惠谷太香子(えたに・たかこ)さんは、
知るひとぞ知る、下着のつくり手です。
小さな、でもたしかなものをつくる
ご自身のブランド(オートクチュール!)のほかに、
繊維の専門商社や、大手アパレルメーカーの研究所、
またはブランドなどと組んで、
「世の中にない肌着」を考え、うみだしていくのが仕事。
あのファストファッションの肌着部門を立ち上げたり、
とある有名なホテルのファブリックをすべて考えたり、
さらにフランスや香港にもエージェントがあって、
ファッションの世界をうごかすような
仕事もしているらしい‥‥。
そんな「大御所」の太香子さんなのですが、
素顔は、あかるく、たのしい人。
そして(あたりまえですけれど)
下着のことは何でも知っている人です。
そんな、パワフルで魅力あふれる太香子さんに、
伊藤まさこさんがインタビューをしました。
太香子さんのこと、下着のこと、教えてください!

惠谷太香子さんのプロフィール

惠谷太香子 えたに・たかこ

女子美術短期大学卒業後、
ブライダルファッションデザイナーの
桂由美さんに師事。
その後フランス・パリのオペラ座衣裳室での修行後、
肌着・下着デザイナーとして独立しました。
キャリアを通して身に付けた
徹底した立体裁断の高い技術をいかし、
2003年には、大手ファストファッションメーカーの
下着部門が立ち上がるときの中心メンバーを務めました。
現在は、自身でオートクチュールを発表するかたわら、
日本の「オーガニック素材」の先端を走る
名古屋の豊島株式会社と組み、
今回の「cohan」、また、
「ほぼ日」の「白いシャツをめぐる旅。」で紹介した
シルクの肌着ブランド
「ma・to・wa」(マ・ト・ワ)などの
デザイン・開発にも携わっています。
日本の企業のみならず、香港やフランス、アメリカなど、
世界をまたにかけ活躍しています。

