
本屋さんで大人気の本を手にしたことをきっかけに、
あちこちでずっと活躍しつづけている
平野レミさんに、ひさしぶりにお会いしました。
レミさんのつくる料理のように、
たっぷりまるごと栄養をもらえるようなインタビュー。
みなさんは、鏡の中の自分、笑ってますか?
お話をうかがったのは、ほぼ日の菅野です。
※このインタビューは、毎週水曜にほぼ日がお届けしているメールマガジン
「ほぼ日通信WEEKLY」の再編集版です。
「ほぼ日通信WEEKLY」の再編集版です。
平野レミ(ひらの れみ)
料理愛好家。シャンソン歌手。
NHK「平野レミの早わざレシピ!」など、
テレビや雑誌などを通じて
数々のアイデア料理を発信。
レミパンやエプロンなどの
キッチングッズの開発も手掛ける。
『私のまんまで生きてきた。
ありのままの自分で気持ちよく
生きるための100の言葉』
『ド・レミの歌』(ポプラ社)など著書多数。
ほぼ日では、和田家のカレーを
紹介してくださったWADA CURRYの動画が人気。
夫は和田誠さん。
父はフランス文学者の平野威馬雄さん。
子は和田唱さん、和田率さん。
写真:鈴木拓也
- ──
- 私は最近、レミさんの本を
眠る前に開いています。
本の最初にあった言葉は、
「鏡の中の自分に笑いかける」でした。
この言葉が、最近自分にひっかかってきました。 - じつは私は若い頃から
「笑顔がいいね」と言ってもらえることが
多いタイプです。
しかし、鏡の自分に向かって笑ったことは
一度もなかった、ということに気づきました。
- 平野
- うん、そうよねぇ。
ほんとは私もそうだったのよ。
いつも鏡の前を、ふーっと通り過ぎてた。
でもあるとき「あっ」と思って鏡を見たらば、
「なんだかムスッとしてるな」と気づいたの。
だからちょっと考え直そうと思ったわけ。
鏡を見たら、笑っちゃおう。
鏡に向かってニッコリ笑うのよ。
笑うと、自分で自分を騙すのねぇ。
- ──
- なるほど、ああ、騙す!
- 平野
- ムスッとしてた自分が、
鏡に向かって笑っちゃうわけですよ。
そうすると笑顔が下にだんだん落ちていくの。
顔がスマイル、喉元がスマイル、
胸がスマイル、おなかがスマイル‥‥
心までスマイルになっちゃうわけ。
顔が笑うと、心まで。不思議よねぇ。
- ──
- それ、ひとつやるだけで、毎日が変わりますね。
- 平野
- そうよ。
だから私は、家のなかに鏡をあちこち貼ってるんです。
ふっと見て
「あ、うん。笑っちゃお。
スマイル、スマイル、スマイル」
って、いつもやってる。
やっぱりね、笑ってる人のところには
いいことが舞いこんでくると思う。
「笑う門には福来たる」って
昔の人はいいこと言ったね。
ムスッとしてるへの字の口の人、
じつは私のまわりにもいるんだけどさ。
- ──
- いらっしゃるんですか(笑)。
- 平野
- うん、いつもへの字。
その人と会うと、たいてい人の悪口ばかり言ってる。
そうすると口がああいう
への字になっていくんだね。
もう、嫌なことばっかり言うのよ(笑)。
その人がこっちに向かってくると
「あ、来た」と思って、私は忙しそうに走って
どこか別の場所にスーッと行っちゃうの。
でも逆に、笑ってる人のところには、
なんだか吸い寄せられるみたいに
こっちからどんどん行っちゃうじゃない?
- ──
- ああ、そうですね、わかります。そうです。
- 平野
- だからやっぱり、
笑ってたほうがいいね。
得するよ、笑ってたほうが。
- ──
- 得しますか。
- 平野
- 絶対! 得すると思う。
だからそのためにも、
自分を騙すのがコツです。
自分が変な顔してたら
「うん、笑っちゃお!」って、やってみて。
- ──
- 家に鏡を増やしたくなりました。
自分が思っている以上にきっと、
ムスッとして暮らしてるんだろうなぁ。
レミさんが「私のままで」と思えたのは、
若い頃からでしょうか。
- 平野
- 私ね、ほかの人から
どういうふうに思われようが平気なの。
平気、平気、ぜんぜん平気!
