「weeksdays」に初登場となるイイホシ ユミコさん。
自身のブランド「yumiko iihoshi porcelain」では、
職人の手作業によってうまれる
あたたかさや個性をのこしながら、
じょうぶで使いやすく、比較的入手しやすい価格の、
量産品のうつわをつくっています。
(国内のホテルやレストラン、
カフェなどで多数使われているほか、
なかには、海外の一流レストランで
採用されているものもあるんですよ!)
今回、イイホシさんと伊藤まさこさんが一緒につくったのは
「TRIO」という、大・中・小3つ揃いのお碗。
それができた経緯から、
イイホシさんのこれまでのこと、
ものづくりのこと、そしてこれからのことを、
伊藤さんがおききしました。

(写真=有賀傑)

イイホシ ユミコさんのプロフィール

京都嵯峨美術大学陶芸科卒業後より作品の発表を始め、
2007年11月、
量産でありながら温かみのある食器作りを目指し、
自身がデザインとプロデュースを手がける
テーブルウェアブランド
「yumiko iihoshi porcelain」を立ち上げる。
東京、大阪、阪急うめだ本店に直営店、
伊勢丹新宿店はじめ、全国の取扱店、
海外においても展開があり、
一流ホテルやレストラン、
コーヒーショップ等で多数使用されている。

