクションをつくる時って、
コレクションのまとまりというか、
60の作品で1つの大きな絵を描く、
みたいな感覚でつくっているので、
雰囲気に合わないものは入れなかったりするんですね。
だから、好きなものでも、シンプルなものって、
出さないことがある。
でも、こういったプロジェクトで、
小さい単位でつくるときは、
考え方を変えたいなっていうのもあって。
だからコレクションでは
今までできていなかった、
もっと普通にシンプルな服が欲しいなって思って。
伊藤
そうそう、その時に、
日本のバイヤーさんには、
他と違うもの、
そのお店ならではの特別なものを
求められているっていう話をしましたね。
でも「weeksdays」は、
「やりたいことをやってください」みたいな感じで、
サヤカ
そんなふうにすごく気持ちのいい球を投げてくださって。
結局、自分が好きなものしかつくれないわけですし。
それで気持ちがスッとして、
「じゃあ、行ってきます!」みたいな(笑)。
伊藤
(笑)その次に日本で会った時、
サヤカさんが絵を描いてきてくださった。
サヤカ
そうですね。
シャツは、4つのパターンを
提案させてもらったんですけど、
まさこさんは、すぐに、
一番シンプルなものを、
「これ!」って、選んでくださって(笑)。
伊藤
私は、いつもそうなんだけれど、
もうあっという間に打合せが終わる。
「これがいい!」って。
サヤカ
気持ちよかったです。
本当に好きなものを、
っておっしゃっているだけあって、
判断のブレないところが、
自分もすごく勉強になったんですよ。
スケジュールにしても、「weeksdays」は
全然違うつくり方をしていますよね。
本当に好きなものをつくるために、
「できた時が売るときです」って。
伊藤
そう。みんながいいと思ったものが、
形になった時が売る時、って思ってます。
でも、それを言うと、
アパレルの人はすごくびっくりして。
サヤカ
びっくりしますよ(笑)。
こうじゃなきゃいけない、
ということがない。
ものづくりにおける、優先順位がちがうんですよね。
それよりも、かけなきゃいけない時間をかけて、
できた時がデリバリー(販売)。
それも気持ちよかったです。
伊藤
今年どうしてもこれを着たい、じゃなくて、
来年も着るし、長く好きでいたい。
そういう服をつくりたいからですよ。
サヤカさんの服って、
仁平さんが着ているのを見ると、
「これ、初期のものですよ」という服を今着ても、
全然古くなっていない。
流行とは関係がないし、
テイストを残しながらも、同じではなく、
ちょっとずつ変わっていくわけですよね。
サヤカ
はい。ずっと同じでいたいわけではなく、
変わっていきたいとは思っていて、
少しずつアップデートしている、という
気持ちでいるんです。
普遍性‥‥っていうと、
ちょっと自分の中では言葉が違って、
自分が変わった時にアジャストできるような、
器の広さをもつというか、
余白を残してつくりたい、
みたいなところがあって。
シンプルなものをつくる時でも。
伊藤
ああ、サヤカさん、
ポートレートも素敵だと思ったけれど、
言葉もいい。もう全部いい。
すごい。
サヤカ
本当ですか(笑)。嬉しいな。
でも、言葉はむずかしくて、
そもそも、言葉で表現するより、
潜在意識で感じていることを
形で表現するっていう立場なので、
言葉で表現することには
すごくチャレンジを感じています。
自分の表現と心っていうのは
つながっていると思っているんですけど、
表現から言葉への置き換えっていうのが、
すごくチャレンジに感じていて。
でも言葉も表現のひとつだし、
自分に合った言葉を
ちょっとずつでも選べるようになっていくと
いいなとは思っています。
まだ勉強中ですね。むずかしい、言葉は。
一緒にコラボレーションをさせてもらって、
つくるものがクリアになったら、
少し言葉もクリアになったなって思うんですけど。
伊藤
全然大丈夫ですよ。
たまに言葉が過ぎる人もいてね、
そこは難しいですよね。
サヤカ
そうなんですよ。自分のコレクションについて、
プレスリリースに言葉を書くわけですが、
「過ぎる」ことがあるんです。
それが嫌になって。
飾りすぎているのは、本当に気持ちが悪くって。
伊藤
急にドラマチックにもしたくないしね。
私は、サヤカさんは、
いまのままでもじゅうぶんだと思うけれど、
スタッフに恵まれているとおっしゃったから、
サヤカさんが言ったことをそのまま、
それ以上でもそれ以下でもなく
まとめてくれる人に出会えると思いますよ。
サヤカ
そうですね。
いっぽうで「自分で書きたい」という気持ちもあって。
