本屋さんで大人気の本を手にしたことをきっかけに、
あちこちでずっと活躍しつづけている
平野レミさんに、ひさしぶりにお会いしました。
レミさんのつくる料理のように、
たっぷりまるごと栄養をもらえるようなインタビュー。
みなさんは、鏡の中の自分、笑ってますか？
お話をうかがったのは、ほぼ日の菅野です。

※このインタビューは、毎週水曜にほぼ日がお届けしているメールマガジン
「ほぼ日通信WEEKLY」の再編集版です。

＞平野レミさんのプロフィール

平野レミ プロフィール画像

平野レミ（ひらの　れみ）

料理愛好家。シャンソン歌手。
NHK「平野レミの早わざレシピ！」など、
テレビや雑誌などを通じて
数々のアイデア料理を発信。
レミパンやエプロンなどの
キッチングッズの開発も手掛ける。
『私のまんまで生きてきた。
ありのままの自分で気持ちよく
生きるための100の言葉』
『ド・レミの歌』（ポプラ社）など著書多数。
ほぼ日では、和田家のカレーを
紹介してくださったWADA CURRYの動画が人気。
夫は和田誠さん。
父はフランス文学者の平野威馬雄さん。
子は和田唱さん、和田率さん。

写真：鈴木拓也

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第５回 料理の命名を引き継いで。

平野
昔は家族のために料理を作ってたんだけど、
最近は若い人たちから
「かんたんな料理を教えてほしい」と
言われることが多くなってね。
だからいまは、手軽にできるものをいつも考えてます。
料理のタイトルも
ちょっとおもしろいほうがいいと思って、
最近考えたのは「トンチンカンライス」ね。
──
トンチンカン‥‥トンは、豚でしょうか。
平野
そう。豚の「トン」と、「カン」のトマト缶を
混ぜて「チン」するの。
バジルをちょっと入れてね、おいしいのよ～。
それをごはんといっしょにね。
「トンチンカンライス」って、
ちょっとおもしろいでしょ。
こういうの考えるの、大好きね。
──
季節ごとにご出演なさっている
NHKの生放送、
いつもたのしみに見てますけれども、
大変そうですね。
平野
NHKの「早わざレシピ！」ね。
たのしいんですよ～。
──
レシピはどれもおいしそうで、
大胆な盛りつけだったりしますが、
自分で実際に作ってみてすごくおいしかったです。
レミさんのお料理の名前はもともと、
和田さんがつけられたものがたくさんありますよね。
平野
昔から、料理の名前は
和田さんがつけてくれたの。
「豚眠菜園（とんみんさいえん）」って、
作ったことある？
──
ないです。どんなレシピでしょうか。
平野
熱湯にキャベツを入れて、茹でておく。
同じ鍋で豚肉も茹でるの。
そして豚をキャベツの上に置いて、
豆板醤のおいしいタレをかけて食べる。
和田さんに「これ、名前、何てしよう」と言ったら、
和田さんは「中華だろ？」なんて
うれしそうに考えてくれた。
「豚眠（とんみん）だね。
菜園の上で豚が眠ってるから、豚眠菜園」
──
おしゃれだなぁ。
ああ、このレシピですね、
愛され続けて30年「豚眠菜園」。
平野
この絶品ダレは、何にでも使えるのよ。
ねぎをじっくり炒めるのがコツかな。
あとはね
「台満餃子（たいまんぎょうざ）」というのも、
和田さんがつけた名前で、
それは赤塚不二夫さんがうちに来たときに
生まれたレシピなの。
赤塚さんが「餃子パーティーやろう」って
言いながらうちに来たことがあって。
──
うわぁ、すごい顔合わせですね！
平野
洗面器にひき肉いっぱい持ってきたのよ。
鉢巻して「やろうぜ、やろうぜ」って。
──
ほんとにマンガみたいです。
平野
そう言ったわりには、
みんなで別の部屋に行っちゃって、
手伝わないわけ（笑）。
「なぁんだ、結局は私がやるのか」ってことに
なっちゃって。
ひき肉がキッチンで山盛りになってて、
餃子何百個分の具でしょ。
そんなにたくさん包むの嫌だったから、
この料理がひらめいたの。
肉にいろんなおいしいものを入れて、
ネチョネチョやって、耐熱皿に入れてチンする。
今度は餃子の皮を1㎝幅ぐらいに切って、
熱湯にパラーンパラーンと入れる。
皮が透き通ってきたらお湯をよくきって、
チンした具の上に置く。
その上に酢とラー油と醤油かけて
「はい、できたわよ～。食べて、食べて」
とみんなを呼びました。
「ええーーー、これ食べんの、レミちゃん。
なんだぁこれ、怠慢だね」
とか言いながら
「うまいね、うまいね、これうまいよ」って、
どんどん食べちゃうのよ。
みんなが満腹になって帰っちゃったあと、
これ良かったので、テレビでやろうと思って
「和田さん、何ていう題名にしようか」
と言ったら、みんなが怠慢と言ってたのを憶えてて、
台湾の台に満州の満をひっかけて
「台満餃子」なんてつけてくれた。
──
台満餃子は、レミさんの
「手抜きレシピ第１号」なんですね。
台満餃子、別名ごっくん水餃子。
平野
現在のレシピのポイントとしては、
豚のバラ肉を包丁で叩いてミンチ状にすること。
すごくおいしいから、作ってみて。

