前回のボンバージャケットに続き、
ALWELから“カジュアルで、かわいくて、かっこいい”
こんな服が届きました。
片面がポリエステル製のエコファー(フェイクファー)、
もう片面がすべすべしたナイロンツイル、
どちらを表にしても着られる、大きめ・ざっくりの
リバーシブルファーベスト」です。
伊藤まさこさんが
「1枚で“いい感じ”になる」というこのベストを
素敵に着こなしてくださる方を、と、
このかたにお願いをすることに。
それが、滝口和代さん
天然素材を使ったアパレルブランド
「nest Robe」プレスや
「fofofofa」というプロジェクトで
服づくりをされている方で、
伊藤さんとおなじように、
「デザイナーではないけれど、
服にかかわるという大好きな仕事を続けている」人。
どうやらALWELの服も愛用しているみたいなんです。
伊藤さん、さっそくfofofofaのアトリエへおじゃまして、
リバーシブルファーベストの
コーディネートを見せていただきながら、
いろんな「服にまつわる」お話をききました。
つくりたい服のことや、滝口さんの洋服哲学、
菊池亜希子さんといっしょに進めている
滝口さんのプロジェクトのことなどへと、
話はどんどんひろがっていきましたよ。

写真=南萌(weeksdays)

滝口和代さんのプロフィール

滝口和代 たきぐち・かずよ

山形県生まれ。女子美術短期大学服飾科卒業。
長年、天然素材のブランド「nest Robe 」に携わりながら、
菊池亜希子さんとのモノづくりプロジェクト
「fofofofa」や様々なブランドに携わる。
今は服作りに夢中。
娘と一緒に音楽と、美味しいものを巡るのが好き。

■Instagram

02
服が私に与えてくれるもの

伊藤
滝口さんは
「nest Robe」のプレスをされてきて、
今はご自分でも、
ものづくりをしてらっしゃるんですよね。
滝口
そうですね。
当時はプレスを担当しながら、
企画会議などにも入っていたんです。
「この時期にはこういうものを作ると売れやすい」
というようなこともわかってきて、
15年ほど、企画から宣伝まで携わりました。
うちの母が美容師で
子どもの頃から手を動かしているのを見ていたので、
「自分もモノを作る人になりたいな」
という想いはずっと心の中にはあったんです。
それで大学は服飾系に進んだんですけど、
卒業していざ服に携わる仕事となると
なるべく自分でも作りたいなと、
今でも思っています。
伊藤
先ほど伺ったリネンのスカートのほかには、
どういったものを作られているんでしょう。
滝口
刺繍の図案を考えて、
デニムに入れたりしています。
実際の作業は、
山形でパッチワーク教室の講師もしている義母に
お願いしているんですけど。
伊藤
あら、お義母さまが刺繍を?
滝口
はい。デザインは、
私が10代の頃に気に入って着ていた
ヴィンテージの服があって、
その刺繍をベースに
オリジナルのものを考えているんですけど、
刺繍は義母にしてもらっているんです。
サンプル制作の段階では、
手伝ってくれている妹がそれを送ってくれて、
「糸の色はこっちでお願い」という感じで、
お菓子といっしょにお戻して、完成に持って行く。
そんなふうに一緒に仕事をしているんですよ。
伊藤
それはお義母さまはうれしいでしょうねぇ。
滝口
そうだといいなぁと。
「やらなくちゃ」って、
日々の張り合いにはなってるみたいですね。
完売したりするとなおさら。
伊藤
それはすごいですね! 
次に作るものの計画もあるんですか。
滝口
ちょうど今「fofofofa」で制作しているのが
「DWELL TROUSERS」(ドゥエルトラウザーズ)
というデニムです。膝から下くらいに
筆記体の欧文をプリントしているんですが、
その言葉は、制作に携わっているみんなからの
「守りたい場所」をテーマにしたものなんですよ。
伊藤
言葉、ですか。
滝口
たとえば、もう閉店してしまって今はないけれど、
子どもの頃父と行った喫茶店の名前。
そういった自分の中で大事にしたい場所や言葉を、
一緒に作っている方たちと持ち寄って、
ばーっと並べたデザインです。
伊藤
おもしろそうな試みを
いろいろされているんですね。
好きな服は、歳とともに変わりますか?
滝口
ベースの部分というか、
自分のスタイルは変わらないかもしれません。
アクセサリー感覚で
「こういうのが欲しい!」という
突発的な欲求はあります。
伊藤
パンチのある柄ものとか。
滝口
まさにそうですね。
刺繍、大切にしたい言葉たち‥‥。
菊池(亜希子)さんもそうなんですけど、
伝えたいこと、表現したいことがたくさんあるんです。
伊藤
それはすごいことですよ。
滝口
「言いたいことを言わせてくれよ」
みたいな、
ちょっとパンクなバンドマンに
近い感覚かもしれないです(笑)。
伊藤
かっこいい! 
それが服づくりに現れてますね。
滝口
菊池さんとのものづくりでは、
どちらかというと私は受け止める係になろうかな、
と思いながら彼女が、私を、ひきだしてくれる事が
たくさんあるんです。
「あ、こういうことなんだ」と、
自分で驚いたりするんですよ。
方向性が合わないことももちろんありますけど、
それはそれで出来上ったものがおもしろい。
「こう合わせたら私も好きだなあ」とか
方向性が合わない事があっても
それ自体が面白い! (笑)
周りにいるいろんな方もサポートしてくれるから、
ライブみたいな感覚で作っています。
伊藤
すごくいい関係ですね。
私たちはセレクトショップだから、
自分たちでアトリエや工場をもって
一からものを作っているわけではないんです。
作ってくれる人がいる。
そこが、滝口さんの仕事と、少し違うかも。
「こんなのが欲しい」というのを伝えて、
それを作ってくれそうなところを探したり。
滝口
一から作るとなると、
途方もなく時間がかかりますものね。
伊藤
生地からとか、
もっと考えたら糸からとかね。
食材づくりのような感じですよね。
滝口
天然素材の服を作る工程の話を
聞いたことがあるんですけど、
糸をつくるまでに、
まずは畑からリネンの草を刈ってきて、
1度水に浸して腐らせる
ということをするらしいんですよ。
そうすることで、レッティングといって
草から繊維を取り出しやすくなる。
たとえばエジプトでは
雨があまり降らないので、川の水に浸し、
雨が降るヨーロッパでは、
畑の土の上でレッティングをする。
その結果、同じリネンであっても、
場所が違うとできる糸の色が全然違うんですよね。
伊藤
すごいですね。
結局、やっていることは「農業」ですよね。
私も日本酒を作っている方に取材したときに、
「お酒造りは農業だ」って言われてました。
水と土からお米を作って、
それを醸造してできるわけだから、
なるほどたしかに、と思って。
滝口
本当にそうですよね。
考えてみれば服もそうだなと気づきました。
知れば知るほど奥が深いというか、
何ごともわかった気になったらいけないなと。
何年も仕事をしてきましたけど、
学ぶ気持ちは忘れちゃだめだなと感じます。
伊藤
でもそういうことを知っていると、
愛着が湧いて手離せなくなりそうですよね。
滝口
なります。
大切にしなくちゃって。
伊藤
ALWELのことも、
こんなに素敵な服をどうやって作ってるのか
詳しく聞いてみたいですよね。
今度、展示会にご一緒しましょう。
滝口
ぜひ伺いたいです。
たのしみにしていますね。
(おわります)
2025-12-16-TUE