今回「weeksdays」で紹介するダウンのスカーフは、
PHDという英国のアウトドアブランド会社の製品です。
PHDは、Peter Hutchinson Designs
(ピーター・ハッチンソン・デザインズ)の略。
そのピーター・ハッチンソンさんというのは、
英国アウトドア業界の草分けである
「MOUNTAIN EQUIPMENT」の創業者のひとりで、
“ダウンマイスター”(ダウンの巨匠)とも言われる人。
彼が1998年に立ち上げた会社がPHDで、
ダウンの品質表示として知られている単位、
“Fill Power”(フィルパワー)を世界で初めて表示したのが
このPHDなのだとか。
ピーターさんは2018年11月に
81歳の生涯を終えましたが、
彼のアウトドア哲学は、いまもPHDのものづくりに
脈々と受け継がれています。

‥‥ん? つまり、このスカーフって、
おしゃれ用というよりも、本気のアウトドア用ってこと?

はい、そうなのです。そうなのですけれど、
そこにはちょっとしたアレンジが。
そのあたりのこと、日本のアパレル商社、
GLASTONBURYの大倉大介さんにお聞きしましたよ。

あっ、ちなみに「スカーフ」という商品名ですが、
もっこもこ、です。ダウンですから!

全1回
GLASTONBURY
大倉大介さんインタビュー

──
PHDは、ピー・エイチ・ディー、と読めばいいんですか?
大倉
はい。「ピー・エイチ・デザイン」とも言いますね。
──
ダウンの品質をあらわすフィルパワーという表示を
はじめて使ったブランドだと知って、おどろきました。
大倉
これが計測する機械の画像です。
羽毛1オンスがどれくらいふくらむか、
立方インチであらわした数字を、
フィルパワーっていうんです。
大倉
しかも、PHDのダウンは、
800フィルパワーという、
とても高い数値なんですよ。
──
ええと、1オンスが約28.3グラム‥‥。
大倉
800立方インチは、
13リットル以上に相当しますから、
それだけふくらむっていうことですね。
──
かんたんに言えば「すごくいいダウン素材」
ということですよね。
大倉
そのとおりです(笑)。
──
PHは、
ピーター・ハッチンソンさんのことだと伺いましたが、
このかたは、有名なMOUNTAIN EQUIPMENTの
創業者のひとりなんですね。
大倉
彼は登山家でもあって、その経験から、
MOUNTAIN EQUIPMENTで
冬山登山用のダウンウェアをつくり、
それがエベレスト探検隊に採用されました。
さまざまな登山家が、彼のつくったウェアを愛用し、
いのちを預けてきたんです。
──
ほんとうのほんものだ。
MOUNTAIN EQUIPMENTをやめて
PHDを立ち上げたのには
どういう経緯があったんでしょうか。
大倉
MOUNTAIN EQUIPMENTは1970年の創業で、
英国のアウトドア用品の草分けであり、
90年代までの黄金期を支えたブランドです。
けれども外国投資が増え、ビジネスが大きくなり、
国外の安い工場での製造を行なうようになり、
コストを抑えたものづくりがはじまりました。
そういうなかで、ピーター・ハッチンソンは、
ビジネスマンであることよりも、
ひとりの登山家であることを選んだのだと言われています。
もともと、過剰な広告をこのまず、
口コミを信頼するタイプの人だったようですね。
最高のものだけを追求し、
自分が好まないものは決してつくらなかった。
しかも大きい会社にしたいということは望まず、
小さな会社でも、シンプルでクオリティーの良いものを
つくり続けたいと考えていたんです。
それで会社を売却し、
自身の納得のいくものをつくるために
98年にPHDを立ち上げるんですが、
工場では地元の人を雇い、
ヨーロッパの素材を使ったものづくりを始めたんです。
──
ロゴの下に英語で
BESPOKE MOUNTAIN CLOTHING
と書かれていますね。
大倉
はい。
エベレストやアンナプルナなどを登る
有名な登山家たちのために
ビスポークギアをつくってきました。
──
BESPOKE(ビスポーク)は注文靴のことだと
思っていましたが、
「be spoke」(話してある)が語源だそうなので、
注文服、のニュアンスでしょうか。
大倉
そうなんです。今も、基本は、そうなんですよ。
PHDのウェアは登山家や探検隊のために暖を提供する、
生命の危機から守るということが仕事なので、
