映画監督の安藤桃子さんに会いに、高知を訪ねました。
桃子さんと伊藤さんは初対面、なのですけれど、
いやはや、もりあがりました。
食のことから育児のこと、映画のこと、
社会のこと、東京のこと、未来のこと、
高知のこと、そして、あいすること、あいされること。
エネルギーたっぷりの桃子さんとの対話、
7回にわけて、おとどけします!

‥‥おっと、対談を読む前に、
桃子さんが高知に移住した2014年に監督した
高知市の観光プロモーション映像
「keep and going」を見ていただくと、
ふたりが話している高知のムード、
ちょっとわかっていただけるかもしれません。
keep and going

撮影協力:Equivalent
(写真=有賀 傑)

安藤桃子さんのプロフィール

安藤桃子 あんどう・ももこ

1982年、東京生まれ。
高校時代よりイギリスに留学し、
ロンドン大学芸術学部を卒業。
その後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て
2010年『カケラ』で監督・脚本デビュー。
2011年、初の長編小説『0.5ミリ』(幻冬舎)を出版。
2014年、同作を監督、脚本し、第39回報知映画賞作品賞、
第69回毎日映画コンクール脚本賞、
第18回上海国際映画祭最優秀監督賞など
その他多数の賞を受賞。
2018年 ウタモノガタリ CINEMA FIGHTERS
project「アエイオウ」監督・脚本。
高知県の映画館「ウィークエンドキネマM」代表。
「表現集団・桃子塾」、塾長。
現在は高知県に移住し、チームと共に映画文化を通し、
日本の産業を底上げするプロジェクトにも力を注いでいる。
現在、情報番組「news zero」(日本テレビ系)では
ゲストコメンテーターとしての出演や、
森永乳業『マウントレーニア』のWeb CMにも出演するなど
多岐にわたり活動の幅を広げている。
今年11月2日(土)、3日(日)、4日(月・祝)高知にて、
文化人やクリエイターの感性とアイディアを
子供たちへ届ける文化フェス
カーニバル00 (ゼロゼロ)in高知」を開催する。

