ことしもつくりましたよ! 
金沢の老舗の酒蔵である「福光屋」さんと
「weeksdays」が組んだ、
日本酒とおつまみの「ちびちびセット」。
一合瓶の日本酒が6本と、おつまみが6種類、
さらに熱燗をおいしくする「ふぐひれ」がひとつ、
そして20種のおつまみレシピがのった
『ちび本2』が、松林誠さんの描く
かわいい箱に入っています。
昨年はオンラインでやりとりをした
福光屋の担当ディレクターである利岡祥子さんが、
伊藤さんのお宅にいらっしゃっての対談、
どうぞおたのしみください。
『ちび本2』から、いくつかレシピもご紹介します!

酒蔵の写真提供=福光屋

利岡祥子さんのプロフィール

利岡祥子 としおか・さちこ

1984年に福光屋入社。
商品開発や広告宣伝、広報担当を経て、
1999年に福光屋の初めての直営店を
東京・銀座に立ち上げる。
現在は直営店6店の運営、
化粧品事業、海外展開を統括している。
直営店の企画やセレクトを通して、
作家との繋がり、モノとの関係を深めてきた。
九谷焼の窯元に生まれ、
金沢の伝統工芸や食への興味も尽きない。

●福光屋ウェブサイト

01
日本酒はおいしい

伊藤
利岡さん、ありがとうございます。
こうして今年も「ちびちびセット」ができあがりました。
利岡
こちらこそありがとうございます。
驚きました、今年のセットには、
昨年とはちがうレシピの冊子が入ると聞いて! 
伊藤
はい、『ちび本2』ですね。
昨年の『ちび本』の続編です。
利岡
すべて書き下ろしだとか。
撮影はこちら(伊藤さんの自宅)で
なさったんですか?
伊藤
はい、一人で作って、
撮って、食べて、書いて。
孤独な感じですよ(笑)。
3時半ぐらいから作り始めると、
ちょうど夕飯のタイミングで終わるんです。
日々、それをくりかえして、20品。
利岡
撮影も伊藤さんが。
伊藤
はい、「iPhoneってすごい!」と思いながら。
ところで、コロナ禍が続いていますよね。
日本酒はなにか打撃を受けましたか。
利岡
はい‥‥、もう大打撃です。
福光屋の日本酒は、お料理屋さんで使っていただく
需要がとても多いんです。
閉店していたときはもちろんですが、
今、お店が開けられるようになってからも、
お客様は早めにお帰りになるようになりました。
以前は23時くらいまで賑わっていたのが、
今は21時ぐらいになっているんです。
そうすると、日本酒も、飲まれる量が減ってきます。
伊藤
そうなんですか。
利岡
お家でも飲んでくださるといいのにと思いますが、
みなさん、お家でも控えるようになって‥‥。
酒量も減ってきているんでしょうね。
お家に篭らなければいけなかった最初の頃は、
ちょっとぜいたくなお酒を
セレクトしてくださっていたんですけれど、
家にいることが日常になってくると。
リーズナブルな紙パックがいいね、とか。
伊藤
そっか、それも、あるでしょうね。
利岡
そうすると単価も落ちてきますから、
なかなか切実です。
でもそれは日本酒だけじゃなく、
ビールですら苦戦していて、
アルコール飲料全般、みなさん、
控えるようになっているように思います。
伊藤
そうなんですね。
利岡
年配の、ほんとにそれこそ上のほうの
おじ様たちの酒量が減っていくのは
しかたのないことだと思うんですけれど、
たとえばわたしの周りの20代男子は、全然飲まない。
むしろ、女子の方が飲むぐらいです。
伊藤
あ! そうかもしれません、
それに今は「ほら、飲めよ」なんて
言っちゃいけないから。
利岡
そうですよね。
でもね、日本酒を飲んだことがない若い方まで
「日本酒はちょっと‥‥」なんておっしゃる。
ちゃんと味わっていないのかな、と思うんです。
伊藤
そうなんです。おいしい日本酒を知ると、
そんなふうに思わないはずなのに。
若い人は、蒸留酒を好みますね。
サワーとかハイボールとか。
ワインや日本酒はあまり飲まないように思います。
利岡
いいお酒を少し、ということを、
みんなが体験してくれるといいのですけれど。
「適量」というものがありますからね。
そういう意味で、伊藤さんのこの企画は、
とってもうれしいんです。
幅広く興味を持っていただくことができますし、
「すこしずつ、いいものを」ということが伝えられます。
伊藤
よかったです! 
きょう、利岡さんには、
「ちびちびセット」のそれぞれの日本酒の
飲み方のおすすめをお聞きしたいんです。
前回のコンテンツも参考にしていただきつつ‥‥。
利岡
わかりました。
伊藤
先日、日本酒を水で割るお店があって。
それも、だいじょうぶなんですね?
▲福光屋の敷地内に湧く「恵みの百年水」。
日本酒の仕込みに使うほか、一般のかたが自由に汲めるように、
汲み場を公開しています。
利岡
そもそも、日本酒づくりの最終工程で、
アルコール度数を調整するのに使うのは、
仕込み水なんです。
原酒が18度とか19度で仕上がって、
それをだいたい14度とか15度とか、
あるいはこれは12度とか、
アルコール度数を下げて製品にします。
そのためには「割り水」といってお水を入れます。
ですから、さらに度数を下げて飲みたいときには、
お水で割っていただいてもいいんですよ。
ただ、ほんとに厳密に言うと、
水との相性があったりもするので、
氷を使っていただくほうがいいですね。
伊藤
へえ! じゃあ、
氷で割るのにおススメの日本酒は?
利岡
アルコール度数が低いものよりも、
高めのほうがいいですね。
「ちびちびセット」で言うと、
「加賀鳶 純米吟醸」や
「加賀鳶 極寒純米」(ともに16度)あたり。
伊藤
なるほど。
逆に、あたためたほうが、
というものもあるんですか。
利岡
そうですね‥‥、基本的に「純米酒」は、
常温から熱燗まで、
広い温度帯で楽しんでいただけますから、
これはぜひあたためて、ということではありません。
お好みの温度帯で楽しんでください。
たとえば「黒帯 悠々」や
“マル福”(福正宗 純米辛口 生詰/
福正宗 氷温生貯蔵酒 辛口DRY)、
「風よ水よ人よ 純米」「加賀鳶 極寒純米」は、
とにかくほんとに温度帯のオールマイティ。
どんなお料理にも合わせやすいです。
いっぽう、「吟醸」になると、
冷やでお楽しみいただくのがいいですね。
オンザロックも全然いけます。
ここで言うと「加賀鳶 純米吟醸」ですね。
伊藤
なるほど。
それでは、利岡さんが合いそうだと思う
料理とお酒の組み合わせって、ありますか?
利岡
はい。今回のレシピには、
ナンプラーや柚子胡椒、そして柚子など、
香りがある料理がいくつかありますよね(*)。
そんなお料理には、
香りのある日本酒を合わせていただくといいですね。

