REPORT

「weeksdays」が
老眼鏡をつくりました。
その1 鯖江に行きました。

プロデュースは伊藤まさこさん、
制作はJINS(ジンズ)。
企画から完成まで3年ちかくの時間をかけ、
「weeksdays」の老眼鏡が完成しました。
フレームの制作は、すべて“メガネのまち”鯖江。
伊藤さんと訪れたときのようすとともに、
この老眼鏡のこと、お伝えします。

伊藤まさこさんといっしょに
福井県鯖江市のメガネ工場を訪れたのは、
2019年3月のことでした。

それまでは、東京のJINS本社で、
「こんな老眼鏡がつくりたい」と、
伊藤さんがイメージしている
フレームの色や素材について話し合ったり、
「こんなケースがいいんじゃないかな」
「付属のメガネふきをオリジナルなものにしたいな」
など、いろいろな相談をしてきました。

さらにさかのぼると、スタートは2017年。
「第2回 生活のたのしみ展」で、
「ほぼ日」とJINSとで企画した
「かわいい老眼鏡の店」がきっかけで、
「次は、伊藤さんバージョンをつくりましょう」
と話しはじめていたんです。

フレームは、金属? それともセル?
どんな色がいいんだろう、
どんなかたちがいいんだろう。

大きくみんなのイメージをひとつにしたのが、
伊藤さんが発したこんなことばでした。

「かけているとき、だけじゃなく、
そこに置いたときにも、
風景になるようなフレームがいいなぁ」

また、「ひとつだけ」を選ぶのではなく、
老眼鏡を複数もって、
持ち歩くほかにも、
家の中ですぐに手に取れる場所においておく、
という人が多いことから、
「これがベスト!」をつくるのではなく、
あるていど、選びようのあるラインナップにしましょう、
ということも、決めました。

そうして、チタンフレームと
セルフレームの両方でデザインを詰めてゆき、
3Dプリンターでサンプルをつくり‥‥、と、
その経緯のこまかいことを言うときりがないくらい、
こまかな調整をして、
「このかたち」を決めたあとの、鯖江訪問でした。

さて、鯖江でなにをしたのかというと、
「メガネ工場で、ずばり! の
セルフレームの素材となるアセテートの色えらび」。
なにしろアセテートは色のサンプル数が膨大なため、
東京でそれを行なうことはむずかしい。
すでに、チタンは、シルバーとゴールド、
フォレスト・ブラックという3色を決めていたのですが、
アセテートはじっさいに色を見ないとわからない。
さらに「ぜひ鯖江のメガネづくりを見たい」と、
出かけることになったのです。
(おっと、画像のなかで
みんながマスクをしていないのは、
コロナ以前だったからですよ。)

ちなみに、訪れたのは、海外むけのフレームが約半分、
それも「メイドインジャパン」の高品質を求める
欧米のメガネブランドからの発注が多い、腕のよい工場。
ちなみに鯖江へは海外からの注文が多く、
全体では6~7割にものぼるんだそうです。
鯖江の技術力を信頼して、最近では、
金属とアセテートの両方をつかったものなど、
より複雑なフレームが求められているのだとか。

また、鯖江のすごいところは、メガネづくりの工程が
分業制になっていること。
最初から最後まで1社ですべての工程を
こなせるところはなく、
作業、パーツごとに、大小さまざまな工場があって、
その物づくりが鯖江でできるんです。
つまり、鯖江のまち全体が、
大きなメガネ工場だとも言えるのですね。

さて、膨大なサンプルを前にした伊藤さん、
まずえらびはじめたのはアセテートの茶色です。

「やっぱり最初は、すごくベーシックで、
わたしたちみんなが似合うような茶色が、
ひとつ欲しいと思うんです」

茶色とひとくちに言っても、
明るめの茶色と暗めの茶色、
赤っぽい茶色もあれば、くすんだ茶色も。
フレームが二層、三層になっている
複雑な色味のものもありました。

「うーん? でも、単色がいいですね。
よし、決めた! この、かわいい茶色にします」

うん、はっきりとした色で、きりりと顔をひきしめますね。
そして、伊藤さんから、もうひとつのコンセプトが。

「もう一個の方には、若干のニュアンスで、
かわいいおばあちゃんっぽさを残したいんです」

そうして選んだのが、こんなライトブラウン。
なるほど! とってもおだやかで、品のある印象です。

さらに伊藤さんが気になっていたのが「カーキ系」。
これは、ずらりと並んだサンプルから、
ぱっと気になったものを選んでのことでした。
「四つ葉のクローバーを見つけたときのように、
目立っていたんです」
と伊藤さん。
JINSのみなさんからは
「これを選ばれるとは!」と、感嘆の声があがりました。
(こういった組みかたで、こういう色をえらぶのは、
めずらしいことなんですって。)
でも、むずかしい色かといえば、そんなことはありません。
かけてみると、いろんな人に似合う!

こうしてセルフレームの3色が決まりました。

さて、ここはアセテートの素材倉庫。
さきほど選んだフレームの素材もありました。

厚みがあると、うんと濃く見えます。
アセテートは、ほかのプラスチックに比べると、
比較的軟らかい素材。パルプからできています。
メガネのフレームは、熱を加えて曲げたり、
切削をしたりするので、
アセテートの硬さがちょうどいいのだそう。
そして、アセテートは吸水性が高いので、
そのぶん、かけたときに、肌に優しいんです。
ただし、汗をかいたり、水洗いをしたまま
拭かずにおくのはNGです。
(拭き取っておけば、だいじょうぶです。)
ちなみに、このアセテートは、
兵庫県の網干でつくられています。

メガネをつくる工程はとても多く、
メタルフレームだと300工程ともいわれます。
それに比べてセルフレームは工程数が減りますが、
素材を曲げて、切削しある程度の形状にして、
柄をつけ、鼻パッドをつけ、丁番をつけ、組み立てる、
その過程はメタルもアセテートもおなじこと。
それぞれのパーツにもたくさんの工程がありますし、
メタルではメッキなど、また異なる工程が加わります。
こまかい作業は、分業化され、
なかには個人でなさっているところもあるのだとか。
見学をさせていただいた工場は、撮影不可、
専門的な技術のことは社外秘だそうです。

というわけで、「こうやってつくっています」
というレポートは、できないのですけれど、
これだけは伝えておかなくちゃ、ということがひとつ。
それは、どの工程も「人」がかかわっているということ! 
工場、というと、オートメーションで、
片方から素材を淹れたら、もう片方から製品が出てくる、
なんてイメージをもってしまいそうですけれど、
メガネづくりは、どの部分も、
人がいなくちゃできないことでした。
なかには危険な仕事もありますし、
かなりの集中を要する仕事もたくさん。
世界がなぜ「鯖江クオリティ」を求めるのか、
わかる気がする工場見学でしたよ!

さて後編では、「老眼鏡の選び方」をお伝えします!

2020-12-06-SUN