
怖いけど、ちょっと気になる。
そしてなぜこんなに嫌われているのかを知りたい。
ゴキブリについてぼんやり考えていたある日、
“ゴキブリスト”と
名乗っている人がいることを知りました。
そこでゴキブリに興味がある人を募って、
ゴキブリスト・柳澤静磨さんに
ゴキブリのこと、
あれこれ聞いてみました。
担当はほぼ日かごしまです。
(ほぼ日の學校の収録を読みものにしました)
ゴキブリが苦手な人向けに、
写真などをいきなり見せない
ソフトバージョンをご用意しました。
写真がダイレクトに見られる
通常バージョンにも簡単に切り替えられますので、
お好みに合わせてお読みください。
柳澤 静磨(やなぎさわ・しずま)
静岡県磐田市にある竜洋昆虫自然観察公園副館長。
東京都八王子市生まれ。
新潟での学生生活を経て、
静岡県にある磐田市竜洋昆虫自然観察公園の職員となる。
石垣島・西表島での昆虫採集をきっかけにゴキブリ沼にハマり、
ゴキブリの魅力を伝えるべく「ゴキブリスト」を名乗って
普及啓発・研究活動を始める。
現在、100種以上のゴキブリを飼育し、
ゴキブリを求めて世界を旅している。
著書に『ゴキブリ嫌いだったけどゴキブリ研究はじめました』(イースト・プレス)
『愛しのゴキブリ探訪記 ゴキブリ求めて10万キロ』(ペレ出版)、
『ずかん ゴキブリ』 (技術評論社)などがある。
第6回新種を7種類発見した。
- ──
- 柳澤さんは新種も発見されたそうで。
生きていて新種を見つける機会ってあまりないですよね。
すごいことですよね。
- 柳澤
- 生き物の新種は
毎日のように見つかっているものなので、
新種を見つけること自体は
そんなに珍しいものではないんです。 - 新種を見つけてメディアに取り上げられるのは
深海の巨大なサメとか
今まで発見がなかった目新しい生き物の場合が多いです。 - ゴキブリに関しては
ぼくが最初に見つけたのが、
日本では35年ぶりの新種だったんです。
- ──
- 35年ぶり!
- 柳澤
- 「35年ぶりの新種」というのもあったんですが、
「新種のゴキブリ」という言葉が
多くの人に刺さったようです。
ちょっとした衝撃ワードだったようで、
新しいゴキブリが出てきたらしいぞみたいに
ネットのニュースなどで取り上げられました。
- ──
- 「新種のゴキブリ」、たしかにインパクトが強いです。
新種発見はやりがいを感じますよね。
- 柳澤
- 自分で名前がつけられるので
やりがいを感じる部分ですし、
今まで見つけていなかった種を“記載”できるのは
非常に面白いです。
新種を見つけることを論文で“記載する”と言います。
- ──
- これまで何種類くらい見つけていますか?
- 柳澤
- 今までは7種類です。
- ──
- 7種類も!
新種に自分の名前をつけたりするんですか?
- 柳澤
- よく言われるんですけど、あまりつけないです。
自分で見つけた種に対して自分の名前をつけるのは
禁止されてないので、
やる人もいるんですけど、白い目で見られちゃうので(笑)
ぼくは基本はやらないですね。 - 新種の発表は、ぼくが捕まえてきた虫に限らないんです。
まだ新種として発見されていなかった虫を
捕まえてきてくれた人がいることがあり、
ぼくがその虫を見て、
「これは別の今まで見つかってない種類だから、
論文にして新種として発表します」とすることもあります。
例えば博物館とか研究所とかに標本だけ残っていて、
見つけた人が亡くなっているパターンもあり、
その中から新種が見つかることもあるんですね。
- ──
- 自分で見つけた虫に限らないんですか。
知りませんでした。
- 柳澤
- そうなんですよ。
その場合は、献名といって
見つけた人の名前をつける形もあります。
献名はぼくもします。 - 今まで蓄積された標本が各地に保存されているので、
その標本をみて「見つかっていなかった種だ」と
新種として発表することもあります。
- ──
- 柳澤さんが記載した7つの新種の中で、
自分が見つけたゴキブリはあるんですか?
- 柳澤
- 標本として見つけるパターンもあるので‥‥
どう数えたらいいんだろう。 - 野外でたまたま虫とりしていて、
捕まえたゴキブリが新種だったのは1種類です。
ぼくらもそれを狙っていたわけではないので
びっくりしましたね。 - 他の種は標本が博物館などに保管されていました。
ただそれが1個体しかないと、
新種として発表することは難しいんです。
たくさんいないといけないので、
それを改めて捕りにいったりしたことが
多いかな。
- ──
- 新種発見のしくみ、知りませんでした。
- 柳澤
- ぼくは台湾に行ったことがないんですけど
台湾の新種を見つけているんですよ。
この前までタイにも行ったことなかったんですけど、
タイにいく前にタイの新種を見つけたことはありました。
そういった形で行ったことないような場所の
種を見つけることがあります。
- ──
- 面白いですね。
ちなみにゴキブリを探すのは夜なんですか?