写真家の友達と、言葉は難しいという話をしていたら、
「アーティストって、みんな言葉を持ってるよ」って。
たしかにそうだなと思ったんです。
それがまだ自分は
見つかっていないだけなのかもしれません。
伊藤
今回、ずいぶんたくさん会話を重ねて、
シャツと、シャツドレスができあがりましたね。
よかった。
サヤカ
会話の中から生まれてきましたね。
私は、シンプルなシャツが欲しいと思っていたけれど、
自分のコレクションの中ではつくれなかったんです。
たまたま、まさこさんと会う少し前に、
すごく信頼してる男性のパタンナーさんが、
「シャツを作りませんか」って言ってくれていたんです。
「すっごくいいシャツ作る工場があるんですよ」と。
で、そのシャツを見せていただいたんです。
それで「すごくきれいだから、ここで作りたい」
っていう話をしていました。
それで、タイミングと条件が合って、
今回シャツとシャツドレスをつくらせてもらいました。
女性もので、ディテールに力を入れたシャツが
あんまりないなって思っていて。
とくにシンプルなシャツは。
伊藤
うんうんうん。
サヤカ
女性のファッションって、
いわゆる「ファッション性」を求めるような流れが
たぶん全体的にあるんですよね。
ディテールよりも、ざっくりした、
大枠の見た目みたいなところが、
たぶん世の中のチェックポイントなのかなって。
それだけに、本当におもしろいですよ、
ディテールのデザインって。
ステッチの幅がこのくらいがいいとか。
伊藤
襟はこうだとか、
その芯はこっちがいいとか、話しましたね。
サンプルも何度もつくってくださって。
サヤカ
やっぱり一回作ってみてわかるところもあるので。
今回の素材は、コットンの産地である
浜松で、いちからつくったんです。
今、短サイクルでつくるものが増えているので、
その短サイクルに対応するために、
生地屋さんがストックを積んで、
それをアパレルが買うことが多いんですね。
そうすることで、生地の生産期間が短縮できるし、
追加対応もできる。
けれども世の中に出回るものは
似たり寄ったりになるわけですよね。
今回、本当に好きなものっていうことで
時間を頂いたので、いちからつくることができました。
ポプリンっていう、
高密度に織られている素材なんですけど、
そのままだと女性にはすこし硬い。
そこを、タンブラー加工といって、
生地をやわらかくする加工をかけているので、
着た時から、少し柔らかさがあるような、
女性らしさがあるような素材ができました。
そして縫製は、シャツ専門の工場です。
本当にシャツだけつくっているので、
ひと針ひと針がしっかりしている。
すごく詳しいことを言うと、
針目が3センチ間に10から15針とかで
縫われているものが一般には多いんですけど、
20から21針、入っているんですね。
かなり細かいんです。
この細かい針をきれいに縫うっていうことは、
やっぱり熟練してる人じゃないとできなくて。
伊藤
つれる(糸目で生地にしわがよる)問題も
出てきちゃうんですよね。
サヤカ
そうなんです。細かいと、つれやすいし、
単純に時間がかかる。
でも、この人だったら、
すごくいいものを作ってくれるって感じたので、
ぜひにとお願いしています。
襟の芯も、フラシ芯といって、
接着しないで加工をしています。
接着芯だと、生地にピタッと付くけれど、
洗濯すると、生地の収縮率ゆえに、
水泡みたいに、ポコポコしちゃうんですよね。
でも、フラシ芯っていうのは、
長い間で見た時に、表情の変化が少なく、
きれいに保てるんですよ。
ただ、縫うのがむずかしくて、時間がかかる。
だから女性ものでは、ないことはないんですけど、
一般的には接着芯を使うことが多い。
今回は、半フラシ芯っていうのを使っていて、
一回洗濯したら、剥がれるので、
しわや、ぽこぽこした感じにならないんです。
伊藤
なんてこまやかな気遣い。
サヤカ
そうですね。うんと細かいことですね。
伊藤
女性もののシャツでは、
あまり聞かない言葉ですものね。
メンズって、形にはそんなに
バリエーションがないけれど、
そういうところに、すごく気遣いがある。
サヤカ
そうですよね。
メンズの洋服って、それがおもしろいな。
でも、女性もののおもしろさも捨てがたくて。
伊藤
秋には、さらにふたつ、
「weeksdays」のためのアイテムを
用意してくださっているんですよね。
それも楽しみです。
今日は、ほんとうにありがとうございました。
サヤカ
こちらこそ。またニューヨークに、
遊びにいらしてくださいね。
(おわります)
2019-08-07-WED