「weeksdays」そして「ほぼ日」でも
初登場の作陶家、中里花子さん。
伊藤さんの希望で、どんなふうにも使えそうな
マグカップを制作していただきました。
(とっても素敵なものができましたよ!)
16歳で渡米、現在は佐賀県の唐津と
アメリカのメイン州の2拠点で
作陶をつづける花子さん。
この対談は、唐津と東京を結んでの
オンラインで行われました。
日米の暮らしのなかでうまれた
色のこと、かたちのこと、
うつわのよろこび、たのしさ──。
ふたりの会話、3回にわけておとどけします。

中里花子さんのプロフィール

中里花子 なかざと・はなこ

唐津に育ち、16歳で単身渡米、
以後半生をアメリカで過ごす。
日本の独特な食文化に目覚め、大学卒業後帰郷、
父である中里隆さんから陶芸を学ぶ。
2000年の東京・万葉洞での親子展を皮切りに、
以後日本、アメリカ各地で個展を開催。
2007年に故郷唐津に独自の工房
monohanako(モノハナコ)を設立。
2010年にメイン州にmonoahanako Westを設立。
唐津とメインを半年ずつ行き来して作陶を続ける。

■monohanako
■Instagram

その2
八方美人であってほしい。

伊藤
花子さんは、ご自身で作られた器を、
お家で使われていますか?
中里
はい。個人的にも使ってます。
このマグで、今、白湯を飲んでいますよ。
伊藤
ステキ! 
いま背景に映っている様子も、
すごくいいですよね。
場所によって器も印象が変わる、
という意味では、
東京と唐津でもまったく違いますよね。
中里
そうですね、物って、場所で変わる、
それがすごく面白いことですよね。
だから自分の器は、
どんなとこでもスッと入れるような
八方美人であってほしい。
使い方のルールとか、
こうやって使ってくださいとかは
言いたくないんですよね。
やっぱり使い手がその環境で
使いたいように使っていただくのが
いちばんいいかなって。
伊藤
そういえば、初めてお会いしたとき、
花子さんは洋々閣(ようようかく)という
唐津の有名な旅館で個展をされていたんです。
わたしはその旅館に泊まるところで、
着いたその日が個展の初日だったので、
お風呂あがりに会場を訪ねて、
静かに買って静かに帰ったんです。
中里
私、そのとき、会場にいて、
「あれっ、どっかでお見かけしたことある方だな?」
と思いながらも、そんなズケズケ
「どなたですか?」なんて訊けないし、
それが伊藤さんだったことが
あとからわかりました。
失礼しました。
伊藤
とんでもない! 
それで連絡をくださって、やりとりがはじまって。
わたしが買った器を「何に使おうかな」って
思いをめぐらしていると伝えたら、
花子さんが「なんでもいいんですよ」って。
そのとき、そっか、
使い手が自由にできるっていうのは、
とってもうれしいことなんだなって思ったんです。
確かに、なんでもいいよね、って。
中里
私ったら、スタイリストの方にそんなことを言って、
怖いもの知らずですよね(笑)。
伊藤
いえいえ(笑)。その言葉を聞いて、
スッキリしたんですよ。
「そうだよね、家に持って帰ったら
自分のものになるわけだし」と。
なんていうのかな、自由になったっていうか、
もう自由に使おう! って思いました。
中里
ありがとうございます。
伊藤
そのとき住んでいた部屋は、
古い、外国人仕様のマンションで、
和食器がしっくりくるかっていうと、
そんなでもなかったんですよ。
でも、そのとき買った花子さんの器は
「あ、なんかしっくりくる!」と思ったんです。
さっき八方美人っておっしゃったんですけれど、
そういうことだったのかもしれないですね、
どのお家に行っても、しっくりくる器なんですね。
その時から、
いつかお仕事を一緒にできたらいいなと
思っていたんです。
中里
光栄です。
伊藤
それで、断られてもいいからとお願いしたことが、
今回、こんなふうに実現しました。
よかった。とてもうれしいです。
中里
器がつなげてくれました。うれしいです。
伊藤
ほんとですね。

