福岡のうきは市にアトリエと住まいを構える
木工作家の山口和宏さん。
長いこと、山口さんのカッティングボードを使ってきた
伊藤まさこさんが、「weeksdays」のために
アレンジをお願いして、
山桜のカッティングボードと、
メープルの木べらをつくってもらいました。
おりしも東京にいらした山口さんを
伊藤さんのアトリエにお招きして、
この仕事に就いた経緯、木のこと、仕事のこと、
そして料理のことなど、おしゃべり。
そのようす、3回にわけておとどけします。
(写真は、まだ暑い頃、伊藤さんといっしょに
山口さんの工房と自宅におじゃましたときのものも、
いっしょに紹介しますね。)
            その3木の仕事は飽きない、おもしろい。
          
          - 伊藤
- ところで山口さんは、お料理をなさいますよね。
 もともとお好きだったんですか。
- 山口
- いや、それが最近、
 ずっとサボっているんですけれど(笑)。
 料理をはじめたのは、きっかけがあって、
 それは娘がアトピーだったことなんです。
 ちょうど2歳くらいの頃に中耳炎にかかって、
 耳鼻科に連れて行ってたんですけど、
 体質的に抗生物質を受け付けないので、
 薬が飲めなかったんです。
 それで何度も中耳炎になり、
 耳鼻科に連れて行っても、
 毎回鼓膜を切開する治療をする。
 名医って言われるお医者様でしたが、
 待ち時間も長くストレスも溜まるし、
 かならず切開されるしで、
 ずっとこの調子だと、繰り返していくことになる。
 かわいそうで、どうしていいかわからなくなって、
 どうしよう、どうしようって思っていたら、
 たまたま、マクロビオティックと出合ったんですよ。
 やったことは、お菓子を手つくりにして、
 お肉と砂糖を1年間取らなかった。
 主食は玄米、あと根菜類を中心の生活に切り替えて、
 醤油とか野菜も農薬や添加物がないものを購入して。
 そうしたらほぼ1ヶ月で治りました。
 それでびっくりして、1年間続け、
 それから、ゆるく戻していきました。
 いまではすっかり健康です。
 そんな経緯で、
 ぼくがパン焼き始めたり、
 おかずをつくったりしはじめたんです。

▲山口さんの自宅の食器棚。もちろん家具そのものも、山口さん作。
- 伊藤
- そんな暮らしをして、今の場所で20年。
 山口さんはきっと変わってなさそうですよね。
 恥ずかしい過去とかなさそう。
 「こんなの作っちゃって」みたいな(笑)。
- 山口
- それが、実はあるんです。
 お皿も、今みたいに、ちょっとやさしい跡じゃなくて、
 もう叩きノミで叩いて、割って。
- 伊藤
- そんなワイルドな時代が!
- 山口
- ありました。
 始めた頃、アフリカの工芸品がブームで、
 ぼくもいろいろやってみようと思って。
- 伊藤
- でも、それは恥ずかしい過去じゃないですよ。
 まっすぐやって来られた印象があります。
- 山口
- でも順風満帆というわけではなく、
 独立したはいいけれど全然仕事がない時代が長く続いて、
 注文家具、オーダーで家具の注文頂いたりとかしながら、
 なんとか細々とやってきたという感じですよ。
- 伊藤
- 最初、不安はなかったですか?
- 山口
- 「オーダー家具は向いてないなぁ」と思いました。
 木でモノをつくることは大好きなんですけど、
 お客さんと打ち合わせをしながら、
 1つのものをつくるっていうことは、
 向いてないと思ったんですよね。
 だから「これはだめだったから、
 次、何をしたらいいか考えよう」
 っていうようなやり方でやってきましたね。
- 伊藤
- おもしろいですね。
 「向いてる!」みたいなのに向かっていくんじゃなく。
- 山口
- 木工が好きで始めたけれど、
 同じ木工の世界にも、
 いろんな仕事があるんだなぁって、
 やりながら気が付きました。
- 伊藤
- そうですよね。
 今は注文家具のような大きなものは
 作ってらっしゃるんでしたっけ?
- 山口
- 作っているんですけど、
 自分である程度スタイルを決めて、
 あとはもうサイズ違いとか、
 扉の寸法違いで受けています。
 最初の頃は、ぼくがお客さんに合わせようと、
 材木から選んで、ご自宅に行って、
 食器棚だったら採寸して、
 扉の数とか、引き出しとか、棚板の枚数とか、その間隔、
 そういったものを打ち合わせて見積もりを出すんですけど、
 そこまでやるととんでもない価格になってしまう。
 お客さんの希望に合わせたら、ぼくが降りるしかない。
 それで「あぁ、どうしよう! これ、ぼく向いてない」
 と思い始めた頃に、今の家を建てて、
 自分でカッティングボードやお皿を
 つくるようになっていくんですよね。
 それを見た友人が、
 「東京の企画展に、一緒に参加しませんか」
 って声をかけてくれた。
 それからいろんな出会いがあって、
 少しずつ、仕事が広まってきたように思います。
 
