手話イメージ

きっかけは糸井重里が、
「リモート会議は感情の表現が難しいな」
と書いたことでした。それにある読者の方が
「わたしは簡単な手話をつかってますよ」
というメールを送ってくださり、
ほぼ日でも手話を学んでみよう、
ということになりました。
どなたに学んだらいいか、探していたら、
ぴったりの先生と巡り会いましたよ。
NHKでパラスポーツを取材している
リポーターの、後藤佑季さんです。
去年、朝のニュースで
「リモートの時代、もっと広がる手話の可能性」
という取材をされていました。
ほぼ日の乗組員たちに、
「手話を学んでみたい人?」と問いかけたら、
思った以上にたくさん手があがり、
みんなで手話を学ぶことになりました。
後藤佑季さんに教えていただく全4回の授業。
動画を観ていただくのが一番ですが、
テキストでもお伝えいたします。

>後藤佑季さんのプロフィール

後藤佑季(ごとう・ゆうき)

1996年生まれ。岐阜出身。

慶應義塾大学在学中の2017年、NHKが全国の障害のある人を対象に公募したリポーターのひとりとして採用。

生まれた時から聴覚障害があり、左耳に人工内耳を装用。現在、パラスポーツや共生社会実現への課題などを取材している。

自身の経験から「見えない」障害のある人の存在を伝えるべく奮闘中。

取材記事はこちら↓

https://sports.nhk.or.jp/paralympic/article/reporter/

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第3回 リモートで使える手話

後藤佑季さんの授業をテキストでもどうぞ!
(動画とテキストの内容はほぼ同じです)

いよいよ、後藤さんに授業をお願いするきっかけとなった
「リモートで有用な手話」の紹介です。

リモート会議って、
同時に複数人が話すと聞きにくいですし、
ひとりが話し出すと皆が聴き手に回って、
なかなか気軽に喋り出せなかったりしますよね。

そんなとき、
声を出さなくても意志を伝えられる手話は、
きっと聞こえる人にとっても有用なんじゃないか。
と、後藤さんは話されました。

また、リモート中じゃなくても
たとえば家族がリビングでリモート会議をしていると、
「ちょっと用事があるけど、声をかけにくい。」
っていうときがありますよね。
そんなときにも、手話って便利なんです。

というわけで、リモートで有用な手話。
私が取材で知った例を含めて
たくさんご紹介しますので、
どんどん覚えて、どしどし使ってみてください!
そうして、それが
手話に親しみをもつきっかけになればと思います。

 

■「トイレ」

リモート会議中に
「どうしてもトイレに行きたい!」
っていうとき、会話に割り込んで
「トイレ行ってきていいですか?」と言うのって、
ちょっと気が引けますよね。

そういうときに使える手話。
「トイレ」です。

手が「WC」の形になっていませんか?
これで「トイレ」を意味します。

「トイレ」の手話 「トイレ」の手話

これはリモートに限らず、
対面の時にも有用です。
これをみなさんの共通語にしておけば、
会話を遮らずに
「あ、トイレ行きたいんだな」
っていうのが伝わりますよね。

これ、後藤さんのイチオシ手話です。

 

■紅茶?コーヒー?

「紅茶」の手話は、
左手でコップの取っ手を持つイメージです。
取っ手を持って、ティーバッグをチャポチャポ。
これで「紅茶」です。

「紅茶」の手話 「紅茶」の手話

「コーヒー」は、ミルクを入れてかき混ぜる様子です。
ブラックの人も、かき混ぜてください。
これで、「コーヒー」です。

「コーヒー」の手話 「コーヒー」の手話

これらの手話を尋ねるような表情でやると、
「紅茶?コーヒー?」っていうふうに、
疑問形で尋ねることができます。

 

■「待つ」

リモート会議中、
まだ準備ができていなかったり、
電波状況が悪くて
「ちょっと待って欲しいな」っていう時に使える手話です。

「待つ」は顎に手を置いて待っている様子を表します。

「待つ」の手話 「待つ」の手話

■「たしかに」

他の人が話しているのを聞いているとき。
うなずくだけでも、
「聞いているよ」というのは伝わると思います。

でも、うなずくだけよりは、
「なるほどね」とか「たしかに」
って言われたほうが、
「ああ、聞いてもらっているんだな」
って思える気がしませんか?
そんなときに使える手話です。

親指と人差し指、両手で、トントントンとします。
これで、「たしかに」。

「そうだね」「同じ、同じ」など、
相手に同調するメッセージになります。

「たしかに」の手話 「たしかに」の手話

■「いいね」

「いいね」は
「オッケー」「グー」とか、
手話というよりはジェスチャーに近いかもしれないですが、
これで伝えることができます。

「いいね」の手話 「いいね」の手話

リモートで何かの発表が終わった時に、
力強く、上司の人に「グーっ!」やってもらったら、
なんかちょっとうれしくなると思いませんか?