monohanako
唐津にある中里さんの工房

中里
唐津って焼き物の町で
すごく古いイメージがありますよね。
私も古唐津(こがらつ)が好きですけど、
やっぱり自分の住んでいる生活環境は、
全部が全部そうだというわけじゃないんですけど、
ちょっと違和感がある部分もあるんです。
現代に生きている日本人のみなさんも
ほんとに「ザ・和」みたいな生活空間をお持ちの方って、
少ないと思うんですよね。
だから、自分だけでなく、
いろんな方の生活の空間にスッと
すんなり溶け込むようなものを作りたいなっていうのが、
基本にあるんです。
伊藤
実際使われてる方の様子を
目にすることとかってありますか?
「あ、こういうふうに使ってるんだ」とか。
中里
たまにありますね。
私が親しくしてる東京の方なんですけど、
結構食事に招いてくれたりして。
すごくお料理上手な方で、
その人のお料理にちゃんと溶け込んでるな、
っていうところを見るとうれしいです。
伊藤
その方は、どういう感じのお料理を?
中里
いろいろですね。和もされますし、
イタリアンとか洋っぽいものもあったり、
アジアンチックなものも。
実際にお料理を教えていらっしゃる方なんですけど、
一緒に食べることが好きな人で、
私も胃袋でつながってる感じ(笑)。
伊藤
そうそう、食いしん坊ですよね、ご実家の中里家は。
みなさん、作陶をなさって、料理もなさって。
中里
そうですね、食い意地だけはすごい家です(笑)。
お昼ご飯を食べながら夕食のことを話すような。
伊藤
器って、これだけで置いてももちろんステキだけど、
料理や飲み物が入って完成というか。
中里
そうですね。使ってこそ意味がある。
飾りじゃないですからね。
インテリアの一部としての用途もいいんですけど、
一つの器でもお料理を替えるだけで
その器の見え方が違ったりもするから、
そういうところも楽しめますよね。
伊藤
今回、例えば、チャイを入れました、
あと、カボチャのスープがこれに合いました。
とってもかわいいの。
中里
あっ、よさそうです、うん、うん。
伊藤
料理を盛った姿にもハッとするんですけど、
6種類をシルバーのトレーの上に置いて、
いつもリビングに置いている姿もかわいくて。
あと、洗って拭いた後、
釉薬のかかっていない底の部分を乾かすために、
キッチンにひっくり返しておくんですが、
その、並んでる様子もいいんです。
使うことで、一つの器で
いろんな姿が見れるなって思って。
中里
うれしいです。
たまにインスタで写真をシェアしてもらうんですけど、
こうやって使ってますよ、みたいな、
自分とは違う空間の中で自分のつくった器を
見させていただくと、
「あっ、うちの子が育ってる」じゃないけど(笑)、
そういう気持ちになりますよ。
伊藤
今回も、たのしみですね。
中里
はい。これまで世の中に出てるのは、
白とブルージーンズだったんですが、
それも何回かしか作ったことがないんですね。
今回はコラボ企画ということで、
ちょっと特別感があった方がいいのかなと思って、
大小、3色を作らせてもらいました。
だからどういう反響があるか楽しみでもあるんです。
伊藤
わたしたちのお店にとっても、
作家さんのつくるものを
ネットで販売するというのは冒険だったんです。
先日、作家さんの器を初めて売ったんですけれど、
ひとつひとつ、全然違うじゃないですか。
もちろん手で作ってるものだからなんですが、
届いたものがイメージと全然違うとか、
複数買ったらばらつきがありすぎる、
というご意見があったら、
どうしようとドキドキしてたんですけれど。
それがうれしい、ひとつひとつのゆがみも、
逆に自分だけのものだと感じると
思ってくださるお客様がすごく多かったので、
ホッとしたんです。
中里
やっぱり手作りのよさって、そういうところですよね。
ひとつずつ違うっていうのが。
伊藤
そうなんですよ。
今回も、たとえば釉薬の厚い部分、
逆に薄い部分があったり、
全体がマットな印象なものもあれば、
ツヤのある印象のものも。
逆にそれが完璧に揃うのが量産のプロダクトで、
そういうよさもあるんですけれど、
作家ものは、そんなばらつきが、
むしろ自分だけのものになる、
それが、すごくうれしいんですよ。
中里
私のmonohanakoっていう工房の名前も、
MONOってひとつだけだという、
オンリーっていう意味も引用しているんです。
それと焼き物の「もの」と、物体としての「モノ」。
例えば、「カップ」とか名称がつくと、
やっぱりカップっていう意識しかないんですけど、
モノっていうと、何だっていいんですよ。
ほんとにルールがない器っていう。
そういう意味のモノと、
一つだけのもの、オンリーという意味をこめて。
伊藤
そういう意味だったんですね!
中里
たまにケモノハナコって言われますけど(笑)。
ケはいらない! 
伊藤
(笑)
(つづきます)
2021-02-10-WED