    - 伊藤
- お人柄もそうだけど、
 作っているものが魅力的じゃないと、
 次につながらないですよ。
 大きいものと小さいもの、
 つくるのにどっちがお好きとかってあるんですか?
- 山口
- どちらとも好きになったり、嫌になったり。
 同じものばかり作っていると、
 ストレスが溜まってくるんですね。
 だから小さなものを作った後は、
 椅子とかテーブルとか、そういった大きなものをつくる。
 小さなものをつくる作業って、
 作業台の椅子に座って、
 ずっと彫ったり、削ったり、磨いたりする作業です。
 家具をつくるときは、もう全身で体を動かして、
 工房の中を移動しながら、いろんな機械を使ったり、
 刃物を研いだり。だから、運動量が多い。
- 伊藤
- たしかに、ひとつのことだけをすると、飽きますよね。
 気分転換が必要です。
 そうそう、今回は、小さいものでいうと
 木べらもつくっていただきましたね。
 これは、前から作ってらした形ですか?
 
 
    - 山口
- どこの国のものかはわからないのですが、
 以前写真で見たものをヒントにしました。
 使い込まれてヘラの先が黒くなり、
 いい味が出ていたんです。
 「どんな料理を作ってたんだろう?」と、
 そんな想像をしたりして、
 この木べらもそうなったらいいなあと思いながら。
- 伊藤
- そうなんですね! 素材は‥‥。
- 山口
- メープルです。
 白い木肌と優しい木目が美しく硬くて摩擦に強い木です。
 メープルは、幹から出る樹液を加工したものが
 メープルシロップなわけですから、
 メープル材のヘラで調理したら、
 美味しい料理がつくれそうじゃないですか?
 長く使うと、ヘラ先が焦げて黒くなってきますが、
 それもまた味かな、と思います。
 娘は「料理をするたびに表情が変わってくるので、
 料理の楽しみが増える気がする、
 持ちやすくて、手に馴染むので
 あめ色玉ねぎもいつもより楽にできる気がする」
 って言ってますよ。
- 伊藤
- 「気がする」!(笑)。
 ほんとうにそうなんじゃないかな。
 いい道具を使うと、気分がいいですし、
 山口さんの道具を使うと、
 たしかに楽しみが増えますもの。
 このヘラ、ふだん、山口さんは
 どのように使ってらっしゃいますか?
 
    - 山口
- ジャムを炊くとき、カレーやがめ煮、
 ポタージュをつくるときに使います。
 炒めたり、サーバーとしても使ってます。
 けっこう出番が多いですね。
- 伊藤
- そっか、2本あるとサーバーにもなる。
 新しい発見!
 今回、weeksdaysのために、
 カッティングボードと木べらを作っていただきましたが、
 ふだんの作品つくりの中で、
 気をつけていることや、
 心がけていることなどあったらぜひ教えてください。
 
    - 山口
- ヘラに限らずですが、
 やはり木は自然のものなので大切に使いたい。
 なるだけ無駄のでないように、
 そして木本来の姿が
 ものから想像できるようにと考えて作っています。
- 伊藤
- 山口さんの工房におじゃまして、
 作品つくりの様子を拝見したりお話を聞くと、
 木を大切に使われていること、とてもよくわかります。
 私も大切に使いたいと思います。
 それにしても、こんなふうに山口さんが、木という、
 ピッタリな素材と出会ったのって、おもしろいです。
 ずっと付き合ってるわけですもんね。
- 山口
- 飽きないです。なんかおもしろがってます。
 今、近くの日田っていう杉の産地に
 ヤブクグリと呼ばれる日田杉があって、
 それって建築材にしかならないって
 ぼくは思っていたんですね。
 家具とか木工製品をつくるって、まず不可能だと。
 ぼくが使ってる桜とか、胡桃とか、楢とか、
 そういった木と違って、
 年輪の柔らかい部分と硬い部分が極端に違うので。
 でも、知人を通じて縁があったお話だったので、
 その杉を購入することにしたんです。
 杉を使うのは建築材以外では初めてです。
 まず最初は、カッティングボードをつくろうかな。
 ヨーロッパでは、杉や松で作ってるものが
 多かったような気がするんですよ。
 ヤブクグリは節が多いので、もう節は節で、
 お客さんに楽しんでもらえるようなものにしたいです。
 「この節、どういった環境で育って、こうなったんだろう」
 っておもしろがってもらえると、
 木も豊かに使ってもらえると思うんです。
- 伊藤
- ますますたのしみ!
 山口さん、どうも、ありがとうございました。
 こんどまた、うきはにお邪魔させてくださいね。
- 山口
- お待ちしています。
 
(おわります)
          2019-03-27-WED
          
                                        
                  