ずいぶん前からスカーフが気になっていた、
という伊藤まさこさんが、
昨年の春に出会った日本製のスカーフ。
それは素材も、つくりも、
色や柄も、本当に素敵なものでした。
ブランドの名前は「manipuri」(マニプリ)。
出会いから1年、この春、「manipuri」の、
「weeksdays」別注スカーフができあがりました。

スカーフって、じつは、
職人の高い技術がいかされたアイテム。
その制作の裏側を「manipuri」の長島邦彦さんと
鮫島典子さんのふたりにききました。
キーワードは「手」。
そう、manipuriのスカーフって、
手捺染、手巻きなんです。

長島邦彦さんのプロフィール

長島邦彦 ながしま・くにひこ

スカーフブランド「manipuri」
レディスブランド「TICCA」などをプロデュースする
株式会社FLAPPERSの代表取締役。
経営とともに、デザイナー、営業を担当。
セレクトショップ(BAYCREW’S)の営業職を経て独立。
有田焼、生花のアクセサリーSaletの卸売など
多岐にわたりブランドの営業、ブランディングを手掛ける。
趣味、というよりも「二足のわらじ」として農業に携わる。「最近はジャガイモを植えました」。
家庭では2男1女の父。
ビンテージ、家具収集、そして物件を探すのが好き。

鮫島典子さんのプロフィール

鮫島典子 さめしま・のりこ

manipuri営業企画担当。
大学卒業後、ファッション雑貨メーカーで
営業、企画、バイヤーなどを経験して、
株式会社FLAPPERSに転職、現職に。
趣味は歌舞伎観劇、野球観戦、
そして花や歴史名所、神社仏閣を巡る旅が好き。
「高所恐怖症だけど登山が趣味です」。

