伊藤まさこさんが長く
「どうしたらいいのかわからない」
と思っていたという、ヘアケアアイテム。
そんななかで出会ったあるブランドの
シャンプーとトリートメントは、
使い心地が自然で香りも控えめ、
伊藤さんの日常にすっと馴染むものだったそうです。
その名前は、「余[yo]」。
ヘア・スタイリストの高柳潤さんが、
たかくら新産業という
オーガニック製品を開発するメーカーと組んでつくった
ヘアケアアイテムなんです。
そのシャンプーとトリートメントができるまでには、
どんなストーリーがあったのでしょう。
伊藤まさこさんが、ききました。
商品・モデル写真=有賀 傑
取材写真=山川路子(weeksdays)
高柳潤さんのプロフィール
高柳潤
ヘア・スタイリスト。
omotesando atelierの代表、
「余[yo]」の発起人であり監修者。
「スタイリングとは、髪と共に気持ちを整えること」
を信条に、自身が代表を務める
表参道のサロンを拠点に幅広く活動を展開。
2016年からは、豊かな自然に囲まれた環境の中で行う
完全予約制のカット・セッション「oneday」をスタート。
長野県安曇野市の
「ホリスティックリトリート穂高養生園」をはじめ、
さまざまな空間での限定セッションを開催している。
01頭皮のためのヘアケアを
- 伊藤
- 高柳さんが「余[yo]」のシャンプーを
つくろうと思ったのは、
どんなきっかけがあったんでしょう。
- 高柳
- 僕は子どものころから頭皮が荒れていて、
とても困っていたんです。
小学生の頃からリトルリーグに入っていて、
坊主だったんですが、
中学に入ってからおしゃれに目覚めて
シャンプーを使うようになったら、
頭皮がボロボロしてきて、
フケが出るようになったんですよ。
- 伊藤
- シャンプーが合わなかったっていうことなのかな。
- 高柳
- はい、でも、何を使ってもだめで。
そして美容師になってからも
フケが出る状態がずっと続いていました。
手も荒れていたので、シャンプーに原因がある、
っていうのはわかってるんですけど、
どうにもできなかったんです。
- 伊藤
- ずっと、お悩みだったんですね。
- 高柳
- 美容師って、ある意味まじめで、
信頼しているディーラーさん
(美容ディーラー:美容室にシャンプー類や
道具を卸す仕事の人)が持って来たものは
無条件に「いいものだ」ってなっちゃうんです。
「そういうものなんだな」って思い込むことで、
当時の僕は商品に対する理解が止まっていたんです。
- 伊藤
- なるほど。それで、合わないシャンプーを
使い続けていた。
- 高柳
- そうなんです。それで自分の店を持ってから、
それを使い続けていたら、
スタッフの手まで荒れちゃうようになり、
手を替え品を替えいろんなシャンプーを試しました。
最終的に「これだ」というシャンプーに
巡り合ったんですが、そのメーカーのものは
僕の美容室では仕入れることができませんでした。
なので、ほかのお店で使っているよさそうなものを
試してみたりしたけれど、やはり、だめ。
数年、そんな試行錯誤が続いたんです。
- 伊藤
- それで「自分でつくるしかない」と?
