怖いけど、ちょっと気になる。
そしてなぜこんなに嫌われているのかを知りたい。
ゴキブリについてぼんやり考えていたある日、
“ゴキブリスト”と
名乗っている人がいることを知りました。

そこでゴキブリに興味がある人を募って、
ゴキブリスト・柳澤静磨さんに
ゴキブリのこと、
あれこれ聞いてみました。
担当はほぼ日かごしまです。
(ほぼ日の學校の収録を読みものにしました)

この授業の動画は、ほぼ日の學校でご覧いただけます。

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ゴキブリが苦手な人向けに、
写真などをいきなり見せない
ソフトバージョンをご用意しました。
写真がダイレクトに見られる
通常バージョンにも簡単に切り替えられますので、
お好みに合わせてお読みください。

>柳澤静磨さんプロフィール

柳澤 静磨 プロフィール画像

柳澤 静磨(やなぎさわ・しずま)

静岡県磐田市にある竜洋昆虫自然観察公園副館長。
東京都八王子市生まれ。
新潟での学生生活を経て、
静岡県にある磐田市竜洋昆虫自然観察公園の職員となる。
石垣島・西表島での昆虫採集をきっかけにゴキブリ沼にハマり、
ゴキブリの魅力を伝えるべく「ゴキブリスト」を名乗って
普及啓発・研究活動を始める。
現在、100種以上のゴキブリを飼育し、
ゴキブリを求めて世界を旅している。
著書に『ゴキブリ嫌いだったけどゴキブリ研究はじめました』(イースト・プレス)
『愛しのゴキブリ探訪記 ゴキブリ求めて10万キロ』(ペレ出版)、
『ずかん ゴキブリ』 (技術評論社)などがある。

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第5回なぜ嫌われてしまうのか。

柳澤
ゴキブリは害虫としての側面もあるので、
身体能力が高いところは、
害虫を退治する観点で見ると
大変な理由になってしまうんですよね。
──
たしかに、身体能力がすごいのも、
エサがなくても長く生きられるのも
駆除するほうからすると大変ですね。
柳澤
ぼくはゴキブリを探しに海外にも行くんです。
そのときぼくがゴキブリを採るために来たと
その地域の人に言うと、
「なんでゴキブリ!?」みたいな反応されるんですね。
オーストラリアやマレーシアでも動きが嫌いだと。
日本人が特に嫌いだってよく聞くんですけど、
別に海外の人もみんな同じく嫌いなんだなっていうのは
実感しています。
普段ゴキブリを見ない環境にいる人ほど
より苦手にはなるのだと思います。
日本でもそうですが、
田舎で虫が外から入ってくるような家に住んでいる
おばあちゃんとか
平気で手づかみできるが人がいたりする。
一方で、普段ゴキブリに接してない人は
慌てちゃうのかなと。

──
嫌いな人に配慮して
ゴキブリホイホイのような
ゴキブリ退治グッズのパッケージにも
写真は載っていないんですよね。
柳澤
ゴキブリの図鑑をつくるときに
各国のゴキブリ退治のグッズのことを調べたんです。
国によってはゴキブリの写真がしっかりパッケージに
出ている国のもあるんですけど、
イラストやシルエットでゴキブリを表していることが
多いです。
日本もそのタイプ。
やっぱり写真でも見たくない人が多いのかなと。
それを同じ理由で、
表紙にゴキブリの写真が載っていると、
書店員さんが触れないという声があるそうです。
ぼくは本を4冊出してるんですけど、
そのうち3冊は巨大な帯がかかっています。
──
図鑑にも大きな帯がかかってて、
ゴキブリの姿がないんですね。

