福岡のうきは市にアトリエと住まいを構える
木工作家の山口和宏さん。
長いこと、山口さんのカッティングボードを使ってきた
伊藤まさこさんが、「weeksdays」のために
アレンジをお願いして、
山桜のカッティングボードと、
メープルの木べらをつくってもらいました。
おりしも東京にいらした山口さんを
伊藤さんのアトリエにお招きして、
この仕事に就いた経緯、木のこと、仕事のこと、
そして料理のことなど、おしゃべり。
そのようす、3回にわけておとどけします。

(写真は、まだ暑い頃、伊藤さんといっしょに
山口さんの工房と自宅におじゃましたときのものも、
いっしょに紹介しますね。)

山口和宏さんのプロフィール

山口和宏 やまぐち・かずひろ

1956年北九州生まれ。
1986年家具工房独立。注文家具製作をスタート。
1995年うきは市吉井町(現在の場所)に工房をかまえる。
この頃からカッティングボードやうつわを作りはじめ、
各地で展示会をスタート。
2018年jingoroをオープン。
jingoro
山口和宏さん

その3
木の仕事は飽きない、おもしろい。

伊藤
ところで山口さんは、お料理をなさいますよね。
もともとお好きだったんですか。
山口
いや、それが最近、
ずっとサボっているんですけれど(笑)。
料理をはじめたのは、きっかけがあって、
それは娘がアトピーだったことなんです。
ちょうど2歳くらいの頃に中耳炎にかかって、
耳鼻科に連れて行ってたんですけど、
体質的に抗生物質を受け付けないので、
薬が飲めなかったんです。
それで何度も中耳炎になり、
耳鼻科に連れて行っても、
毎回鼓膜を切開する治療をする。
名医って言われるお医者様でしたが、
待ち時間も長くストレスも溜まるし、
かならず切開されるしで、
ずっとこの調子だと、繰り返していくことになる。
かわいそうで、どうしていいかわからなくなって、
どうしよう、どうしようって思っていたら、
たまたま、マクロビオティックと出合ったんですよ。
やったことは、お菓子を手つくりにして、
お肉と砂糖を1年間取らなかった。
主食は玄米、あと根菜類を中心の生活に切り替えて、
醤油とか野菜も農薬や添加物がないものを購入して。
そうしたらほぼ1ヶ月で治りました。
それでびっくりして、1年間続け、
それから、ゆるく戻していきました。
いまではすっかり健康です。
そんな経緯で、
ぼくがパン焼き始めたり、
おかずをつくったりしはじめたんです。

