
ホストクラブ、キャバクラ、シャンパンタワー‥‥
現実から一歩離れたような場所、新宿歌舞伎町を、
ライターの佐々木チワワさんは
「社会学」の視点で研究しています。
自身も歌舞伎町の住人でありながら、
冷静に夜の街を見つめる佐々木さん。
お金でつながり、演技し合う歌舞伎町の人間関係の裏には、
「現代の誰もが持っている本心」が隠れているといいます。
知らなかった歌舞伎町が見えてくるお話、
ほぼ日の玉木がうかがいました。
佐々木チワワ(ささき・ちわわ)
文筆家。2000年生まれ。
慶應義塾大学総合政策学部卒業、
立命館大学院社会学研究科在学中。
高校生の頃から歌舞伎町に足を運び、
トー横キッズやホストクラブの現場を取材し、
「歌舞伎町の社会学」を研究。
自身もホスト通いを重ね、
消費者としても参与観察を続ける。
著書に『「ぴえん」という病』(扶桑社新書)、
『歌舞伎町モラトリアム』(KADOKAWA)、
『ホスト!立ちんぼ!トー横!
オーバードーズな人たち』(講談社)
『歌舞伎町に沼る若者たち 搾取と依存の構造』
(PHP新書)がある。
- ──
- ご著書では「歌舞伎町という町が映す姿は、
極端なようでいてじつは私たちの社会そのものだ。
消費によってつながり、
自分の価値を見出している」と書かれていました。
歌舞伎町をフィールドワークすることによって
捉え直すことができる、
いまの社会全体の特徴とは、どんなものでしょうか。
- 佐々木
- たとえば、歌舞伎町のなかでは
容姿が明確にお金に関係してくるので、
一般社会でのルッキズムに敏感になりました。
SNSを見ていても、「歌舞伎町的な価値観」が
一般にどんどん広まってきている感触があります。
いま一般的になりつつある美容界隈の用語に
「スペ110」っていうものがあるんですよ。
聞いたことありますか?
- ──
- いや、知らなかったです。
- 佐々木
- これは「身長-体重の数字が110以上だと細い」
という、一種の指標です。
もともとは、ネットでスカウトをする人が、
女性を風俗店やキャバクラに紹介するときに
使っていた基準なんです。
「スペ」は「スペック」の略で。
体型を表す数値をスペックと呼ぶこと自体、
健康的な容姿ではなく「稼げる容姿」に価値を置く
考え方の象徴だと思います。
痩せて、より高価なお店で働くのを目指すことを
「スペ上げ」と呼ぶんですが、
ダイエットが目的ではないんです。
「ダイエットをしてより稼げる容姿になる」
ことが目的。
歌舞伎町は極端ですけど、勉強や自己啓発も、
ある意味では資本主義の社会でより稼ぐための
「スペックを上げる」行為といえますよね。
その意味では、誰もが普段からやっているけど、
なんとなく後ろめたくて言わないことが、
歌舞伎町では「努力」として認められやすいんです。 - 「歌舞伎町の価値観は理解できない」と思う方は
いらっしゃると思いますが、
歌舞伎町の価値観を細かく見ていくと、
意外と誰もが持っている価値観を肥大させただけ、
ということはあります。
歌舞伎町での考え方が関係ない人は、
たぶんいないと思います。
人間関係が崩れて寂しくなったときに、
お金さえ払えば自分を見てくれて、
話を聞いてくれるという場所があったら、
行く人は行く。
一回で満足して帰る方もいれば、
居心地がよくなって
「この夢の国から出たくない」という方もいます。
多かれ少なかれ誰も無関係ではない、
一般の社会と地続きな街なんだなと感じます。
「歌舞伎町」のイメージが
これだけ確立されている時点で、
一般社会の日常のなかに息づいている街
なんじゃないかなと。
- ──
- 歌舞伎町は「資本主義の極致」でありながら、
その一方で、誰でも受け入れてくれる町という面も
あるんですね。
- 佐々木
- そこがすごく面白いなと思います。
ホストって、じつは採用基準がないお店も多くて、
けっこう、誰でも応募すればなることはできるんです。
着のみ着のまま、学歴も肩書もなくても、
「何者かになろうとするステージ」に
上げてくれる街、という意味では、
非常に平等な場所だなと感じますね。
それから「同じ歌舞伎町の人間なら助け合おう」
「歌舞伎町で女の子が泣いてたら、
99%は男に泣かされてるので、優しくしよう」
みたいな感覚があって。
私は、渋谷で知らない人が酔いつぶれてても
話しかけられないかもしれないけど、
歌舞伎町だったら「大丈夫ですか」って
水を渡すと思うんです。
歌舞伎町のなかには
「同じ学校のキャンパス内」くらいの
共同体意識がある気がします。 - でも、そのゆるい相互扶助の関係にも
「いつかお金になるかもしれない」
という期待がないとはいえないですし、
歌舞伎町でなんらかの関係性をつくるとなったら、
やっぱりお金がすごく強い力を持ちます。
貸し借りの額も大きいです。
「貸しても返してくれるだろう」という担保が、
信用や住所や学歴ではなく、
「その身体でどこまで稼げそうか」にあるんです。
そんなふうに、「与信管理が甘いゆえの相互扶助」が
成り立っているんですよね。
そこは面白いなと思いつつ、
担保が「風俗に飛ばす前提の体」だったら、
もちろん問題なので、
規制はしかるべきだとも思います。
- ──
- お話をうかがっていると、
佐々木さんの研究のモチベーションは、
「歌舞伎町をよくしたい、もっとこうしたい」
とは関係なく、歌舞伎町への純粋な関心なんだなと
感じます。
- 佐々木
- そのとおりだと思います。
私自身、なんでこんなに歌舞伎町が好きで
ホストが好きなのかを、
きれいに説明できないところがあるんです。
それもあって、
いろんな人の話を聞きたいのかもしれないですね。
あと、みんな歌舞伎町という町にどんな幻想を
抱いていて、それによって人はどう変化していくのか
にもすごく興味があります。
その幻想はAIでどこまで代替できるのかとか。
そうすると人間の身体性の話にもなってくるので、
そもそも、人間の根源的なものに
関心があるのかもしれないですね。
(明日に続きます)
2026-05-06-WED
