雪国だからこその「あたためる」知恵をいかした
飽きの来ないデザインの日常着を、
シルクを中心とした最高の素材で。
新潟と東京、ふたつのチームのタッグで
2017年にデビューした「ドレスハーセルフ」のこと、
もしかしたら、まだ、みなさん、
ご存じないかもしれません。
それもそのはず、このブランドはこれまで
「直販」しかしてこなかったんです。
ところが、今回、縁あって
「weeksdays」とのコラボレーションが実現。
その経緯を含め、ドレスハーセルフのこと、
彼らのものづくりについてみなさんに知ってほしくて、
広報担当の深澤さんに話をききました。
新潟を訪れたときの写真も、いっしょに紹介します。

深澤 絵さんのプロフィール

深澤 絵 ふかざわ・かい

株式会社Soldum代表。
1985年岩手県生まれ、上智大学卒業。
「日本人らしい創造的な仕事の真の価値や魅力を発信すること」をコンセプトに、セールスプロモーション/マネージメント/ブランディングを展開する株式会社Soldumを立ち上げ、アート/デザイン/工芸/食など多岐に渡るプロジェクトに携わる。

●ドレスハーセルフのウェブサイト
https://dressherself.com

その2
口づてに、良さは伝わる。

伊藤
そして、私が驚いたのは、
ドレスハーセルフのアイテムの価格です。
とても手に入れやすい価格を設定している。
こんなに上質なものなのに、
どうしてこの価格でつくることができるんでしょう。
深澤
たしかにクオリティの高さに対して
低価格だと感じるお客様が多くいらっしゃいます。
「どうしてこんなに安くできるの?」と、
なにか秘密があるんじゃないかと
いぶかしがられることもあるほどなんですが、
なによりの理由は、直販ということです。
いわゆる「卸」(おろし)をせず、
つまり小売店での販売をすることを目的に
作ってはいないんですね。
創業当初から「行商」を行ない、
お客様に直接販売をしてきたこともあり、
それが経営の基本的な考え方としてあるので、
「卸をしたくない」のではなく、
「卸をしてこなかった」。
自分たちがこの商品をこれぐらいの値段で
使っていただきたいっていう逆算式ではなく、
原価からの計算をして価格を決めていますが、
卸であれば代理店や問屋さんに支払うぶんを、
直販では省くことができます。
それがお客様に安価に提供できている理由なんです。
伊藤
なるほど、直販ゆえのメリットですね。
逆に、直販だからこその悩みはありますか?
深澤
やはり今の時代、
オンラインショップで商品を見て、
いちども触れたことなく、
初めてのブランドを購入いただくのは難しいですよね。
それがいま、課題なんです。
伊藤
触り心地を重視するシルクや、
直接身に付ける肌着は、ことさら、そうですよね。
「weeksdays」も同じ課題をかかえていますから、
よくわかります。
深澤
伊藤さんがドレスハーセルフを知ったのは
どんなきっかけだったんでしょう?
伊藤
川島蓉子さんに紹介していただいたんです。
ぜひぜひ使ってみてくださいって。
私もそれまで知らなくて。
でも川島さん、こちらと具体的に
お仕事をなさっているわけじゃなくて、
いいものだし、郷里が同じなので
応援なさっているということでした。
深澤
そうなんです。ドレスハーセルフの立ち上げ前に、
靴下、アンクルウォーマー、ストールなど、
あたため系の服飾雑貨を川島さんにご紹介したんです。
するとさっそく、「新潟ね!」なんておっしゃりながら
受け取ってくださって、次の日かな、メールで
「これはすごい」って(笑)。
そこから興味を持っていただいて、
少しずつアパレルのアイテムが増えていくなか、
川島さんがいろんなところで紹介をしてくださって。
そのとき「すごく新潟らしい」ということを
伝えてくださったんですね。
職人技を上手く現代に活かそうとしているということです。
そんなふうに川島さんに応援いただいて、
その流れでまさこさんのご縁もいただいて、
今回の機会に繋がっているんです。
伊藤
川島さんが私に教えてくださったのは、
そういう経緯だったんですね。
深澤
オンラインだけでは難しい部分があると言いましたが、
川島さんもそうですけど、
直接わかっていただきたい方に触れていただけるよう、
各地でイベントを展開して、紹介をしています。
そこでファンになってくださったかたが、
オンラインで注文をしてくださる。
そんなふうにして広がってきています。
伊藤
川島さんのトークショーで
ドレスハーセルフのことを知って、
さっそく購入なさったお客様が
多かったと聞きました。
深澤
はい、そして、リピーターのお客様が多いですよ。
興味を持ってくださった方が、
年に数回のイベントに、お友達を連れて来てくださったり、
1年使って、ちょっとクタッとなってきたから
新しい物を買い直したいと言ってくださったり。
定番品の多いブランドなので、とてもうれしいですね。
伊藤
買い足すときも、この値段は魅力ですよ。
深澤
そうなんですよ、ホントに。
伊藤
やっぱり、良くてもすっごい高いと、
ああ、って思っちゃうし。
深澤
そうですよね。類似品があれば、
そっちに行きがちですよね。
伊藤
こんなふうに手に取りやすい価格帯でありながら、
質がとても良いことも、驚きます。
深澤
はい。シルクやカシミアは
ほとんど中国でつくっていますが、
長年、山忠が蓄積してきた関係構築の中で、
信頼関係が篤く、家族みたいなかたちで
おつきあいしている工場との強い提携があるんですね。
山忠が思う品質、レベルに叶えてくれるとか、
製品をつくる上での工夫の仕方が、すばらしいんですよ。
伊藤
工場にもよく足を運ばれるっておっしゃってました。
深澤
そうなんです。新潟から、月に1、2回は、現地に。
それも、チェックだけに行くわけではなく、
支社なみに細かいやりとりをします。
お客様と同様に、つくり手とのコミュニケーションを
とても大事にしているんですね。
さらに工場のもっと先の深いところにある
たとえば糸の生産者とのやりとりなども、
工場が責任をもってやってくださる。
だからシルク、カシミアの質が保証されているんです。
そのときそのときの、とてもいいものを
仕入れられる流通ルートが、しっかり確保されています。
伊藤
では、すでに山忠などで培った
向こうの工場とのやりとりみたいなノウハウが
もう身に付いた状態で、
ドレスハーセルフをスタートなさったんですね。
深澤
そうなんです。ドレスハーセルフは、
山忠が長年培ってきた実績が
集結しているかたちです。
伊藤
深澤さんは、ドレスハーセルフの製品、
最初はどう思いました?
深澤
私はとても暑がりでして‥‥。
伊藤
あら、暑がりなんですか?
わたしと一緒(笑)。
深澤
岩手県出身だからでしょうか、暑がりなんです。
それで、シルクやカシミアって言われたときに、
「温かいよね、あれ」とかっていう意識があまりなく、
「暑いかも」ぐらいの気持ちで接したんです。
もちろん、シルク、カシミアはいいもので、
憧れではあったんですけど。
そうしてプロジェクトに参画し、
初めて触れたとき、驚きました。
いわゆる化繊の嫌な温かさっていうのがなく、
変に蒸れるみたいなことがない温かさ。
多くのかたが「すごくいいよ」って言っていたのは
これだったのか、と、はじめて実感したんです。
「温かいの苦手って思っていたけれど、
実は化繊の温かさが苦手だったんだ」って。
伊藤
わたしも化学的な発熱、蓄熱繊維よりも、
自然素材の温かさのほうが好きですよ。
深澤
私は暑がりゆえに、そのことをずっと知らずに来たんです。
さらに普段「しょうがないか」って諦めていた
体とか肌へのストレスは、
実は自分にとってかわいそうなこと、
もったいないことだったなと気づきました。
ちょっとチクチクするとか、蒸れるとか、
ちょっとしたストレスを
今まで無視していたかもしれないと。