柳澤
そうなんですよ。
表紙にゴキブリの写真が載っていたほうが
図鑑っぽさがあるので、
表紙にはゴキブリの写真を使いたいとは思うんですけど、
ただ売れなきゃ困るみたいなのもある。
触りやすいように工夫されています。
出版社の方が悩んだ結果、帯をつけているようです。
──
これは柳澤さんに一番聞いてみたかったことですが、
なんでこんなに嫌われちゃっているんですかね?
わたしはゴキブリに特別な思い入れがあるわけでは
ないんですけど、
ほかの虫と比べてあまりにも嫌われすぎていて、
気の毒だなとはつねづね思っています。
柳澤
まずは怖いイメージがあるようですね。
攻撃力が強いとか人間に向かって飛んでくるとかですね。
あとは叩き潰すと子どもがその場で産まれるとか。
あとは1匹見たら30匹いるはずみたいな。
恐怖を煽るような都市伝説があって
ゴキブリ自体のイメージが
もともと非常に良くないと思うんですね。
もうひとつは親とか身近な人がゴキブリに対して
怖いという反応をしていると、
怖いものだと学習してしまう。
教育的な怖がりというのもあるのかなと思います。
これまで一度もゴキブリを見たことがないけど
怖がっている人がいますよね。
それは「ゴキブリっていう怖いものがいる」という
情報で恐怖を感じてしまう可能性があると思うんです。
そこの2つが結構大きな理由なのかなと思います。
──
死なないということはないですよね。
柳澤
昆虫なので死にますね(笑)。
これもイメージが
一人歩きしていることはあると思います。
汚いイメージもありますよね。
ゴキブリからサルモネラ菌などが見つかっているので
菌を持っている可能性はもちろんあるんですね。
ただ今の日本だと衛生環境が整っているので、
そこまで恐れるほどではないのかなと思います。
ただ飲食店とかをやっている場合は
気をつけたほうがいいかなと思いますけど。
彼ら自体が変な病気を持っているわけではないけど、
媒介しちゃう可能性もあるし。

──
1匹見つけたら30匹いるというのは本当ですか?
柳澤
それに関しては場合によります。
もちろんもっといる場合もあると思います。
100匹どころじゃない場合もありますし、
たまたま入り込んできて1匹見つけただけかもしれないで、
1匹いるからといって
絶対にたくさんいるわけではないですね。
人間に向かって飛んでくるという説も、
彼らがぼくたちをびっくりさせようとして
飛んできているわけではなくて
たまたま飛んだ方向に人間がいたんだと思います。
──
一つ一つ冷静に解説してもらうと安心しました。
柳澤
そうですね。
悪いイメージが蓄積されて、
気持ち悪いとか怖いものとかに
なっているのかなと思います。
──
ゴキブリという名前に濁音が2つも入っているのも
良くない気がします。
この前、言語学者の川原繁人さんが
ほぼ日の學校にきてくださったんですが、
その方の授業を聞いて思いました。
柳澤
よく言われますね。
──
よく言われるんですか!
柳澤
2つも濁音が入っているのは
昆虫の中でもめずらしくて、
ゴミムシでも1つなんですよね。
カブトムシでも1つ。
2つついているのはあんまり見つからないんです。
あと濁音が多いのはゲジゲジくらいですね。
──
嫌われるのに名前の影響はあると思いますか?
柳澤
多少あるとは思いますね。
──
人間がつけた名前が嫌われる原因になっているなら
気の毒ですね。
英語だとコックローチと言いますけど、
日本語でもコックローチに近い名前だったら、
こんなに嫌われていないかも。
柳澤
ぼくはゴキブリという生き物をあまり知らないまま
嫌いになっている人が多いと思うんですよ。
いわゆる“知らず嫌い”している人が多いのかなと。
実はいろんな種類がいたりとか
いろんな生活をしている種類がいるのを
知ってもらいたいです。
みんなに好きになってほしいとは思っていないんです。
知ってもらって本当に好きか嫌いかっていうのを
もう1回判断してもらえたらいいなと。

ヨロイモグラゴキブリ(正面)

(つづきます)

2025-05-26-MON

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  • 柳澤静磨さんの著書
    『愛しのゴキブリ探訪記
    ゴキブリ求めて10万キロ』
    (ペレ出版、2024)

    4600種類もいるという
    多様なゴキブリとの出会いをもとめて
    国内だけでなく、海外を旅するようになった柳澤さんの
    サイエンスエッセイ。
    実践的なゴキブリの採集方法をはじめ
    研究者としてどんなことを考えているのか
    柳澤さんの日常が書かれています。

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