(*)レンコンの柚子胡椒風味、茹で豚、塩麹たまごのお粥、茹で豚スープの煮麺など
伊藤
じゃあ「加賀鳶」ですね!
クリックすると拡大します。
利岡
そう! すごく合うと思います。
「納豆入りちくわの磯辺揚げ」には、
「黒帯 悠々」がいいと思います。
ちょっとしっかりとしたものは、
しっかりとした純米を合わせていただくということで。
クリックすると拡大します。
伊藤
うん、うん。
利岡
‥‥なんて、わたし、言ってますけれど、
早い話が、日本酒って、なんでも合うんです(笑)。
伊藤
そうなの。そうですよねえ。
利岡
それで、今回、
専門家の見立てをちゃんとお伝えしたいと、
福光屋の生産担当で、
日本酒を広く楽しんでいただくように、
レストランや小料理屋さんで
ペアリングのイベントをしている、担当部長から
資料を預かってきました。
伊藤
えっ。あ、すごい! 
利岡
日本酒にはいろんな味わいがあって、
それを「酸・甘・辛・苦・渋」で分類するんですよ。
たとえば料理の苦味を
日本酒の苦味で掛け算するといい、とか、
そんな考え方があるんです。
伊藤
へえ! 苦さに、苦さを合わせるんですね。
利岡
それで、伊藤さんの『ちび本2』のレシピのなかから、
「ちびちびセット」の6本、どれを合わせたらいいか、
まとめてきました。
どうぞごらんください。

福光屋さんおすすめ
「このお酒にこの料理」1


●黒帯 悠々

吟醸仕込みと純米仕込みとで仕上げた、
キレの良い芳醇な旨味を持つ辛口の酒を、
蔵内でじっくりと熟成させました。
辛口ですが過度な辛さを感じさせず、
燗にするとやわらかく、その持ち味を発揮します。
魚料理との相性も抜群です。

だいこんの和えもの
小エビの風味とごま油の組み合わせが
黒帯の奥行きある旨味とよく合います。

わかめの炒めもの
黒帯のもつ熟成香がわかめの香りを引き立てます。

かぼちゃのそぼろあんかけ
かぼちゃのしっとり感とそぼろあんのコクが、
黒帯の熟成したコクとよく合う。

あぶたま
麵つゆがよく滲みたお揚げと卵が、黒帯のコクと好相性。

茹で豚
豆板醤の風味が、黒帯の苦味とコクによく合います。

●加賀鳶 純米吟醸

契約栽培の山田錦と金紋錦で丹念に仕込んだ、
何杯でも飲める美味しい純米吟醸酒です。
豊かに広がる吟醸香と、
やわらかくふくらむ米の旨味がいきた
キレのよい飲み口が特長です。

和風ポテトサラダ
じゃがいもの旨味と辛子のきいたマヨネーズの酸味が、
純米吟醸のすっきりした味わいと吟醸香によく合います。

切り干しだいこんの和えもの
切り干し大根の日向香と白ごまの香りが
純米吟醸の柔らかな吟醸香と好相性です。

茹で豚スープの煮麺
ナンプラーの香りとコクを
純米吟醸の柔らかな甘さが包み込み好相性です。

(つづきます)
2022-11-06-SUN