東京から半日かけ、
木次線の「出雲坂根駅」に到着！
乗車前から江上さんによる
スイッチバック解説がはじまります。

──

おぉ、到着しました。
ここが「出雲坂根駅」ですね。

江上

坂道を登ってきた列車は、
この停車場でスイッチバックします。
つまり、ここで前と後ろが逆になります。

──

駅が切り替えポイントなんですね。

江上

そうなんです。
出雲坂根のスイッチバックは、
ジグザグのぼるので
分類としては「Ｚ型」なんです。

──

Ｚ型というのは、珍しいんですか。

江上

日本だと九州の豊肥線にある立野と、
ここ出雲坂根の２か所しかありません。
非常に珍しい型です。
いや、過去には似たような
線形のものも存在しましたが、
規模的にはこのふたつが横綱ですね。

──

箱根登山鉄道は何型なんでしょうか。
あそこもスイッチバックですよね。

江上

ぼくの分類では、
箱根はラージＹ型。

──

ラージＹ？

江上

箱根登山鉄道では、
スイッチバックによって
３回列車の進行方向が変わりますが、
それぞれが「ラージＹ」なんです。
Ｙ、Ｙ、Ｙ。
それがつながってジグザグに見える。

一方、ここのスイッチバックは、
折り返しは２回ですが、
「出雲坂根」というひとつの駅の構内で
ジグザグするからＺ型なんです。

──

はぁ‥‥。

江上

ま、YとかZとかも、
ぼくが名付けたもので、
「江上式スイッチバック分類法」といって、
ぜんぶで８つに分類があります。
このへんのことはいま編集中の
『スイッチバック大全（仮）』を見てもらうとして‥‥。

──

はい。

江上

とくかく、あそこを見てください。
まずこの駅の注目ポイント。
線路がクロスしてるでしょう？

──

ちょっと遠いですけど‥‥。
線路が複雑に交差してますね。
なんか、かっこいいっすね。

江上

あ、わかる？　かっこいいでしょ？　
そう、かっこいいんですよ。
あそこ、クロッシングポイントっていって、
列車をさばくところです。
あそこをクネクネっと通る電車が
またかっこいいんです。

──

そして、いまから乗る電車がこれですね。
すでにブルンブルン、車みたいな音がしてます。

江上

電車じゃありませんね。
電気じゃなくて、ディーゼルで動きます。
基本は車と同じですね。
じゃあ、さっそく乗りましょうか。

──

あれ、切符は？

江上

切符を買える駅もありますが、
基本、お金は中で払うんです。
これ、ワンマンカーで、
つまりはワンマンバスと同じです。
乗車した時に整理券を取って、
降りるときに現金を払います。
おっ、ラッキー、先頭があいてますよ。

──

最前列、ゲットですね！

江上

でも、すぐにこっちは最後尾になります。

──

あ、そっか。
前と後ろが入れ替わるんでした。

江上

動きはじめたら、
まずはクロッシングポイントで
右側にクネッと曲がります。
まずはそこが見どころです。

──

で、登った先で一回止まるんですよね。

江上

止まります。
800メートル先で止まって、
そこでまたスイッチバックします。
すごいのが、これから向かう駅は
ここより180メートルも標高が高いってこと。
ひと駅で40階建ての
高層ビルの屋上まで登るわけです。

──

おぉ、なんだかドキドキしてきました。

運転手

ご乗車ありがとうございます。
この列車は各駅に停まります
普通列車の「備後落合（びんごおちあい）」行きです。
この列車はこれより
三段式スイッチバックの二段めの線路、
そして、三段めの線路を通り、
次の三井野原駅へ向かいます。

次の三井野原駅は
標高726メートルの場所にあり、
JR西日本では一番高いところにある駅です。

──

おぉ、西日本一高い駅！

江上

すごいよねぇ。

運転手

線路の途中には木次線で最大の見どころ、
おろちループ橋と真っ赤な三井野大橋が
一望できる場所を通過いたします。
カメラをお持ちのお客様、どうぞご準備ください。
もうまもなく発車いたします。

──

さあ、いよいよですね。

江上

いっちゃっていい？　
ぼくね、もう何十回も乗ってるけど、飽きない。

──

飽きない？

江上

飽きないねぇ。
ぜんぜん飽きない。
毎回毎回ワクワクするんです。
乗るたびに発見があります。

──

まずはクロッシングポイント。

江上

出発してすぐにクロッシングポイント。
それを越えて800メートルほど走ると、
今度は小屋みたいなところに入って、
そこでいったん止まります。
そこで前と後ろがスイッチして‥‥あっ、動きます！

運転手

おまたせしました。
普通列車の「備後落合」行きです。
まもなく発車いたします。

出雲坂根スイッチバックを体験！

──

おぉー、動き出しました！

江上

さあさあ、すぐに来ますよ。　
ここです、ここ！　
クロッシングポイント！

──

おおぉーー！　
いま、クネッと曲がりましたね！

江上

でしょでしょ、すごいよね！　
これですこれです！　
で、ここからカーブして
坂道をぐんぐん登っていきます。

──

おぉ、おぉぉぉーーー！

江上

そしたら、もうすぐ見えますよ。
‥‥はい、来ました、あれが小屋です。

──

たしかに、小屋！

江上

「スノーシェッド」と呼ばれていて、
ポイント部分を守るために
雪よけ用の屋根がついているんです。

──

へぇーー。

江上

小屋の先で線路は行き止まりなんですが、
この線路が意外と長い。
現在の一両編成では持て余す長さですが、
かつては四両、五両編成の
優等列車や貨物列車が使っていたので、
その名残りですね。

