今週の「weeksdays」は
JINSの老眼鏡の再販と、
新作である真鍮のめがねチェーン、
そして麻の黒い日傘を紹介します。
関係なさそうなこれらのアイテムですが、
じつはチェーンと日傘は、どちらも
BonBonStoreの井部祐子さんの制作なんです。
井部さんのアトリエにおじゃまして、
チェーンのできあがりまでのこと、創作の哲学、
そして日傘についてのいろいろをききました。

井部祐子さんのプロフィール

井部祐子 いべ・ゆうこ

文化服装学院流通専門課程修了後、
有限会社キャパアンドコオに入社、
アパレル、セレクトショップ等に向けたデザイン、
企画、生産まで携わる。
その他、百貨店、専門店における
服飾雑貨コーディネート業務を手がけながら、
広告企画、スタイリング業務や
店舗ディスプレイ業務等も担当する。
2000年に退社後、
商品をトータルプランニング
及びデザインを編集する
BonBonStore(ボンボンストア)を設立。
2014年にはジュエリーブランド<iberi>を立ち上げる。
2015年にはイラストレーター&アートディレクターの
ヒラノマサトオ氏と設立したブランド、
猫の視線をモチーフにグッズをデザインする
<ALAIN et JEAN/アランとジャン>を展開。

「weeksdays」では対談
「傘のたのしみ。」に登場。

●BonBonStoreのウェブサイト
●BonBonStoreのフェイスブック
●井部さんのInstagram

その2
きちんと。

伊藤
そして、麻の日傘です。
「weeksdays」オリジナルが作れて、
すごく嬉しいです。
井部
今、純粋な麻の日傘って、
ほとんど作られていないんですよね。
伊藤
え、そうなんですか!
井部
麻でも防水加工をして
晴雨兼用で使えるものはあるんですけれど。
日傘というのは素材開発が盛んで、
紫外線カットだけじゃなく
空間が体感的に涼しく感じる新素材も増え、
そういう機能的な部分を
各メーカーはメインで打ち出しています。
ですから逆に昔ながらの
こういうタイプのものを作っている人が少なくて。
でもそれだけに、逆に、
みなさん「素敵ね」って言ってくださいますね。
伊藤
紫外線カット率が大きくなければ
百貨店では日傘が売れません、
という話を聞きました。
井部
そうですよ、本当に。
でもちょっと「やりすぎ」のようにも思えるんです。
「ああ、これしか選べないの、日傘って?」
となってしまいます。
例えば70%は機能性の高い日傘があるとして、
30%くらいはそうではないものを
置いてあげたいなと思うんです。
ケースバイケースで使えばいいんですよ。
伊藤
そうですよね。
井部
だからうちのこういう日傘は
百貨店のポップアップでは、
異端児みたいな感じがするんじゃないかな。
でも、こういうものを本当に探してる人はいます。
ただ、新素材の機能性の高い傘に比べたら、
多少の暑さを感じるであるとか、
そういうことは店頭できちんとお伝えしています。
伊藤
うちの娘は、うんと歩くんです。夏も。
わたしは車に乗ってしまうことが多いんですが、
彼女は若いから平気で歩く。
だから機能性の高い日傘を使っているんですが、
この前わたしがBonBonStoreの日傘を差してたら、
「やっぱりいいなぁ」って。
差してる姿、傘自体がかわいいって。
そういうことを理解しつつ、
炎天下をがんがん歩くときは新素材、
おしゃれして出かけるときは麻、みたいに
娘にも日傘を使い分けてほしいなと思う。
「今度作る日傘は着物にも合うと思うんだよね」
って言ったら「あ、確かに!」。
井部
きちんと着物をお召しの方は
「暑いときに暑いって顔しないで、
すっと涼しくあるのが粋だから」っておっしゃる。
そういう方は新素材の傘は選ばれないでしょうね。
伊藤
いまや、夏に着物を着ること自体、
すごいことですからね。
心にも時間にも余裕がないと難しい。
そういうこともあるし、
ふだんの格好をしているときも、
日傘は優雅なおしゃれなものであってほしい、
という気持ちがあるんです。
だからこの日傘は「あっていい」。
井部
私もいつもそう思います。
みんな新素材のほうに流れて行っちゃうけれど。
伊藤
すごく喜んでくださる方もいるでしょう?
井部
そうですね。
持ち運びに便利だということと、
折りたたまなくていいところがいい、と言われます。
伊藤
ちょっと大きめのバッグだと
こういうふうに入れられるし。
井部
そのまま、ちょっとクラッチぽく持てたりも。
すごく小さくてかわいいって印象があるみたいです。
伊藤
生地を、ハシゴレースにしましたね。
井部
これ、純粋なハシゴレースではなく、
ハシゴレース“風”に仕立てた
ボーラー刺しゅうなんですよ。
つまり、刺しゅうでレースを表現しています。
本来のハシゴレースは
手で糸を抜いて作るわけなんですけど、
それができないので。
伊藤
あ、本当だ!
井部
10cm単位で刺しゅうが入るので、
その区切りのところに糸が溜まりやすい。
それを手作業で切っています。
伊藤
差すと、空間になっている部分が
いい感じに透けるんですよね。
井部
きれいですよね。
木漏れ日(こもれび)みたいで。
これは帽子代わりのつもりで作った傘なんです。
伊藤
たしかにこれくらいのサイズって、
帽子と同じ感覚で、道を歩くときに
人の邪魔にならないですよね。
井部
あと、お母さまで、
お子さんの競技の観戦に
邪魔にならなくていいと。
伊藤
確かに! 観戦の時ですね。
しかも帽子よりカバー範囲が広い。
井部
風通しもいいですよ。
伊藤
新素材に比べて暑いとおっしゃったけれど、
ちゃんと涼しいですよ。
直射日光とは、全然違いますもの。
井部
天然繊維は糸そのものが太陽の熱を吸収するんですって。
だけどそれはサマーシールドと呼ばれる
新素材と比較対照することができません。
ちなみにこの日傘は
生地部分の紫外線遮蔽率は87%。
その測定を専門の機関にお願いするわけなんですが、
穴があいたところで測るんですよ。
伊藤
えー。
井部
生地にいちばんダメージのある所を
測るというルールなんですって。
だから、わたし、いつも抵抗して、
穴を測るとおっしゃるなら、
ミシンの糸のところと、生地を全部、
5回ずつチェックして、その平均値をくださいって。
全面が穴だらけなわけじゃないんだもの。
伊藤
そうですよね。その平均が90?
井部
そうなんです。ベースだけ測るともっと高いですよ。
でもこの穴はあったほうがいい。
風も通るし、黒いから光がたりず
お顔の映りが気になるかたにも、
木漏れ日効果がありますから。
そうすると、人から見ても涼しく見えるんです。
伊藤
それ、大事ですよね!
井部
涼しい人、って感じてほしい女性の方、
おおぜいいらっしゃるはず。
わたしが店頭で接客して感じたことですが、
日本の女の人には、
そういうところがきちんとしてるかたがいる。
すごくいいなって思うんです。
見た目の涼しさで、
他の人に不快な思いをさせたくないって。
(つづきます)
2021-07-27-TUE