- 柳澤
- 基本は夜です。
ゴキブリが夜行性の種類が多いので、
夜に探したほうが見つけやすい。
昼間に森に入っていっても、
ある程度は見つかるんですけど、
夜に比べるとかなり効率が悪いんですね。 - 夜にライトをつけて、
活動しているゴキブリたちを探すのが多いですね。
- ──
- ゴキブリは夜行性というのも
怖くなりますね。
家の中で真夜中に動き出しているような
想像をしてしまいます。
- 柳澤
- 夜行性の昆虫はかなり多いです。
天敵が少ない時間に動く虫が多いですから。
- ──(同席した乗組員から質問)
- 質問していいですか?
ゴキブリはなんでこんなにすごいんだろうと思いました。
速いし飛べるし、1か月食べないでも平気とか。
このように進化してきたのはなぜでしょうか?
- 柳澤
- ゴキブリは天敵が多いんですね。
- ゴキブリはどちらかというと食べられる側の生き物なので、
どうにか食べられないようにしないといけない。
そのためスピードが上がったり、
尾角という空気の流れを感知したりする能力に
つながっているのかなと思います。
- ──
- ゴキブリって食べられる側なんですね。
- 柳澤
- ゴキブリを利用する生き物ってすごく多いんですよ。
例えばクモ。クモって肉食の種類が多いので、
家の中に出てくる大きなアシダガグモは
ゴキブリを食べることで知られています。
ほかにもいろんなクモがゴキブリを食べます。 - あとは蜂の仲間で、
エメラルドセナガアナバチ、
エメラルドゴキブリバチって呼ばれたりもするんですけど
ハチの仲間がゴキブリを捕まえて
麻酔をかけて幼虫の餌にするという種類もあります。 - 有名なところでは
イリオモテヤマネコという西表島に生息をしている
貴重な猫はゴキブリも食べています。
イリオモテヤマネコのうんちを
水の中で溶かすとゴキブリが出てくるんですね。
ゴキブリの消化できなかった部分が残っているので
結構な数のゴキブリの死体が出てくる。
ゴキブリを食べている生き物ってかなり多いんです。
- ──(同席した乗組員から質問)
- ゴキブリの研究って何をしているんですか?
採取したり分類したりしているとさきほど言ってましたが、
ほかにしていることがあれば教えてください。
研究で何をしているのかが一般人からするとわからなくて。
- 柳澤
- このグループがこのグループと近いとか
分類をやるんですけど、
それ以外にぼくは生態を知ることも好きなので、
飼育をしてゴキブリがどんな生活を送っているかを
調べています。 - 例えば冬をどの状態で越すのかわかっていない種類は
結構いるんですね。
そういったのを飼育で確かめるのもやっています。
- ──
- ゴキブリの研究者になるには
どんな勉強をしているんですか?
- 柳澤
- 勉強はですね。
どこが分類の鍵になるのかを勉強しています。
どこの特徴が違えば別の種類として
判断していいのかというのは
種類によって違うんですよね。
なので、先人たちが書いてきた論文を読んで
分ける特徴を調べたりしています。 - あとは一番いいのは大学に行って
分類学を専門にしている先生のところで
教えてもらうのがいいと思います。 - ぼくは大学に行っていないので、
法政大学の島野智之先生に
教えていただいています。
ほかにも鹿児島大学の坂巻祥孝先生に、
助けていただきながら研究をしています。
- ──
- ありがとうございます。
もっとゴキブリのことを聞いてみたいところですが、
そろそろ終わりにしましょうか。
まとめの言葉をおねがいします。
- 柳澤
- ゴキブリって嫌われがちな生き物だと思うんですけど、
彼らがいないと
森の中で木が腐らないとか分解が進まないということが
起きてくるんですね。
だから人間にとって重要な生き物なんです。 - 無下に嫌わずにちょっと知ってみると
彼らに対する目線も変わってくるかなと思います。
興味のある方は、ぜひいろんなゴキブリを
調べていただけたらいいかなと思います。
- ──
- 今日はあまり深く知る機会がなかったゴキブリのことを
知ることができて楽しかったです。
ゴキブリがすごい能力を持っていて、
生き物や人間にも影響を与えていることを
知ることができました。
ゴキブリのことを新たな目で見ることができそうです。
ありがとうございました。
(読んでいただきありがとうございました。終わります)
2025-05-27-TUE
-

柳澤静磨さんの著書
『愛しのゴキブリ探訪記
ゴキブリ求めて10万キロ』
(ペレ出版、2024)4600種類もいるという
多様なゴキブリとの出会いをもとめて
国内だけでなく、海外を旅するようになった柳澤さんの
サイエンスエッセイ。
実践的なゴキブリの採集方法をはじめ
研究者としてどんなことを考えているのか
柳澤さんの日常が書かれています。