01
1枚のヴィンテージスカーフから

伊藤
こんにちは、長島さん、鮫島さん。
今日はどうぞよろしくお願いします。
取材にあたり、このスカーフができるまでのことを、
チームで振り返っていたんですよ。
わたしがmanipuriのスカーフを使っていて、
「いっしょにweeksdaysのスカーフが作れたら」って、
お願いをしたところから始まりました。
鮫島
お問い合わせをいただいたのがご縁でしたね。
伊藤
最初は、「weeksdays」の
オリジナルデザインのスカーフが作りたいと
考えていました。それでアイデアを出したり、
manipuriのみなさんに絵を描いていただいたり。
けれども、最終的には、
すでにmaipuriで作られているおなじみの柄を使い、
色を「weeksdays」仕様に替えるのが
ベストだっていうことになりました。
スカーフのデザインが
こんなに難しいなんて! と驚いたんです。
長島
そうなんです。非常に難しいんですよ。
伊藤
平面のデザインとして見たときと、
巻いたときの印象が、
どちらもちゃんと素敵であってほしいと考えると‥‥。
鮫島
絵はよくても、巻いた時の表情は
思っていたものと違ったり。
伊藤
はい。でも、あれだけ試行錯誤したプロセスは
無駄じゃなかったと思います。
やはり製品化されているデザインは、いずれも、
細かい柄と大きな柄のバランス、
ラインがどう入っているかなどが絶妙なんですよね。
スカーフとして徹底的に
考え抜かれているものなんだなとわかりました。
長島
ありがとうございます。
伊藤
今日は、まず、manipuriが
どんなブランドなのかということから
お聞かせいただけたらと思っているんです。
そもそも、代表の長島さんが
ヴィンテージスカーフがお好きで、
たくさんお持ちだとおっしゃってたことに、
とても興味をひかれて。
長島
そうなんです。
伊藤
最初に買った1枚、覚えていらっしゃいますか?
長島
最初の1枚はフランスに行った時に買った
ヴィンテージのスカーフでした。
独立前に勤めていた会社では営業職で、
ファッションの仕事をしているとはいえ、
自分でスカーフを巻くことはなかったんです。
けれども、2006年に独立をして、
あたらしいブランドを立ち上げるのに、
ヴィンテージのアイテムがヒントになるかなと、
パリを訪ねたんですね。
そのときにスカーフと出会いました。
当時、日本では、ストールがすごく流行っていたんですよ。
伊藤
ストールの流行‥‥何年くらいの話でしょう。
長島
2009年にmanipuriをつくったので、
2007年か2008年ですね。
でも当時の僕には
「巻きものかぁ、そういう仕事もあるんだな」
っていうくらいの感覚でした。
というのも、独立した時は、陶器を売ったりとか、
そういうところからスタートしていたので。
伊藤
以前にお勤めになっていたのは? 
長島
BAYCREW’S(ベイクルーズ)というアパレルです。
伊藤
そうなんですね。
独立なさったきっかけは? 
長島
一人でやってみたいな、って思ったんです。
自分で立ち上げれば、全部自分でできるし、
同時に勉強もできますから。
それで独立して、最初、有田焼を売っていました。
そのあとSalet(サレット)っていう、
生花をアクセサリーにするブランドをつくりました。
いまは休止しているんですけれど。
鮫島ともその頃に知り合うんです。
伊藤
生花をアクセサリーに? 
鮫島
すっごくかわいかったんですよ。
長島は、プリザーブドフラワーのバラを使って、
ネックレスやピアスを作っていました。
前職でファッション雑貨メーカーのバイヤーだった私は、
それがセレクトショップに置かれているのを見て、
「この会社と取引したい!」と思い、
長島と会ったんです。
伊藤
そうだったんですね。
そして、そんな頃、長島さんは
パリで、ヴィンテージスカーフと出会った。
長島
はい。もともとヴィンテージが好きなんです。
それでパリに行くようになって、
古着を含めて探すようになりました。
そのなかで、
「スカーフって、いったい何なんだろう?」と
思ったのがきっかけです。
伊藤
「スカーフって、いったい何なんだろう?」
長島
すっごく考えたんですよ。
それで、僕は、スカーフって、
ひとつの絵だと思ったんです。
だから、絵を身につけられるっていうことが、
すごい喜びだろうなって、最初に思いました。
そして、当時は大きなストールが流行っていたので、
スカーフの柄をストールに落とし込んだら? 
というアイデアがうかびました。
そういうものって、まだ世の中になかったんです。
今でこそハイブランドで、
正方形で140のサイズのスカーフがありますけれど。
その頃はストールといえば長方形でしたから。
伊藤
たしかにそうだったかもしれません。
鮫島
大きな正方形の布に、捺染というのはなかった。
(なっせん:色糊で布に模様をプリントする手法。)
なので、それを最初に始めたんです。
ですからmanipuriのスタートは、
スカーフじゃなくて、ストールでした。
素材もリネンを使っていて。
伊藤
リネンのストールから、
シルクのスカーフに主軸をうつしたのは、
なにかきっかけがあったんですか。
長島
2012年か2013年だったと思うんですけれど、
パリにリサーチに行ったら、
女性たちがずいぶんと
スカーフを巻いているのに気づいたんです。
で、友達にアンジェラっていう
フランス人女性がいるんですけど、そのアンジェラに、
「みんな、スカーフを巻いてない?」
みたいな話をしたんですよ。そしたら
「フランス人は、みんなスカーフを巻くのよ」って。
「シルクですごくあったかいし、普通のことよ」。
「いや、待て、待て。去年来た時より、
絶対にみんな、巻くようになっているぞ」って。
それで、ぼくらも、シルクのスカーフを
やってみるのがいいかも、と。
伊藤
なるほど、以前のパリで気になったスカーフを、
ようやく作ることになるわけですね。
長島
そういうことなんです。
伊藤さんのスカーフ歴はいかがですか?
伊藤
スカーフは好きなアイテムで、
すてきだなとか、ちょっと珍しいなとか、
かわいい柄だなって思うものを、
素材を問わず、いろいろ集めていたんです。
でもほんとうにありがたみを感じたのは
じつは最近のことなんですよ。
というのも、わたし、冬から春へと変わる時、
花粉症や気管支炎に悩まされるんです。
さらに去年の3月はコロナにもなってしまい、
体調の悪い日が2週間くらい続いてしまって。
その時に、ふとシルクのスカーフを首に巻いたら、
すごく守られている感じがしたんです。
やわらかいだけではなく、
あたたかさがじんわり伝わってくるかんじ。
今まで、おしゃれのアイテムの1つとして
考えていましたが、
「シルクってすごい!」、
「スカーフってやっぱりいいなあ」と。
それでスカーフ集めに拍車がかかりました。
シルクって、使うとよさがわかるんですよね。
長島
わかります、わかります。
伊藤
シルクのスカーフに関しては、
もともとヴィンテージショップなどで
よく見ていたんです。
数を見ると、だんだんいいものが
分かってくるものなんですよね。
「端の始末がきれいだな。なるほど、これは手縫いだ」
とか。
たくさんのものに触れるって大事なんだなって思いました。
長島
そうなんです。量で、全部わかってきますよね。
デニムもそうだと思うんですよ。
ぼくはヴィンテージデニムを
集めていた時期があるんですが、同じなんです。
たくさん触って、見ることで、
わかることっていっぱいあります。
伊藤
スカーフだけじゃなく、デニムも!
長島
ちょっと収集癖があるんです(笑)。
伊藤
(笑)
「1枚の絵」の話に戻りますが、
巻いている姿はなにが描かれているのか
あまりよくわからないスカーフの柄が、
拡げてみると1枚の絵になるっていうのは、
面白いものですね。
使うときに全部は見えないっていうのが、面白い。
長島
しかもスカーフって
「巻いているとき」が完成なんですよね。
巻いている姿を含めて完成品、というか。
伊藤
その当時のパリのかたがたって、
どういう巻き方をされてたんですか?
長島
それはほんとに、首にギュって。
ごく普通に巻いてました。
伊藤
パリのスカーフといえば思い出すことがあるんです。
高校生ぐらいの時、雑誌に
パリジェンヌの取材が載っていて、
16歳くらいのお嬢さんが出ていました。
彼女が、おばあさまから受け継いだエルメスのスカーフを、
使ったら手洗いして、
半乾きの時にアイロンをするというエピソードに、
わたしは「すてき!」って。
しかもスカーフをパールと合わせたりしているんですよ。
でもその後、わたしが18歳でパリに行って買ったのは、
エッフェル塔の下で売っているおみやげスカーフ。
長島
おみやげの! わかります。
伊藤
今、考えると、
「なんであんなのを買ったんだろう?」と思うんですが、
きっと、かわいかったんですよね。
鮫島
そうですよ、あれ、けっこう、かわいいんですよ。
(つづきます)
2023-04-02-SUN