●ブランドサイト
●オンラインショップ
●Instagram

02
土が戻りたい形をいかして

伊藤
イイホシさんは、大量生産とも違う、
手づくりのものとの間ぐらいのものを
目指していらっしゃったんですよね。
最初からその考え方だったんですか。
イイホシ
そうです。言葉にすると
「手づくりとプロダクトの境界にあるもの」。
私がつくるんじゃなくて、
職人さんにつくってもらう。
量産の力を借りてつくるっていうのが
目的だったんです。
だから「あなたがつくったらいいんじゃない?」
って言われても、
「いやいや、私がつくったんじゃダメなんです」。
そこは私の中で明確でした。
伊藤
でもその門前払いから、どこから突破口が?
イイホシ
まずはつくってもらえるところがやっと見つかって。
それで販売をすることができて、
またリピートしてっていうのが、
ほんとにジワジワと続いた感じです。
伊藤
最初の販売はどちらで?
イイホシ
自分で売りました。
というのも、それまでに手づくりのものを
販売していたので、販路ができつつあったんです。
伊藤
つまり、手づくりのイイホシユミコ作品を
売る場所が、すでにあったんですか。
イイホシ
そうなんですよ。その販売店さんに
ご協力をいただいて、
量産品の販売が始まったっていう感じですね。
ちょうどSTOCKIST(*)の第1回目にも、
販売店さんを通して出してもらったり。
(*)STOCKIST(ストッキスト)は、
正式名称を「FOR STOCKISTS EXHIBITION」といい、
年に一度開かれる、インテリア、ファッション、雑貨などの
業者(販売店など)向けの合同展示会。2006年スタート。
伊藤
なるほど。STOCKISTはものづくりの人が多いですよね。
そして、そういうものを探しているショップの人が集まる。
それで販売店が増えていったんですか。
イイホシ
そうですね。
伊藤
最初の工場では、
思ったものがすぐ形になりましたか? 
イイホシ
今でも、同じなんですよ、
思ったものが形になってるわけではない。
ずっと「もうちょっとこうだったらいいなぁ」
と思います。
伊藤
やりとりは何往復もするんですか、
試作から最終的にGOをするまで。
イイホシ
そのときによります。
早くからピタッとくるときもあるし、
ほんと、何回も、何年もやり取りすることもあります。
まだ形になってないものもありますよ。
陶磁器は最後に「焼く」いうことが
大きな通過点なんですけれども、
その洗礼を受けて、くぐり抜けて、
思った形に出て来るかっていうところで、
全然「あら?」みたいなことがあるんです。
そこをできるだけ違わないように通過させたい。
どうやってそこをクリアするか、
窯元さんの長年のノウハウとともに、
みんなでアイデアを出し合って考えてきたんですね。
私が作りたいものはすごくシンプルで、
できるだけ直線だったり曲線だったりが出るものです。
誤魔化しようがない、っていうところが大きくて。
けれども今回のどんぶりみたいに、
焼き上がることでゆがみが発生することもあり、
それをよしとするのかどうか、悩みました。
伊藤
「大」をいちど販売なさって、
けれどもいったん止めていたというのは、
そういう理由だったんでしょうか。
イイホシ
そうなんです。
この場合、もっと分厚くしてゆがまないようにすると
ゆがまない形ができるんですけど、
そうなると重たいどんぶりになる。
「だったらいらないな」と思って。
その結論が出るまで止めておこうと考えたんですよ。
そして今は、
この素材を使ってプロダクトをつくっているので、
できるだけそこは残していいという考えに、
私も変わって来ています。
最初は私が最初に求めたままの形が出て来るよう、
なんとかならないかと思っていたんですけど、
そこに押し込める素材じゃないなぁというのが、
やればやるほど理解できてきました。
伊藤
なるほど。
イイホシ
磁器の素材って、
プロダクト、量産品を作るには、
すごく特殊だと思っていて。
樹脂みたいに図面どおり、
思ったとおりできてくる素材じゃないので、
そこはみんな鷹揚に磁器で作ってるんだから、
こういうゆがみ、
「土が戻りたい形」になるのは
アリだなぁと思うようになったんですよね。
伊藤
土が戻りたい形。
イイホシ
こういう薄くて円型っていうのは、
なおさらそこが目立つものなんです。
世の中に薄手のどんぶりがないっていうのは、
そういうことだと思います。
そこを「よさ」として、
こう受け止めていきたいなと。
伊藤
「手づくりとプロダクトの境界にあるもの」だったら、
そのちょっとの違いっていうのは、
使う方にしたら逆に嬉しいっていうか。
イイホシ
そう思ってもらえるといいなぁと。
プロダクトというものは、今まで、
ほんとに寸分たがわずきちっとしたものができる、
というところを目指して、
ちょっとした黒点でもはじいてっていう世界で、
ずっと作ってこられてたのが
ほとんどだと思うんです。
でも私は色釉、窯変の釉薬を使っているので、
そういうもともとの日本の焼物のよさみたいなところも、
量産の中に入れたいと考えています。
そういう意味で「手作りとプロダクトの間」を
出せたらいいなと思っているんです。
伊藤
窯変をすることによって、
焼き上がった器、ひとつひとつの模様が
違うわけですものね。
イイホシ
そうですね、1個1個、変わりますね。
伊藤
デザインのポイントといいますか、
やさしい曲線であるとか、
「ここは譲れない」ことはありますか。
わたしは、イイホシさんの器には、
とくに使いやすさを感じるんです。
イイホシ
口が当たる器は、その口当たりがいいものがいいなぁ、
と思っています。
「この厚さが」というよりも、
厚くても薄くても、
口が触れて違和感のないものがいいなぁと。
伊藤
なるほど。しかも、重さがちょうどいいんですよ。
重ねて上から見ても、3つ並べて横から見ても、
形も綺麗ですよね。
ところで、いちばん最初に出会った工場の方と
ずっと製作を続けていらっしゃるんですか。
イイホシ
今は増えていますね。
皆さん、使っておられる土も窯も違うので、
でき上がって来るものが異なるんです。
得意分野が違うので、
次にこんなものが作りたい、
というものができたときに、
それだったらあそこにお願いしたら
良いものが出来るだろうな、と、
依頼をするんです。
伊藤
どういうときに次に作りたいというか、
欲しいものが出て来るんですか。
イイホシ
いや、ずっとあるんですけど、いろいろ。
伊藤
へえ!
イイホシ
ふふふ、まだまだ、あるんです。
けれど、この仕事ってすごく時間がかかるので。
一回作っちゃう(焼成する)と、
それがダメだった場合、ゴミになってしまうというか、
土に還らないので、無駄を出さないよう、
慎重に進めているんです。
伊藤
そういうことも、考えていらっしゃるんですね。
イイホシ
はい。できるだけ長く使ってもらえるものを、
と思うので、私が思いつくままに
どんどん作っていっていい素材じゃないな、
というふうに思っています。
伊藤
なるほど。毎年2回新製品を何個も作るとか、
そういう仕事の仕方ではないんですね。
確かに、一回揃えれば、飽きが来ないから、
ずっと使えますよね。
イイホシ
そうなってもらえたら、嬉しいです。
できるだけ長く使ってもらえたらいいなぁと。
伊藤
食洗機に入れられるように、
ということも考えられていますよね。
テーブルから持ち上げるとき、
お皿の縁に手がスッと入りやすいことであるとか、
ナイフやフォークを使ってもガタッとしないところとか、
そういうところに気を配られているんだなと、
使うと感じるんです。
「もうちょっとこうすればいいのにな」ということが、
イイホシさんが作るものには、ないんです。
(つづきます)
2024-03-05-TUE