▲深澤さんに着ていただきました。<シルクのTシャツ、シルクモダールパンツ>

伊藤
うん、うん。
深澤
「ふんわり優しく生きていこう」というよりは、
「寒さとか暑さとか、なんやかんや気にせず、
一所懸命、仕事をしたい女性たちに、優しさを」
それがコンセプトのドレスハーセルフですから、
「お肌が弱くて」というかたはもちろん、
「肌なんかいいのよ」と、
ふだん強気でいらっしゃる方がたにこそ、
おすすめしたいんです。
誰でも働く女性ですけど、
オフィスワーカーの方は、エアコンにさらされながら、
でも男性は暑いだろうからみたいなところで、
我慢している人もいると思うんです。
そういう方を応援したいっていう意味も含めて、
「自分だけのドレス」「ドレスを着るような感覚で」
と、ドレスハーセルフという名を付けているんですよ。

▲<ロングカーディガンシルクコットン>を羽織りました。

伊藤
まさに、私たちの求めていることです。
深澤
はい。だから、伊藤さんたちと、
初めてのコラボレーションというかたちで
販売をさせていただくのは、
いちばん自分たちが伝えたいお客様に
ダイレクトに伝えていただけるというところで、
みんな、喜んでいるんですよ。
伊藤
こちらこそうれしいです。

(つづきます)

株式会社山忠 中林道治専務のはなし[2]


靴下をつくって直販をする。
そのスタイルでずっとやってきた「山忠」ですが、
インナーをつくったり、
生活用品や雑貨をつくったりと、
婦人会からの要望に応え、
いろいろな商品をつくってきました。
その中で現社長が足の冷えるタイプだったこともあって、
30年ぐらい前、シルクと綿の靴下を重ねばきする
「冷えとり健康法」のための靴下をつくりはじめます。

シルクは当時高級素材として認知されていましたが、
肌に優しいなどの健康面にも着目し、
なるべく多くの人たちに
シルクの良さを知っていただくため、
シルクの5本指靴下の販売から
始まったとのことです。

当時、すでに日本の養蚕は衰退していましたから、
国産シルクは入手できなくなっていて、
当時からシルクの一大産地だった中国にでかけました。
上海の街に高層ビルがなく、牛車も走っていた時代です。
そこでいいシルクの原料と工場を探し、
冷え取り用の靴下、肌着から初め、
上物もつくるようになっていきました。
それがのちのドレスハーセルフにつながっていくんです。
「山忠」はご年配のお客さんが多いんですけれど、
そのシルクの製品はとても評判がよかったんですが、
これは、実は都会のもうちょっと若い世代に
すごくいい素材じゃないかと思ったんですね。
仕事行くときに家を出る。冬だったら寒い。
家から駅まで寒いの我慢して歩いて、
満員電車に乗ったら、すごく暑い。汗ばむ。
乗り換えで下車したらまた寒くなって、
また電車に乗って暑くなって、
会社に歩いていくときはまた寒くなってと、
寒暖差がすごく激しいなかで生活をしている。
そんなとき、シルクは、とってもいい素材なんですよ。
田舎のこういう寒いとこで、
ご年配の方の健康にもいいけれど、
都会のもうすこし若い人にもいい素材じゃないか、と。
じゃあ、それを企画してみよう、と、始まったんです。
2019-09-24-TUE