テレビのリモコンをにぎって
あちこち番組を行き来しているとき、
この人の姿が見えたら手をとめてしまう。
演技に引き込まれたり、
スカッとしたお人柄に感心したり。
三谷幸喜監督の最新映画『記憶にございません!』で
アメリカ大統領を演じる木村佳乃さんの姿に
とどめのように衝撃を受けた「ほぼ日」の菅野は、
お話をうかがいに行ってまいりました。
のびのびとしたお人柄そのままのお話、
どうぞおたのしみください。
木村佳乃(きむら よしの)
1976年イギリス生まれ。
1996年にドラマデビュー。
1997年に森田芳光監督の映画『失楽園』に出演し、
日本アカデミー賞新人賞を受賞。
2010年の映画『告白』では
日本アカデミー賞ならびにブルーリボン賞で
助演女優賞を受賞。
そのほかの映画出演作には『阿修羅のごとく』
『さくらん』『誰も守ってくれない』など。
大河ドラマ「真田丸」や
朝の連続テレビ小説「ひよっこ」、
「あなたには渡さない」「後妻業」など、
テレビドラマの出演も数多い。
写真 小川拓洋
- ほぼ日
- 木村さんが演じる役には、
いろんなものがあったと思います。
自分ではない人を演じるということは、
かなりいろんなことを経験しないと
心模様が汲みとれないんじゃないかと
思うのですが。
- 木村
- ええ、そういうふうに思ったこと、
昔ありました。
経験の少なかった若いころ、
そういうふうにすごく思ってて‥‥、
あるとき、ふと思いついたんです。
- ほぼ日
- はい。
- 木村
- たとえば「ネバーエンディング・ストーリー」。
あれってファンタジーですよね。
- ほぼ日
- はい、ファンタジーですね。
- 木村
- あの世界を実際に経験した人はだれもいません。
だから想像でやるしかない。
そうでないと魔法使いの役なんて、
誰もできないわけです。
誰もが本当の魔法使いじゃないから。
- ほぼ日
- たしかに、たしかに。
- 木村
- その発想を転換させて、
「いや、できるよな」と。
「どんな役でも想像力が追いついていけば」
と思うようになりました。
- ほぼ日
- へぇえ!
- 木村
- 「ハリー・ポッター」だって、
実際の撮影はグリーンバックなわけですよ。
「エイ!」なんて言って、
杖から魔法の光線をビューっと出すわけで、
あれを本当に出せる人はいませんものね。 - ※グリーンバック
合成映像を作る際に使われる緑色のスクリーン。
緑の部分に別の背景がはめこまれる。
- ほぼ日
- ええ、そうですよね。
- 木村
- 頼りになるのはやっぱり想像力、
つまり空想力というか‥‥まぁ、
それが演技力なのかもしれない。
- ほぼ日
- そうかぁ。
- 木村
- 実際経験したものと、
そうじゃないもの、
すごく差はあると思います。
でも、できないことではありません。
- ほぼ日
- これまで木村さんの映画やドラマを
拝見してきたのですが、
最近でガツンときたのが、
NHKの朝ドラの「ひよっこ」で。
- 木村
- あ、「ひよっこ」ね!
- ほぼ日
- 「ひよっこ」の東京の場面で、
沢村一樹さんと有村架純さん、
菅野美穂さんと木村さんが、
四つ巴でひとつの部屋にいるシーンがありました。
- 木村
- あぁ、ありましたね。
- ほぼ日
- あのシーンの迫力がすごくて、
衝撃に耐えられず泣きました。
あのときの「美代子」は、すごく繊細ですよね。
美代子の体験は、
木村さんには本当はないはずなのに、
なんであんなことができるんだろう、と思いました。
- 木村
- あぁ、あれは書いてあったんです。
脚本に。
いい脚本って、読むとワッと引き込まれます。
そして、
「これをちゃんと、
書いてあるとおりに表現しなきゃ!」
と思います。
そこから、監督や共演の方、
照明さん、音声さん、カメラさん、
みんなで作品を作り上げていくという感じです。
- ほぼ日
- 脚本にある美代子さんを、
書いてあるとおりに表現するために、
まずはご自身の想像力を駆使して‥‥。
- 木村
- そうです。
私はけっこう、人の意見を聞きます。
- ほぼ日
- 意見を。
- 木村
- 脚本を読んだ読後感や自分だけの価値観、
それだけで進めないほうが
いいと思っています。
- ほぼ日
- へぇえ。そうか、そうなのですか。
- 木村
- 自分の価値観、つまり主観だけでやろうとすると、
絶対に失敗するんです。
間違いなくそう。
なぜなら、役は私じゃないからです。
自分だけの思想が役に入ってしまうのは怖いです。
監督をはじめ、いろんな方の意見を聞いて、
相談してやります。
そうじゃないと、
やっぱり役が私になっちゃうんですよ。
- ほぼ日
- 役は自分ではない、と。
- 木村
- そこは本当に。
脚本を読んだときの、
自分の感想はもちろんあります。
でもそのままやっちゃうのは怖いと思う。
だから、人にものをすごく聞きます。
「私はこう思いましたけど、これ、どうですか」
そうじゃないとね、どう言ったらいいだろう、
つまり「自分だけ」だと限界があるんです。
- ほぼ日
- 自分の考えつくことだけでやってしまうと。
- 木村
- 自分の主観が入りすぎると、
間違いなく役が薄っぺらくなります。
役は自分じゃないし、また、
自分と役を比べる作業は、一切しません。
- ほぼ日
- 俳優さんのお仕事を、
そんなふうに考えたことはなかったです。
- 木村
- でも、結局は、
最後にやるのは私だし、顔も私です。
- ほぼ日
- ああ、そうですね。
- 木村
- 特殊メイクで変えられたとしても、
顔はそうそう変わらないし、
声はかなりいっしょ。
絶対に「私」の要素は入っちゃう。
だからギリギリの段階まで、
なるべく違うものを
取り入れたいと思っています。
- ほぼ日
- 木村さんは、俳優というお仕事を
やめようと思ったことはなかったですか?
- 木村
- ないです。
具合が悪いとか、そういうことで
やめようかな、と思うこともあるかもしれません。
でも、役をいただいて成立する仕事なので、
自分でやめようとすることはないと思います。
- ほぼ日
- 俳優さんというお仕事は、
カメラの前でパワーが要りそうだし、
さまざまに気をまわさなきゃいけないし、
尽きぬ泉のように表現しなきゃいけないし‥‥
かなりハードなのでは、と思ってしまいます。
- 木村
- それは、どんなお仕事も一緒だと思います。
どんなお仕事も。
それは本当にそう思う。
(つづきます)
2019-09-13-FRI
-
脚本家、演出家、映画監督として
これまでたくさんの笑いと感動を届けてきた
三谷幸喜さんの、映画監督作品8作目となる
待望の最新作。
構想13年の三谷さんのオリジナルストーリーです。
主演は「記憶喪失の総理大臣」を演じる
中井貴一さん。
木村佳乃さんはアメリカの大統領を演じます。
そのほかディーン・フジオカさん、小池栄子さん、
石田ゆり子さん、草刈正雄さん、佐藤浩市さん、
斉藤由貴さん、吉田羊さん、宮澤エマさん、
有働由美子さんなど、豪華なメンバーが
三谷監督のメガホンで
どのようなキャラクターを演じたのか!
1シーンずつがたのしい現代劇です。9月13日(金)より全国東宝系にて公開。
上映スケジュールなど、くわしくは
映画の公式サイトをごらんください。