だって私、高等学校のとき、
下駄履いて毎日登校したからね。
ずっとよ、ずっと下駄!
ある日、先生から
「下駄履いてる者、出てこい」って、
全校生徒の前で呼び出されたの。
前に出ていくと、女、私だけ。
それで、朝礼台に乗っかったのよ。
- ──
- 朝礼台の上で、叱られてしまうんですね。
- 平野
- そうなのよ。
下駄で朝礼台の階段を
トントントントン~と登ると、
全校生徒がダーッと並んでこっちを見てました。
私それ、恥ずかしくないんですよ。
ぜんぜん、恥ずかしくないの!
だからまた下駄を履いて学校行っちゃうの。
そのうち先生もなんにも言わなくなっちゃった。
靴だとなんだか足がギューッとなるでしょ。
「がんじがらめ」ってのが嫌いなのね。
だから年じゅう下駄履いて、
のびのびと足を自由にね、
鼻緒だけでこーんなふうに歩いて、やってたさ。
- ──
- 人前で叱られても、
嫌な気分にならなかったのでしょうか。
- 平野
- そもそも家で叱られるってことが、あまりなかった。
だから先生たちに叱られても、
わりと平気だったんでしょうね。
でも、学校をやめたくなったのは、
英語の授業で先生に
「読むところ、間違えてるよ」
って言われたのがきっかけ。
私が間違ったとこ読んでるって
すぐにわかったはずなのに、
読み終わるまで言わないの。
それで「ああ、もうヤだな」と思って。
- ──
- ああ、それは嫌だなぁ。
- 平野
- 嫌なものは全部取っ払いたかったんですよ。
取っ払って取っ払って、
それがいいんだか悪いんだかわからないけど(笑)、
ここまで来ました。
- ──
- ほんとうは、みんながそうできたら、
すごくいいと思うんですよ、
ほんとうのほんとうは。
- 平野
- そうなのかもしれない。
でも実際はむずかしいのかな。
みんなあまりにも、
よその人のことを気にしすぎるのかな?
でも私、会社にお勤めしたことがないんですよ。
みなさんは、上司がいて、
どうやってこうやってって、やってるわけでしょう。
そんなこと私にはできないもの。
- ──
- いや、レミさんのような、
あんなふうなたいへんなテレビの仕事、
とうてい私はできません。
- 平野
- ははは、そうよね。
私だって「きょうの料理」に最初に出演したとき、
ほんとにたいへんだったのよ。 - 私が番組中にトマトを包丁を使わず
手でクシャッとつぶしちゃったとき、
賛否両論すごかったって。
現場のディレクターさんが
「ああいうこと、これからはやってほしくない」
みたいなことを言ってきたんだけど、
「私は私のやり方しかできないから、
これでやっていきたいと思います」と言ったの。
そしたらその後、新聞で
「最近、新しい料理の人が出てきて、
あの人のやり方はとってもユニークだ」
なんていう記事が出たの。
そしたら手のひら返しちゃってさ(笑)
「もうぜひ、どんどんやってください!」
ということになった。
ほんと、どんなに怒られたとしたって、
その後どうなるかわかんないもんですよ。
- ──
- もしそのときの常識と折り合いがつかなくても、
自分のやりたいことをきちんと通せば、
同じように感じていた人から、
追い風が吹くのかもしれません。
- 平野
- そうよね。でね、大事なことはたぶん、
人に不愉快な思いをさせていないってことだと思う。
もしかしたらトマトをギュッとやったことで
不愉快になった人もいたかもしれないけど、
私はそれで誰かに迷惑はかけてない。
だったらチャンネルを変えればいいことだし。
自分の思うことをしていいと思います。
(明日につづきます)
2025-07-24-THU
-

『私のまんまで生きてきた。』は、ページをめくるたびに
レミさんの「名言」が次々と飛び込んでくる本。
長年レミさんに注目してきた、
今回のインタビュアーの菅野にとっても、
あらたな発見がたくさんありました。
寝る前に開くと、レミさんに元気をもらって眠れます。
そしてけっこう、声を出して笑ってしまいます。また、新装復刊された、レミさんによる初エッセイ
『ド・レミの歌』もおすすめです。
黒柳徹子さんによるエッセイ
「レミちゃんのこと」も巻末収録。