その2
やわらかいお肉、かたいお肉。

惠谷
私が就職した当時、
プレタポルテ(既製服)をつくる人は、
9号が着られないと採用されなかったんですよ。
私は体型でNG!(笑)
同級生はダイエットして就職活動をしていました。
でも桂由美先生のところはオートクチュールだから、
どんな体型でもきれいに着れるものをつくるのが仕事です。
体型も個性なんだ、っていうことを、
桂先生のところで理解したものだから、
安心しちゃって、今の状態なんですけどね(笑)。
伊藤
いやいや、そうですよ、
体型だって個性です。
同じ身長で同じ体重でも違いますものね。
惠谷
双子でも全然違ったりしますし、
国によって、肉質も違うんですよ。
伊藤
肉質が?!
惠谷
肌のきめ細かさも違います。
すごく端的に言うと、主食が小麦かお米かで違う。
小麦の人よりお米の人のほうが
肌質がすべすべしていて、肉質は柔らかいです。
伊藤
じゃあ一般的な日本人は‥‥。
惠谷
日本のお米はもっちりしているでしょう、
それこそ新米のような水分の多いお米を
ふんだんに食べてる人はきめが細かいんですって。
伊藤
米どころの人って、きれいですものね。
惠谷
そして小麦は、肉質を硬くするんだそうです。
たまたまその知識が役に立ったのが、
ファストファッションのメーカーで
肌着を立ち上げたときのことです。
そのメーカーは、
日本とアジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカと、
体型別にブラジャーの基本を変えているほどで。
伊藤
おなじアジアでも、
中国と日本では違うんですか。
惠谷
違うんですよ、バランスが。
中国の中でも、たとえば大連の人と、上海の人は
もう全然体型も違うんですよね。
だからどこに向けての製品なのかによって、
糸のストレッチ、生地の伸び感、
そういうのまで変わってきちゃう。
そういうことを、立ち上げの時、やっていました。
たとえば日本人は補正下着みたいに、
ギュッとパワーネットの強いものを着ると、
肉も動いて、もうほんとうにウエストが細くなるんですね。
けれども一般的なアメリカ人は、
強いものを着なくても、そんなに体型が変わらないから、
パワーの強いものを嫌がるんです。
下を向いてお肉を寄せてカップに収めると、
胸の形をそのまま保てるんですが、
日本人でもバストのボリュームがある方は、
落ちてきちゃう。
でもアメリカ人はそんなに垂れてはこないんですよ。
伊藤
小麦ばっかり食べてたら変わるかもしれない?
惠谷
肉質は変わると思います。
いまお仕事でヨガウエアをつくっているんですが、
食べ物とプラス、インナーマッスルを鍛えている
いまの20代、30代の人たちは、
わたしのような50代とは違って、
筋肉が付いているから、ずいぶん違いますよ。
そうそう、日本と欧米のちがいで、
いちばんわかりやすいのが、ショーツのカッティング。
ヨーロッパのショーツはお尻がキューッて
鋭角になってるんですね。
それはそういう肉質、肌質に合うからです。
それを日本人が履くと、
肌がつるつるしてるから、お尻の間にギュッて入って、
Tバックみたいになっちゃう!
伊藤
海外でショーツを買うと、そうなりますよね。
惠谷
彼女たちは、肉が硬いので、いちばんヒップの高いところで
キュッとショーツが止まるんですよ。
もちろん歩き方も姿勢も違うんだと思うんですけどね。
だから、日本のショーツ屋さんはちゃんと、
お尻にちゃんとかぶさるようにして丸みが出るように、
テンションをかけて縫うんです。わたしたちも
「何%テンションかけて下さい」って伝えます。
伊藤
引っ張りながら。
惠谷
グッて引っ張り、ギャザーを寄せながら縫う。
これって特別なことで、
今回のショーツも、アウター屋さんというか、
外着をつくってる工場さんには縫えないんですよ。
普通のアウター屋さんだったら、
こんなふうに縫い目にしわが寄っていると、
「パッカリング」といい、不良品扱いになっちゃう。
でもこの攣(つ)りがなかったら、
お尻がつるってすべっちゃう。
とくに、お尻にボディクリームとか塗って、
いつもつるつるしてる人たちはそうです。
ショーツとかブラジャーを選ぶときは、
本来、自分の肉質が関係するんですね。
伊藤
サイズだけじゃないってことですね。
惠谷
そうなんですよね。
サイズはね、変えることができるんですよ。
背中もどこの肉も胸に持って来ると、
「あ、私、背中の肉だったんだけど、
胸だったかもしれない」って、
お肉が勘違いして、ちょっと胸に来ますから。
伊藤
太香子さんのつくった肌着は、
着心地が楽なんですけど、それでもやっぱり‥‥。
惠谷
はい、これを着る時も、
やっぱり中に入れていただいたほうがいいです。
前かがみになって、下を向いて、脇を寄せてね。
着た時のスタイルがきれいに見えますよ。
サイズが合ってないブラジャーを着ちゃうと、
脇の、副乳が漏れて乗っちゃう。
そういう意味では、合ってるブラジャーを着けないと、
胸の形が悪くなります。
もちろん「べつにいいのよ、ナチュラルだから」
という考え方も、いいんですけれどね。
あとは、ワイヤーはできればやめてほしいな。
伊藤
そのことを、ずっと、おっしゃってますよね。
惠谷
リンパの流れを止めないのがいちばんいいんですね。
きつい肌着は胸と大腿部リンパの流れを止めますから‥‥。
寝る時にショーツを履かないほうがいいと言われますが、
それもそういうことなんです。
伊藤
太香子さんのつくる肌着はノンワイヤーなのに、
日本人のつるつるした肌質とか肉質でも
うまく乗るっていうのは、
裁断、パターンがいいからですか。
惠谷
はい、立体だからなんですよ。
寝てるとどうしても胸が流れちゃうんですけど‥‥。
伊藤
ん? ということは、
寝てる時も着けたほうがいい?
惠谷
そうですね、本当は寝る時も、
ノンワイヤーのこういうブラジャーを
着けられたほうが、胸が流れないですよ。
(つづきます)
2018-09-10-MON