──

たしかにトンネルみたい、っと、止まりました。
運転手さんがハンドルを‥‥抜いた！？

▲ブレーキハンドルをスポッと抜く運転手さん。

江上

ここで列車を止めて、
運転手さんが後ろ側にまわります。
ワンマンの場合は、
ひとりで行ったり来たりするわけです。
ぼくたちもついていきましょう！　
ささ、急いでください！

──

はいっ！

▲キュッと踵を返して、列車の後ろ側に向かう江上さん。

▲運転手さんの後ろをスタスタ歩く江上さん。

▲後ろ側にも運転席がありました。今度はこっちが前になります。

▲ブレーキハンドルを装着して、計器を確認します。

運転手

ええ、おまたせしました。
これより三段式スイッチバックの三段めを通り、
次の三井野原駅へ向けて走ってまいります。
まもなく運転を再開します。

江上

無事に動きだしましたね。

──

江上さん、前に線路がふたつ！

江上

右がいま登ってきた線路で、
左がこれから進んでいく線路です。

──

つまり、スイッチバックしたわけですね。

江上

そうです、スイッチバックしました。
ここからは次の駅までぐんぐん坂道を登ります。
外の景色をたのしんでください。
ものすごい山の中ですから。

──

どんどん坂を登っていきます。すごい。

江上

そう、すっごい登るんです。
あっという間に山の上まで行きますから。
ほらほら、あれがさっきの駅。
ちょっと遠いんだけど‥‥わかる？

▲矢印のところがさっき乗車した「出雲坂根駅」。

──

ひーー、もうこんなに上がってるんですか！

江上

そう、あっという間なんです。
この辺りの勾配は30パーミル。

──

パーミル？

江上

30パーミルというのは、
1000メートル進むと30メートル登るという意味です。
これ、鉄道としては相当な急勾配で、
とくに蒸気機関車にとっては
かなり過酷な場所だったはずです。
よく毎日走っていたなあと感動します。

──

そっか、昔は蒸気機関車ですもんね。

江上

そうです、そうです。
そう考えるとすごいですよね。
この坂を煙をモクモク立てて、
進んでいたわけです。

──

それにしても、
ギリギリ通れる幅のところを走ってますね。

江上

この時期はとくに木がすごい。
伸びた枝がバンバン電車にぶつかってくる。
あまりに列車本数が少ないから、
次の列車が来る前に木が成長しちゃう。

──

いやぁ、すごい‥‥。
まさに森の中を突っ切ってるって感じです。

江上

もうすぐ赤い橋が見えます。
運転手さんがいっていた絶景スポットです。
ドローンで見る景色みたいですから。

──

すごい高いところまで来ました。

江上

いつの間にこんなところまで
登ったんだって感じですよね。
あっ、見えましたよ！　あっちあっち！　

──

おぉーーーーー！

▲窓の外に、大きな赤い橋が見えてきました！

▲圧巻のスケール。これが三井野原大橋です。

▲まるで空中遊泳をするかのような景色です。

▲乗客のみなさんも立ち上がって撮影をしています。

　

西日本一高い駅「三井野原」に到着！

──

着きました、三井野原駅。
いやぁ、たのしかったですねー。

江上

ねぇ、すごかったよね。

──

終点はまだ先なんですね。

江上

ふたつ先の「備後落合駅」まで行きます。
ちなみに、このすぐ先はもう広島県です。

▲自然と手を振ってしまう江上さん。

──

この線路が広島までつながってるんですね。

江上

この先の備後落合という駅で、
芸備線という別の路線につながります。
芸備線も大赤字路線で、じつは危ない。
このあたりの路線、
みんなまとめて消えちゃう可能性はあります。
それを考えると、
いてもたってもいられない気分です。

──

そうですよね‥‥。

江上

ちょっと下まで歩きましょうか。
さっき車内から見えた大きな赤い橋まで、
ここから歩いて行けるんです。

──

ここはもう高原ですね。
こんな高いところまで来たんですね。

江上

いまだったらどこかに
長いトンネルを掘っちゃえばいいんだけど、
当時はそんなことできないからね。
だからまあ、よくつくったと思うよね。

──

しかも当時は、
蒸気機関車で登ったわけですよね。

江上

だからもう、山の中を走る姿は
圧巻だったと思いますよ。
で、ここがさっきの赤い橋です。
山にちょっとだけ線路が見えるでしょう？　
さっき、あそこからこの橋を見たんです。

──

おぉぉ、あそこを通っていたんですね！

江上

で、出発した駅があっちね。
ちょっと遠いけど見えるかな。

──

えっ、あの谷底の？！

江上

そうそう、あの谷底のちっちゃい建物。
最初に乗った出雲坂根駅。
あそこからジグザグして、
さらにぐるーーーっとまわって、
ここまで登ってきたんです。

──

はぁぁ、すごいスケール感！

江上

ほんとほんと。

──

あんな谷底からここまで‥‥はぁぁ。
乗ってたのは15分くらいですもんね。

江上

そう、すごいんですよ。
あんな下の方にあった列車が、
そこで仰ぎ見た赤い橋よりも
高い場所にいきなり現れるんだから。
もはやイリュージョンですよ。