- 高柳
- はい、そんなときに、
ナチュラル製品やオーガニック製品で
日本にまだないものを紹介していた
「たかくら新産業」を知ったんです。
ヘアメイクアップアーティストの草場妙子さんが
使っていたオイルを探して、行き着いたんですけれど。
- 伊藤
- 草場さんがきっかけだったんですね。
- 高柳
- そうなんです。
それでたかくら新産業の営業の方に会いました。
ところが僕、オーガニック製品にたいする
疑問ばっかり言っちゃって。
「オーガニックといいながら、
そうじゃないものがあるでしょう?」みたいな。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 高柳
- そうしたらその営業さんが面白がって、
社長である高倉健さんに
「こんな美容師がいたんですよ」と伝え、
高倉さんがぜひ話したいと、
お目にかかることになったんです。
そしたら「実は自分もシャンプーのことが腑に落ちない」。
たかくら新産業はオーガニックシャンプーを
オーストラリアでつくってたんですけど、
日本人の頭皮や髪質に合わなかったんだそうです。
- 伊藤
- たしかに。
- 高柳
- だから、肌質と、水とか風土に合ったシャンプーって
何なのかなって考えていたらしいんですよ。
僕はその頃、穂高養生園っていう
自然のなかで健康を取り戻そうという滞在型施設で、
カットセッションみたいなことをしていて、
安曇野の水を汚したくないっていうスタッフさんたちが、
石鹸シャンプーで頭を洗っていたんです。
そういえば僕も坊主のときは石鹸で荒れなかったし、
昔は石鹸しかなかったんですよね。
スタッフさんになぜかを訊いたら「環境にいいから」。
そのとき初めて、僕は環境に良くないものを使ってたんだ、
って思ったんですよ。
山岳地帯では歯磨き粉を使わないようにしましょうとか、
いろいろ山によって決まりがあるらしいんです。
そこから僕は、いろんなオーガニックのシャンプーを、
数十種類くらいかな、買っては試し、を繰り返して。
どれも頭皮に反応が出てしまいました。
そんなことをやってたら、高倉さんが、
「じゃあ一緒につくらない?」。
- 伊藤
- それがはじまりだったんですね。
- 高柳
- 最初は石鹸系のシャンプーをつくろうと考えました。
当時はシリコン系のシャンプーが流行っていて、
でもカラーをやる前にシリコン系シャンプーを使うと、
ちゃんと落とさないと施術ができないんです。
でも石けんシャンプーだけだとギシギシになる。
そこでトリートメントを使わなくても
さらっと仕上がる石鹸シャンプーを開発したかった。
それで2年くらいかけてサンプルを何度も作ったんですが
満足のいくものができない。
そんなことをしていたら、工場の人が
「ちゃんとわかっていない人と話しても仕方がない、
勉強して原料や製法に対する正しい知識を持ってください」
そこでナチュラルコスメマスター資格を
取ることにしたんです。
この勉強をすると、シャンプーやボディソープなどの
成分表示から、それがどういうもので作られているのか、
読み取ることができるようになるんです。
- 伊藤
- その勉強をし、資格を取得して、
いろいろわかるようになったんですね。
それが製品作りにも影響を?
- 高柳
- はい、一気に加速しましたし、
ぼくのフケ・痒みの原因もわかってきました。
どうやら僕は、石油系合成の界面活性剤に反応すると。
だから新しくつくるシャンプーには
石油系合成界面活性剤、石油系合成香料、
石油系着色剤を使わないことにしました。
あと、DEA(ジエタノールアミン)、
MEA(モノエタノールアミン)
TEA(トリエタノールアミン)、
そして防腐剤、保存料、抗菌剤、
安定剤、シリコン系ポリマーなど、
頭皮に不要な成分を排除していったんです。
- 伊藤
- サンプルは何段階くらいまで?
- 高柳
- 9段階までいきました。
10でゴールです。
- 伊藤
- 正直、もうダメかも、
みたいなことはあったんですか?
- 高柳
- ありましたね。高倉さんともあったし、
工場ともあったし。
でも、工場のみなさんは、
僕の熱意に協力してくださった。
- 伊藤
- もう無理だ、という気持ちにならず、
やっぱりいいものをつくろうと思った?
- 高柳
- そうですね。
- 伊藤
- すごい。
それは、よかったですね!
- 高柳
- すごくよかったです。
その背景には、「スタッフを辞めさせたくない」
という気持ちもあって。
美容師って手が荒れて辞めちゃうことが
多かったんですね、当時。
- 伊藤
- 荒れてるかた、いらっしゃいますよね。
ゴムの手袋をつけたりして。
- 高柳
- 手袋って、お客さまも違和感があると思うんです。
直に触るのとちがって。
だからそもそも手が荒れないシャンプーがあればいい。
そしてレベル9を超えたとき、
「ちゃんとブランドとして考えよう」
ということになりました。
- 伊藤
- 「余[yo]」という名前はそのタイミングで?
- 高柳
- そうなんです。
僕たちの考えるシャンプーは、
1日の疲れを洗う行為だから、
なくす行為、つまり「余白」だなって。
- 伊藤
- 余白。
空間や時間や心に余裕があることですね。
- 高柳
- そしてトリートメントは湯舟に漂う香り、
「余韻」なんです。
余白と余韻。
そのふたつが揃ったとき、いいなあって思いました。
ふわーっと流れる空気感を感じて。
- 伊藤
- それでブランド名が「余[yo]」、
シャンプーの商品名を「余白」、
トリートメントの商品名を「余韻」となさったんですね。
(つづきます)
2025-08-04-MON