使う目的と環境はもちろん、体型や体質も考えて
整備をする必要があるんですね。
でもぜんぶがビスポークというわけではなくて、
一般の方も購入できる既製品をつくっていますよ。
──
今回のスカーフやダウンジャケット類がそうなんですね。
でも、いまも大規模なことはしてない?
大倉
はい。マンチェスター近郊のちいさな工場で、
ピーター・ハッチンソンさん亡きあとも、
彼の息子さんを中心に、
15人ほどの熟練スタッフによって
ていねいに生産されています。
それゆえに日本ではあまり見かけないと思います。
──
あの、つまり「手づくり」ですか?
大倉
とくにそう謳ってはいませんが、
そういうことになりますね。
──
PHDは、いつからグラストンベリーでの
扱いがあるんでしょう。
大倉
10年近くになります。
──
販売は、スポーツ専門店で?
それともアパレル系のセレクトショップに?
大倉
基本的に洋服屋さんです。
ファッションの世界に
ほかの分野のカテゴリーのものを
上手に取り入れましょうという
スタイリングの提案をしてきましたから。
じつは、今回のスカーフ、
オリジナルのものから、ぼくらが提案をして、
アレンジをお願いしたものなんです。
もともとは、探検、冒険、登山で
寝泊まりする時間に使う、もっと大判の、
お布団的な感じ‥‥これの3倍ぐらいのものがあるんです。
──
シングルの掛け布団みたいな。
大倉
そうです。まさしくシングルサイズのダウンキルトです。
それを山に持っていき、敷いたり、掛けたりする。
それをスカーフとして使えるように
カットしてもらったのが、これです。
だいたい1/3ぐらいになっています。
もとのアイテムですと、
テントにつけるためのループがついていたり、
袋状のポケットみたいなもの──、
それは眠るときに足を入れるスペースなんですが、
そういうアウトドア的な部分があったので、
省いてもらいました。
──
「本気」のものを、ファッションとして。
大倉
そうなんです。
──
1970年代だったと思うのですが、
雑誌『POPEYE』で
「ヘビーデューティー」という言葉をつかって、
ダウンジャケットを街で着ようという提案がありました。
それは見たこともないカッコいいものとして映り、
ものすごく驚いたのを覚えています。
それまで「綿入れ」みたいなものしか知らなかったので。
大倉
まさしくその提案を、弊社でもしてきました!
ファッション性の高さだけでなく、
ルーツをたどればそういうところに行きつく、
っていうところも、すごく面白いかなと思っています。
──
じゃあ、PHDを知っているという人は、
かたやファッションに敏感な人、
かたやアウトドアの本気の人、みたいに、
分かれるかもしれませんね。
大倉
そうですね。
──
このスカーフも、やはりマンチェスターの
小さな工場でつくられているんですね。
大倉
アウトドアギアをつくるのと、
まったく同じ工場で、
同じ熟練の職人さんの手でつくられています。
Made in Englandです。
──
羽織ってみると、ほんとうに軽くてあたたかい。
やはり800フィルパワーゆえ、でしょうか。
大倉
そうですね。さらに言うと、
空気を含むダウンのパーセンテージが多い(90%)のも
あたたかさの理由です。
素材自体は、昨年まではマットな質感だったんですが、
今年から、日本製の素材を使っています。
日本製ですが、世界的なハイファッションのブランドも
使っている素材で、光沢があってしなやかで軽い。
ファッション性を高めるために、採用しました。
高密度の生地なので、ダウンが抜けづらく、
「本気すぎない」ニュアンスも
この生地で出ているんじゃないかなって思います。
──
くしゅくしゅとしたときのかわいらしさもありますね。
大倉
はい、やっぱりすごく表情もいいなと思ったので。
──
この「しわ感」は出るのがデフォルトですか。
大倉
日本に入ってくる際、うんと小さく畳まれているので、
最初はしわ感があると思います。
でも、出してポイって置いておけば、
空気を含んで膨らんでいきますよ。
それでもしわ感が気になるということでしたら、
当て布をしてスチームをかけてくださいね。
──
わかりました。
このスカーフ、男性にも使いやすそうですよね。
教えていただいた由来をきくと、
ますますそう感じました。
ありがとうございました!
(おわります)
2019-12-01-SUN