──
私のヘビーローテーションは「あっさり豚」と、
「牛トマ」です。
レシピを見なくても作れます。
数え切れないほどやりました。
レミさんのレシピはシンプルだけどおいしくて、
材料が少ないので、
きのこを入れたり好きな野菜を加えたり、
アレンジもしやすいです。
和田家の伝統料理は
和田誠さん命名のものが多いかもしれませんが、
最近の「トンチンカンライス」の命名はレミさん。
和田さんに負けないナイスネーミングですよね。
平野
和田さんはウフフって笑えるような名前を
たくさん考えてくれたけど、
和田さんがいなくなったら私が考えるしかないの。
こないだも「みかんをむかんご飯」というのを
作ったのよ。
──
みかんをむかん‥‥？
平野
そう。炊き込みご飯を炊くときに、
みかんの皮を塩でもんで洗って
むかないでそのまんまお米の上にのせて、
炊飯器に入れるんです。
炊きあがったら皮がやわらかくなっているので、
ぜんぶ混ぜて食べられるの。
──
みかんも、皮ごと！
平野
そうそう。みかんの香りがして、おいしいよ。
あとは「パンの耳よりな話」という
パンの耳料理も考えたし、
料理を落ち着かせるダウンタイムが30秒の
「プチ成型（せいけい）オムレツ」
っていうのもあるの。
──
ハハハハハ。
平野
そんなふうに、
ちょっと笑えるような題名が好きね。
ごくふつうの
「たまご炒め」とか「ごま和え」とかじゃ、
おもしろくないものね。
あとは私がせっかちなもんだから
「せっかちゼッポリーネ」という名前の料理もあるし、
あんをジャーッとかけるおこげ料理を
「おこ芸」という名前にしたり。
これもとってもおいしいのよ。
──
ああ、料理が不得手な私でも
ちゃんと作れるようなレシピです。
平野
うれしいな。「とんかつお」ってのもおすすめよ。
──
とんかつ‥‥？
平野
ちがう。とんかつおね。
刺身用のかつおのまわりに
豚バラ肉を巻いてフライにするの。
──
おお、おいしそうです！
平野
すごくおいしい。
とんかつの肉ってふつうは分厚いから、
フライするのに時間がかかるでしょう？
刺身用のかつおであれば生でもいいわけで、
まわりの豚肉に火が通ればいい。
こんなにおもしろい名前を
つけられるようになったのは、
やっぱり和田さんのおかげ。
和田さんがいたからはじまったこと。
──
和田さんが何十年と、
レミさんのお料理に
タイトルをつけてくださったからですね。

（明日につづきます。次回は最終回）

2025-07-26-SAT

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  • レミさんの本、続々出ています。

    『私のまんまで生きてきた。』は、ページをめくるたびに
    レミさんの「名言」が次々と飛び込んでくる本。
    長年レミさんに注目してきた、
    今回のインタビュアーの菅野にとっても、
    あらたな発見がたくさんありました。
    寝る前に開くと、レミさんに元気をもらって眠れます。
    そしてけっこう、声を出して笑ってしまいます。

    また、新装復刊された、レミさんによる初エッセイ
    『ド・レミの歌』もおすすめです。
    黒柳徹子さんによるエッセイ
    「レミちゃんのこと」も巻末収録。