 

■「大丈夫?」

「大丈夫」は、右手を左肩から右肩に動かします。

「大丈夫」の手話 「大丈夫」の手話

「大丈夫ですか?」って尋ねる時は、
うなずきながら、眉毛も上げます。
これで「大丈夫」の疑問形になります。

「大丈夫ですか?」って聞かれたら、
「大丈夫です」
って返事することが多いですよね。
返事の仕方も基本的には一緒です。

ちょっと自信なさげに「大丈夫です」って返す場合は、
ちょっと小っちゃめに「大丈夫」の手話をします。

「もう全然大丈夫!ばっちりです!」
っていう時は、
胸と肩をおおきく張って、ゆっくり動かせば
余裕な感じが伝わります。

 

■拍手

リモート会議などで、
誰かの発表が終わった後に
拍手があるとうれしいですよね。

手の動きは自由に、
とにかく両手を上げてヒラヒラさせると
「拍手」になります。

「拍手」の手話 「拍手」の手話

■「何?」「どう?」「どうした?」

英語でいう「What」や「Why」など。
人差し指を振ります。
これで「どう?どうした?」と尋ねる表現になります。

「どう?どうした?」の手話 「どう?どうした?」の手話

「え?今の何?」っていう時にも使いますね。
「え?なんだった?」など、
ちょっと戸惑いで聞きたい時には、
これで聞くことができます。

 

■「聞こえない」

リモートで電波が悪くて音が途切れたりして
聞き取りにくいことがありますよね。
参加者がミュートになっているのに気付かず
話し続ける場合もあると思います。

そういうとき、この手話を使うと便利です。
「聞こえない」。
耳に音が届いていない様子を表します。

「聞こえない」の手話 「聞こえない」の手話

その人の発言を遮ることなく
ミュートになっていることを伝えたり、
聞き取りづらくて、
ちょっと声を大きくして欲しいときにも使えます。

 

■「次」

リモート会議で進行役の人が使える手話です。

話す人が何人かいるシチュエーションで
「はい、ありがとうございました。
じゃあ次は〇〇さんです」
って毎回マイクをオンにして話すのが
ちょっと面倒くさいときはありませんか?

そんなときに使える「次」という手話です。

「次」の手話 「次」の手話

「次、どうぞ」って
サクッと伝えたいときに使える手話ですね。

 

■「お疲れさまです」

リモート会議が終わったあとは、
「お疲れさまです」と言いますよね。

「お疲れさま」の手話は、
腕の筋肉をちょっとストレッチするイメージです。

「お疲れさま」の手話 「お疲れさま」の手話

淡々とやれば「お疲れっす」という
アッサリした雰囲気になりますし
「本当にお疲れさま!」っていう時には、
ゆっくり大きく表現しましょう。

 

■表情自体が言葉

さて、ここまで一通り、
「リモートで使える手話」をご紹介してきましたが
使う上でいちばん大事なのは、
「反応を大げさに」やることです。

手話は表情も大事な要素の一つなので、
とにかくアクションは大げさに。
リモートの時にも役立つと思いますし、
リアルで話している時にも、
無表情の人と話すよりも
表情豊かな人と話したほうが楽しいですよね。

そのためか、聴覚障害者や手話を使う人は、
すごく表情が豊かだと言われることがあります。
それは、表情自体が言葉であるという
手話の特徴ゆえかもしれません。

手話を使いながら、
表情をとにかく、
大げさにやってみてください。
そうすると、マスクがなくなって
リモート会議が減ってからも、
より分かりやすく、ダイレクトに
感情が伝えられるようになるのではないでしょうか。

 

■手話はひとつではない

これで後藤さんの授業はおしまいです。

今回、後藤さんが教えてくださったのは、
「日本手話」というものです。
手話ネイティブの聴覚障害のある人(ろう者)が
使うことが多いといいます。

これとは別に、
「日本語対応手話」というものがあります。
こちらは、手話ネイティブでない聴覚障害のある人が
使うことが多いそうです。

たとえば、日本手話は
「私は行った。どこかというと、神田。」
という、英語に近いような文法であるのに対し、
日本語対応手話は
「私は神田へ行った」
というように日本語に近い順番の文法です。

ひとくちに「手話」と言っても、
日本の中でも2つ。
正確に言うと、
この2つが混ざった混合手話というものもありますが、
とにかく「手話はひとつではない」ということを、
ぜひ、頭に入れておいてください。

 

■さいごにー「目に見えない障害」を持っている人がたくさんいる

後藤さんは人工内耳を外すと、
まったく音が聞こえなくなります。
それでも、リハビリを重ねて、聞き取る訓練をして、
声に出して話すトレーニングもしました。

つまり、努力をしたことで、
障害が周りの人から見えにくくなっていったんです。

後藤さんは「外から見えない障害がある」
ということを知って欲しくて、
放送局のリポーターになりました。

聴覚障害は、
目に見えない障害とよく言われます。
後藤さんはある程度話せるので、
聞き取りにくかったり、
うまく話せないという困りごとを
なかなか分かってもらえないと感じることもあるそうです。

聴覚障害者は、日本に約30万人程いると言われています。
さらに、老人性難聴ー歳をとってこえにくくなった方、
あと、片耳だけ聞こえ、
片耳はまったく聞こえないという方もいます。
なので、そうした人たちも含めると、
実際にはもっとたくさんいると言われています。

このような「目に見えない障害」を抱えながら、
それでも強く生きている方々がたくさんいます。

後藤さんは、今年の夏、
東京パラリンピックの会場で、
障害のある選手たちの強さ、
すごさを伝える仕事をする予定です。
選手たちの魅力をたっぷり伝えてくださると思いますので、
ぜひ、テレビの前で
後藤さんの活躍を見ていただければと思います。

(つづきます)

手話イラスト:高澤季裕
原稿編集:金沢俊吾

2021-08-25-WED

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