
本屋さんで大人気の本を手にしたことをきっかけに、
あちこちでずっと活躍しつづけている
平野レミさんに、ひさしぶりにお会いしました。
レミさんのつくる料理のように、
たっぷりまるごと栄養をもらえるようなインタビュー。
みなさんは、鏡の中の自分、笑ってますか?
お話をうかがったのは、ほぼ日の菅野です。
※このインタビューは、毎週水曜にほぼ日がお届けしているメールマガジン
「ほぼ日通信WEEKLY」の再編集版です。
「ほぼ日通信WEEKLY」の再編集版です。
平野レミ(ひらの れみ)
料理愛好家。シャンソン歌手。
NHK「平野レミの早わざレシピ!」など、
テレビや雑誌などを通じて
数々のアイデア料理を発信。
レミパンやエプロンなどの
キッチングッズの開発も手掛ける。
『私のまんまで生きてきた。
ありのままの自分で気持ちよく
生きるための100の言葉』
『ド・レミの歌』(ポプラ社)など著書多数。
ほぼ日では、和田家のカレーを
紹介してくださったWADA CURRYの動画が人気。
夫は和田誠さん。
父はフランス文学者の平野威馬雄さん。
子は和田唱さん、和田率さん。
写真:鈴木拓也
- ──
- これからは空気を読みすぎず、
やりたいことを素直にやっていきたいです。
もっとありのままでいられるといいのですが‥‥
- 平野
- 「ありのまま」といえば、
私はお料理で、キャベツもにんじんも、
けっこうそのまま入れちゃうのよ。
にんじんは皮をむかないこともあるの。
皮と実の間に栄養がつまっているみたいよ。
- ──
- にんじんの皮を、むかず?
- 平野
- そのまま蒸すとおいしいの。
おいしいくるみのソースをつけて食べます。
- ──
- くるみのソースの材料は、
くるみ、牛乳、マヨネーズなどなど‥‥
わぁ、どんな味なんだろう。
しかもくるみを買えば、
すでに家にありそうな材料ばかりです。
- 平野
- うん、おいしいからやってみて。
どんなものでも、
私はそのまんま蒸すのが
いちばんおいしいと思うの。
小さく切って水とコトコトコトコトやっちゃうと、
どんどんおいしいエキスが出ていっちゃうでしょ。
もしコトコトやるなら、
エキスの出たスープも飲まなくちゃね。
そのどちらかだと思う。
人も野菜もそうやって、
自分の持ってるいろんなパワーを
めいっぱい活かすのがいいんじゃないかな?
- ──
- だからレミさんのお料理は、
ブロッコリーもまるのまま‥‥。
- 平野
- そうそう!
あの、ブロッコリーをまるごと
1本茹でて立てるやつ、
CMにもなっちゃったよね(笑)。
- ──
- はい(笑)。
レミさんの「まるごと」のレシピは、
形のおもしろさがウリなのかなと
思っていたのですが、
味のためでもあったんですね。
私はにんじんを皮ごと調理したこと、
きっとないです。
- 平野
- ときどきじゃがいもも、
皮のままやっちゃうけどね。
- ──
- remyのレシピページには
たしかにまるごとのメニューがたくさんありますね。
にんじん、かぼちゃ、キャベツ、
さらにまるごとのしめじ‥‥
ソースの味が決め手な気もします。
私は日ごろからremyの鍋に
お世話になっているのですが、
レミさんが最近買ってよかったものってありますか?
- 平野
- 買ってよかったもの? あ、これ、これ!
- ──
- いまお召しになっているセーターですか?
- 平野
- うん、下北沢で中古(ちゅうぶる)で買ったの。
いま、ちゅうぶるって言わないよね(笑)。
- ──
- それ、古着なんですか。見えないなぁ。
- 平野
- 1300円ぐらいだったと思う。
いまね、古着屋さんにすごーくハマってるのよ。
- ──
- レミさんと古着屋さん‥‥意外な組み合わせです。
- 平野
- ブランドものの服って、
首のところにマークがくっついてるじゃない?
友達からブランドの服を
もらったことあるんだけど、
かい~ぃい(かゆい)から、
私はみんな取っちゃったのよ。
- ──
- ブランドタグを、かゆみで取るんですね(笑)。
- 平野
- そしたらさ、古着屋さんに聞いたんだけども、
「売る」となったときには「それ」がついてないと
高く売れないんだって! バカバカしい(笑)。
- ──
- でもきっとそうですね(笑)。
- 平野
- 私の服は全部タグがないから、
売ろうとしたらきっと安くなっちゃうけども(笑)、
しかたないね。
散歩のついでに
古着屋さんめぐりするのはほんとにおもしろい。
たまにいいのに当たっちゃうのよね!
- ──
- 古着屋さんは、
いろんな時代のいろんなデザインが
いちどに見られるので、おもしろいです。
- 平野
- それにさ、新品ってちょっとだけ恥ずかしくない?