▲山口さんの自宅の食器棚。もちろん家具そのものも、山口さん作。

伊藤
そんな暮らしをして、今の場所で20年。
山口さんはきっと変わってなさそうですよね。
恥ずかしい過去とかなさそう。
「こんなの作っちゃって」みたいな(笑)。
山口
それが、実はあるんです。
お皿も、今みたいに、ちょっとやさしい跡じゃなくて、
もう叩きノミで叩いて、割って。
伊藤
そんなワイルドな時代が!
山口
ありました。
始めた頃、アフリカの工芸品がブームで、
ぼくもいろいろやってみようと思って。
伊藤
でも、それは恥ずかしい過去じゃないですよ。
まっすぐやって来られた印象があります。
山口
でも順風満帆というわけではなく、
独立したはいいけれど全然仕事がない時代が長く続いて、
注文家具、オーダーで家具の注文頂いたりとかしながら、
なんとか細々とやってきたという感じですよ。
伊藤
最初、不安はなかったですか?
山口
「オーダー家具は向いてないなぁ」と思いました。
木でモノをつくることは大好きなんですけど、
お客さんと打ち合わせをしながら、
1つのものをつくるっていうことは、
向いてないと思ったんですよね。
だから「これはだめだったから、
次、何をしたらいいか考えよう」
っていうようなやり方でやってきましたね。
伊藤
おもしろいですね。
「向いてる!」みたいなのに向かっていくんじゃなく。
山口
木工が好きで始めたけれど、
同じ木工の世界にも、
いろんな仕事があるんだなぁって、
やりながら気が付きました。
伊藤
そうですよね。
今は注文家具のような大きなものは
作ってらっしゃるんでしたっけ?
山口
作っているんですけど、
自分である程度スタイルを決めて、
あとはもうサイズ違いとか、
扉の寸法違いで受けています。
最初の頃は、ぼくがお客さんに合わせようと、
材木から選んで、ご自宅に行って、
食器棚だったら採寸して、
扉の数とか、引き出しとか、棚板の枚数とか、その間隔、
そういったものを打ち合わせて見積もりを出すんですけど、
そこまでやるととんでもない価格になってしまう。
お客さんの希望に合わせたら、ぼくが降りるしかない。
それで「あぁ、どうしよう! これ、ぼく向いてない」
と思い始めた頃に、今の家を建てて、
自分でカッティングボードやお皿を
つくるようになっていくんですよね。
それを見た友人が、
「東京の企画展に、一緒に参加しませんか」
って声をかけてくれた。
それからいろんな出会いがあって、
少しずつ、仕事が広まってきたように思います。
伊藤
お人柄もそうだけど、
作っているものが魅力的じゃないと、
次につながらないですよ。
大きいものと小さいもの、
つくるのにどっちがお好きとかってあるんですか?
山口
どちらとも好きになったり、嫌になったり。
同じものばかり作っていると、
ストレスが溜まってくるんですね。
だから小さなものを作った後は、
椅子とかテーブルとか、そういった大きなものをつくる。
小さなものをつくる作業って、
作業台の椅子に座って、
ずっと彫ったり、削ったり、磨いたりする作業です。
家具をつくるときは、もう全身で体を動かして、
工房の中を移動しながら、いろんな機械を使ったり、
刃物を研いだり。だから、運動量が多い。
伊藤
たしかに、ひとつのことだけをすると、飽きますよね。
気分転換が必要です。
そうそう、今回は、小さいものでいうと
木べらもつくっていただきましたね。
これは、前から作ってらした形ですか?
山口
どこの国のものかはわからないのですが、
以前写真で見たものをヒントにしました。
使い込まれてヘラの先が黒くなり、
いい味が出ていたんです。
「どんな料理を作ってたんだろう?」と、
そんな想像をしたりして、
この木べらもそうなったらいいなあと思いながら。
伊藤
そうなんですね! 素材は‥‥。
山口
メープルです。
白い木肌と優しい木目が美しく硬くて摩擦に強い木です。
メープルは、幹から出る樹液を加工したものが
メープルシロップなわけですから、
メープル材のヘラで調理したら、
美味しい料理がつくれそうじゃないですか?
長く使うと、ヘラ先が焦げて黒くなってきますが、
それもまた味かな、と思います。
娘は「料理をするたびに表情が変わってくるので、
料理の楽しみが増える気がする、
持ちやすくて、手に馴染むので
あめ色玉ねぎもいつもより楽にできる気がする」
って言ってますよ。
伊藤
「気がする」!(笑)。
ほんとうにそうなんじゃないかな。
いい道具を使うと、気分がいいですし、
山口さんの道具を使うと、
たしかに楽しみが増えますもの。
このヘラ、ふだん、山口さんは
どのように使ってらっしゃいますか?
山口
ジャムを炊くとき、カレーやがめ煮、
ポタージュをつくるときに使います。
炒めたり、サーバーとしても使ってます。
けっこう出番が多いですね。
伊藤
そっか、2本あるとサーバーにもなる。
新しい発見!
今回、weeksdaysのために、
カッティングボードと木べらを作っていただきましたが、
ふだんの作品つくりの中で、
気をつけていることや、
心がけていることなどあったらぜひ教えてください。
山口
ヘラに限らずですが、
やはり木は自然のものなので大切に使いたい。
なるだけ無駄のでないように、
そして木本来の姿が
ものから想像できるようにと考えて作っています。
伊藤
山口さんの工房におじゃまして、
作品つくりの様子を拝見したりお話を聞くと、
木を大切に使われていること、とてもよくわかります。
私も大切に使いたいと思います。
それにしても、こんなふうに山口さんが、木という、
ピッタリな素材と出会ったのって、おもしろいです。
ずっと付き合ってるわけですもんね。
山口
飽きないです。なんかおもしろがってます。
今、近くの日田っていう杉の産地に
ヤブクグリと呼ばれる日田杉があって、
それって建築材にしかならないって
ぼくは思っていたんですね。
家具とか木工製品をつくるって、まず不可能だと。
ぼくが使ってる桜とか、胡桃とか、楢とか、
そういった木と違って、
年輪の柔らかい部分と硬い部分が極端に違うので。
でも、知人を通じて縁があったお話だったので、
その杉を購入することにしたんです。
杉を使うのは建築材以外では初めてです。
まず最初は、カッティングボードをつくろうかな。
ヨーロッパでは、杉や松で作ってるものが
多かったような気がするんですよ。
ヤブクグリは節が多いので、もう節は節で、
お客さんに楽しんでもらえるようなものにしたいです。
「この節、どういった環境で育って、こうなったんだろう」
っておもしろがってもらえると、
木も豊かに使ってもらえると思うんです。
伊藤
ますますたのしみ!
山口さん、どうも、ありがとうございました。
こんどまた、うきはにお邪魔させてくださいね。
山口
お待ちしています。
(おわります)
2019-03-27-WED