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その3
振り返ってる場合じゃない。

伊藤
頭に思い描いたものを映画にする。
そのためにキャスティングする時は、
この人はこれだっていう枠組みの想像を超える
キャスティングをするわけですよね。
安藤
はい。
伊藤
『カケラ』で、志茂田景樹さんが
ちょっと出てくるじゃないですか。
あのシーン!(笑)
安藤
(笑)
伊藤
一瞬でしたよね、出てきたの。
あの後に、きっと家族で食卓を囲むシーンが
あると想像してたんだけど、ない。
あれ、すごいなぁと思って。
安藤
うんうん、あれだけでしたね(笑)。
伊藤
そう。それが、すごいインパクトで、
かなりのショックで。
安藤
あれは映像だからこそできることですよね。
魂の奥に最速で届くのは、まず音。
音楽は、ポーンって1音鳴らしただけで、
涙が出ることもあるわけですから、
さらに魔法に近い表現です。
映画はその音があり、
映像という、ある種の衝撃があり、
観る人は次に何が来るか予想できないという仕掛けがある。
スッと終わっても、そこから引き込まれ、
「あっ」って、何かが開いたところに、
感情とか、いろんな栄養が奥深く入ってくる。
映画はそういう仕組みを持っているんです。
文学は、読む人が、自分の想像力で広げてくれる。
それはそれで本当に素晴らしいもの。
そういう意味では、
小説と映画はまったく違うと思います。
伊藤
『カケラ』は桜沢エリカさんのマンガ
『LOVE VIBES』が原作でしたよね。
ご自身が原作を書かなかったのは、
「これだ」みたいな、交わりを感じたからですか。
安藤
処女作を撮る時に、考えたんです。
長編と短編って、やっぱり全然違うので、
長編を監督したことのない自分が、
監督としてどんなものかがわからない。
初めてのことだからこそ、
大きな、柵も見えない牧場の中で
撮ったほうがいいと思ったんですよ。
伊藤
その「大きな、柵も見えない牧場」が、
原作がある、ということなんですね。
安藤
はい。いくら助監督をやっていたとはいえ、
何も知らない子どもと同じで、
自分自身に対して未知数だから、
オリジナルを選んだら、
子どもが料理した時みたいに、
無茶苦茶なことをやりかねないと感じました。
一作目からオリジナルが撮りたかったからこそ、
「このお皿の中だよ」って、
その中で大いに描くっていうことをすれば、
たぶん、処女作は、どこまでも自分の感性を
表現できるのかなと思ったんですね。
伊藤
あの時は、20代?
安藤
はい、20代です。
伊藤
私、この前『カケラ』を見返した時に、
自分の中で、若い頃、置いてきたものが
これだったのかもみたいな、
キュンとした感覚をおぼえました。
ご自分では、その時の気持ちそのままなのか、
私みたいに、
「そうそう、こういう若い頃って、
こういうところがあるよね」って、
思い出しつつ表現したのか、どっちなのかなと。
安藤
その時のままです。
エピソードとして、
若い頃、こんなことあったな、っていうのは
盛り込みましたけれど、
あとは、主役の2人
(満島ひかりさん、中村映里子さん)の
ど真ん中の若さに任せたいというのもあったし。
‥‥って、実は、こんな話をしていていながら、
『カケラ』のこと、ほとんど忘れてるんです(笑)。
伊藤
えっ?!(笑)
安藤
どんな映画だったっけ? って。
というのも、私、自分が撮った作品って
全然見ないんですよ。
もちろん編集中はずっと見ているし、
ゼロ号、初号は見ます。
公開初日や、映画祭でお客さんの反応が見たいとか、
最初の数分と、途中の気になる所、
このシーンの反応を見たい、というときには
そっと館内に入りますが、
それ以外は見ないんです。
伊藤
だとしたら、今ご覧になられたら、
「こんなことを思ってたんだ!」って
思うかもしれませんね。
でも私も、自分の書いたものや、仕事は、
ほとんど見返しませんね。
単行本を資料として見返すことはときどきあるけれど。
安藤
うんうんうん。
伊藤
昔のことを振り返ってる場合じゃない! というか。
安藤
ですよね(笑)!
それがひどすぎて、撮って、公開に向けて
その作品のインタビューを受けている時に、
「どんな作品ですか」とか訊かれても、
もうすでに忘れてて、
「えぇと、どんな作品だっけ?
ちょっと待ってください」なんてことも。
なので、テレビに出るときは、
「主人公が何々で、この人がこうで、
こういう役だったよね。
こうでこうで、こう。はい、覚えた!」
って、全部言えるようにして(笑)。
伊藤
じゃあ、今は、次に向けて、蓄え中?
だって、始まったら、
湖に飛び込んじゃうんですよね、
息が続く限り。
安藤
そうなんです。
今──、人生で見たことがない、
最高におもしろい映画を見ている途中なんです。
こんな映画は私以外見たことないんじゃないか?!
とすら思っています。
というのも今、「カーニバル00 in 高知」という
大掛かりなイベントを企画していて。
伊藤
今年、開催されると聞きました。
安藤
はい。土佐の知恵と、
日本中から集まった知恵を混ぜ合わせるお祭りなんです。
食の力があふれて、人間らしく生きる力が輝いていて、
自然との循環がずっとあるこの場所を舞台に、
農業はもちろん、
映画、音楽、いろんな分野の専門家を招いて、
未来を考えようっていうイベントを、
若者巻き込み型、同時多発の、
街フェスとして開催しようと。
それが終わったとき、その後の自分は、
いったい何を撮るのかなぁって、
逆に、楽しみになっているんですよ。
「こういうのを撮ろう」と思っていたことや、
やりたいと思っている企画は常にあったけれど、
このイベントに関わったら、
どれも違う、今じゃない、それじゃない、
っていう気しかしなくなって。

撮影:ほぼ日刊イトイ新聞

伊藤
その後の桃子さんがどんな映画を撮られるのか、
すごく楽しみ。
安藤
はい。このイベントを立ち上げる過程で
筋力がついていると実感していて、
映画監督としての超スーパー強化合宿を、
今、受けている感じがするんですよ。
それがそのまま映画という形に
なるわけじゃないですけれど。
伊藤
イベントの日程はいつですか。
安藤
11月の2、3、4日(土・日・月/祝)の開催です。
伊藤
きっと新しい何かなんでしょうね。
安藤
そうなんです。
新しい地球を描こうとしてるんです。
(つづきます)
2019-09-29-SUN