「新品着てますよ~」という
かんじがするでしょう。
その点、誰かが着ふるしてくれた
古着はおちつくのよね。
- ──
- へぇえー、新品はイマイチでしょうか。
- 平野
- なんだかねぇ、私は
「これみよがし」みたいなのが、
どういうわけかダメなんですよ。
- ──
- あ! また和田誠さんを思い出しました。
和田さんも、ピシッとした
「モロに新品」のような服装は
お嫌いだった印象があります。
- 平野
- ハハハハハ、和田さんはすごいのよ。
この家に引っ越してきたとき──
引っ越したこの家って、
もちろん「和田さんの家」よ(笑)、
和田さんが新築したんだから。
そしたらさ、近所の人が
「和田誠さんの家から、
書生さんにしてはみすぼらしい人が
出て行くけれども」
って噂してたらしいの。
- ──
- あの、いや(笑)、わかります。
「和田誠さん」という名前でイメージすると、
そうとうビシッとなさっていても
おかしくないですから。
しかしお会いするたびに、
和田さんの出で立ちが
ごくふつうでいらっしゃるので、
逆に驚きました。
- 平野
- アッハハ、ふつうもふつう、
ズルズルでしょ。ほんと、ズルズルなのよ。
- ──
- かばんもたいてい、
文春の紙袋でした。めがねのチェーンもタコ糸で。
- 平野
- ハハハ、そうそう、タコ糸、タコ糸。
和田さん、そういうのぜんぜんおかまいなしね。
- ──
- しかし、レミさんも
古着がお好きとは知りませんでした。
ご夫婦そろって、
なじんだものがお好きだったんですね。
- 平野
- 古着って、ほんとに
「着古した感じ」がいいのよ。
古着屋さんに出かけるのもいい散歩になるし、
買うときに店員さんから
たのしい話を聞けて元気もらえるし、
お得なものが買えるでしょ。いいことばっかりよ。
- ──
- 散歩して買い物して、仕事もいっぱいなさって‥‥
いやぁ、レミさんはずっとお元気ですね。
見習いたいです。
- 平野
- 声がでっかいからそう思うだけじゃない?
私、昔から声はでっかかったの。
高校生の頃、電車に乗っかって、
友だちとしゃべってたら「うるさい!」って
よく怒られたのね。
あと、思い出すのは、
3年ほど前に東京オペラシティ アートギャラリーで、
和田誠展が開催されたでしょ。
あそこも行くたんびに警備員さんに叱られたの。
- ──
- !!!
- 平野
- 和田さんの展示なのにさ(笑)、
毎回、「静かにしてください」って怒られちゃって。
- ──
- おそらく、レミさんとわからなかったんでしょうか。
- 平野
- わかんなかったでしょう、
そして、ほんとにうるさかったんでしょうね。
ある日、星新一さんの娘さんとも
いっしょに行ったんだけど、
「ほら、これが和田さんのさ」なんて
話してたらやっぱり「静かにしてください」と
言われて、ふたりで「すみません」なんて謝って。
その直後「これは部屋にあった絵で」なんていって
さわったら「さわらないでください」って(笑)。
- ──
- もともとおうちにあったものだから(笑)、
さわるのは自然ですよね。
- 平野
- とにかく、声がでっかいことで怒られたのは、
数えきれないくらい。
- ──
- 人から怒られると、シュンと落ち込んだりしませんか。
- 平野
- ないないない、
そんなのないってば、
ぜんぜんない。
- ──
- 私はシュンシュンシュンシュン
してばかりかもしれません。
- 平野
- 私、平気。なんにも平気。
だって、人に害を加えてないもの。
加えてるかな(笑)。
どうしてシュンシュンするの?
ぜんぜんいいじゃない。自由にたのしくさ。
- ──
- レミさんにとって
「しいて言えばターニングポイントだったな」と
思える時期はありましたか。
- 平野
- どうやらいまがターニングポイントみたいね。
- ──
- いまですか。
- 平野
- うん、そうなってるんじゃないかと思う。
みんな私のこと「おんなじだ」って言うんだけど、
ちがうのよ。
和田さんがいなくなっちゃったことが、
自分ですごいターニングポイントだと思ってるの。
小さいときから父と母がいて、
大人になってからは和田さんがいてくれたでしょう。
でもいまは自分。
ここ数年、あたらしい道を歩いてるな、
って気がしてます。
- ──
- 私たちからは変わらぬレミさんに見えますが‥‥
- 平野
- そうかもしれない。
人の性質は、きっとそんなに変わらないみたい。
和田さんはもうここにはいないけど、
私は自分を曲げずにたのしくやってる、
それは変わらない。
でも、どこがターニングポイントかと言われれば、
きっといまなんだろうなと、自分では思うの。
(明日につづきます)
2025-07-25-FRI
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『私のまんまで生きてきた。』は、ページをめくるたびに
レミさんの「名言」が次々と飛び込んでくる本。
長年レミさんに注目してきた、
今回のインタビュアーの菅野にとっても、
あらたな発見がたくさんありました。
寝る前に開くと、レミさんに元気をもらって眠れます。
そしてけっこう、声を出して笑ってしまいます。また、新装復刊された、レミさんによる初エッセイ
『ド・レミの歌』もおすすめです。
黒柳徹子さんによるエッセイ
「レミちゃんのこと」も巻末収録。


